紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

わちきのひじりさま(2)

『あら、雨ですね』

一人、里に向かって歩いていた聖がつぶやいた。

ぽつりぽつりと落ちてきた。

いつものように聖をつけていた小傘。

聖の綺麗な髪に雨粒がくっつき始める。

ややあってから飛び出した。

『ねえ、あちきの傘に入っていいよ』

『ありがとう、とても助かります』

『この傘、へ、変じゃない?』

『滅多に見ない色ですね、私もこんな個性的な傘が欲しいです』

『ホント? 欲しいの? ホント?』

『本当です』

『ホントにホント?』

『本当に本当です』

『じゃあ、じゃあ、この傘』

『ひじりさまー、こんにちわー』

蛇の目傘をさした里の子が二人、聖に話しかけていた。

聖も愛想良く応対する。

『おつかいですか? 雨降りなのに感心なことですね』

『ひじりさまー、変なカサだね』

その一言で身動きできなくなった小傘。

子供の無邪気さは時に残酷だ。

『そうですか? 私はとても気に入っているんですよ』

聖の回答に子供達は納得がいっていないようだ。

『変だよ』『変だよなー』

そう言いながら聖が来た道を歩き去っていった。

聖に傘をさしかけながら下を向いてしまった忘れ傘。

『ねえ聖、この傘、あちきって変なんだよね・・・・・・

だから捨てられちゃったんだしさ』

『さっき、欲しいって言ってたけど、聖もいらなくなったら捨てちゃうの?』

上げた顔、色違いの両目からぽろぽろと涙がこぼれている。

聖はゆっくりと首を振っている。

穏やかだが力強い否定。

『ホント!? ホントにホントにホント!? 捨てない!?』

『本当に本当に本当です。私はこんな傘が欲しいです』

『じゃあ! じゃあ! あち、ワタシをあげます!!! もらってください!』

聖が小傘を伴って出かける。

雨の日は必ず出かける。

小傘、お願いしますね。

かしこまりました!

必要とされる喜び、所有者として申し分のない人物に巡り会った。

小柄な小傘の歩調に合わせてゆっくりと歩く。

はじめは聖と呼んでいたが、今は『ひじりさまー』。

身近で起こった他愛のないことをまくし立てる傘化け。

その話に穏やかに相づちを打つ僧侶。

その日は急な雨降り。

里長の家を訪れていた聖白蓮は空を見上げる。

里長が言う。

傘をお貸しいたしましょう。

ありがとうございます、でも大丈夫なのです。

軽く呪文を唱える。

命蓮寺で待機していた小傘の傘の裏に文字が浮かぶ。

『里長の家にいます。迎えにきてください』

出番だ!

お待たせしましたー!!

すっ飛んで来た傘化け。

小傘、いつもありがとう。

聖にぎゅっと抱かれて嬉しそう。

ある日、境内をうろちょろしていた傘化けを呼び止めた命蓮寺の守護者。

『アナタ、姐さんのお役に立っているようだね。名前は?』

頭巾の女妖が小傘を見下ろしている。

小傘は緊張しながら答える。

『こがさ、多々良小傘』

『ふーん、小傘ね。

私は、姐さん、聖白蓮の役に立つモノ、大事にしているモノを守るのが役目なの。

私の名は雲居一輪。

小傘、これからは困ったことがあったら私に言いなさい』

そう言って初めてニッコリ笑った。

(あ、ああー!? 優しそうな顔だー! このヒトホントは優しいのかも)

雲居一輪は聖白蓮に心酔している。

彼女の目指すもの、大事にしているものは身命を賭けても守ると決めている。

そして、妖怪擁護の聖に感化され、聖白蓮を慕う、特に力の弱い小妖は自分が守るのだと誓いをたてている。

この傘化けも守る対象になった。

誰にも言ってはいないが、このちょっと抜けているが人懐っこく明るい傘化けが結構気に入っていたりする。

(小傘も怖がらせちゃったから時間がかかるなあ、まあゆっくり付き合うか)

小妖たちに最初はいつも怖がられる自分。

分かっている。

おかしなヤツは姐さんの側に寄せられないもの。

怖い顔だってするし、厳しい態度もする。

でも、本当に姐さんを慕うのならソイツは仲間だ、必ず守ってみせる。

昼下がり。

寺務所で命蓮寺メンバーがくつろいでいる。

一輪、ムラサ、ぬえ、マミゾウ、そしてナズーリン。

「こんちわーー」

愉快な忘れ傘が元気よく戸を開けた。

お寺の主力が屯している空間に少し怯んだ小傘だが、気を取り直す。

「い、一輪姉さん、今日はお夕飯いただいてもいいですか?」

すがるように訊ねる。

「ほう、一輪【姉さん】と、きたのう」

マミゾウが面白そうに言えばぬえが答える。

「手懐けているみたいだからねぇ」

未だ得体の知れないEXコンビが茶化す。

一輪は気にしないようにして小傘に微笑みかける。

「小傘、もちろん構わないわ、今日はゆっくりしていらっしゃい」

「夕飯を作るのはご主人なんだがな」

「一輪は小さい妖怪に甘いからねー」

ネズミの賢将が言えば船長がかぶせる。

なんとなく一輪がからかわれていると感じた傘化けがフォローを試みる。

「一輪姉さんはとっても優しいんだよ! いつも飴ちゃんをくれるんだよ!」

一輪を守ろうとする健気な小傘がおかしくて、ナズーリン、ムラサ、ぬえ、マミゾウが

それぞれに言う。

「餌付けだ」

「餌付けね」

「餌付けじゃん」

「餌付けじゃの」

「こ、小傘、何を言っているの!?

えーっと、傘とアメは相性が良いのよ……って分かるでしょ?」

「こじ付けだ」

「こじ付けね」

「こじ付けじゃん」

「こじ付けじゃの」

「ステキな一輪姉さんを悪く言わないでよ!」

「懐いているな」

「懐いているね」

「懐いてるじゃん」

「懐いておるの」

「小傘、うれしいんだけど、それ以上はもういいの!

あの、なんだか恥ずかしいから……」

「ダメだな」

「ダメね」

「ダメじゃん」

「ダメダメじゃの」

尼僧に拾われた雨傘。

聖白蓮の大事なモノだからと言う理由付けをしながらも多々良小傘を一番可愛がっていいるのは雲居一輪だったりする。

命蓮寺のたわいない話の一つ

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