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命蓮寺の三勇士(2)

「あー、なにあれ?」

小傘が指さす空に黒い塊がふよふよと漂っている。

ほぼ球形の黒い塊、直径は数メートルはあろうか。

「あれは妖怪だね」

ナズーリンが答える。

暗闇妖怪ルーミア。

さほど強いわけではないが、今は封印された状態とも聞くし、本来はかなりヤバい妖怪だとも聞く。

すすんで関わる必要はないだろう。

「あの暗闇の中の妖怪は外の様子が分からないようだね。

時間もない、黙って通り過ぎるとしよう」

二人が素直にコクコクと頷く。

三人が歩き出すと、辺りが急に冷え込んできた。

ナズーリンが小さく舌打ちをする。

(確かに湖の近くだし、アイツのテリトリーだけど、実にタイミングの悪いことだな)

「おーい! ルーミア!」

氷精チルノだった。

「ルー……あ、ナズーリンじゃんか!」

こちらに気づいてしまった。

最強妖精が降りてきた。

一段と冷え込んだ。

勝ち気そうな瞳で命蓮寺の一行を睨みつけている。

「ナズーリン、今度は手下を連れて挑戦か!?

あたいはいつでも受けて立つよ!

また、負かしてあげるからね!」

腕組みしてふんぞり返っているチルノの横に闇フィールドを解除したルーミアが降り立った。

「チルノ、どうしたんだー?」

「勝負だよ!

だんたいせんになったらルーミアも手伝ってよ!」

「おおー」

あちゃーっと額に手をやるナズーリン。

面倒なことになってきた。

「ナズーリン、あのコに負けたの?」

「う……まぁ、そう言うことになるのかな」

寺の縁日でアイスキャンディー製造をチルノに頼んだ際、なぞなぞ勝負を挑まれ、さんざん振り回された。

チルノの頭の中では【ナズーリンに勝った】ことになっており、ネズミ妖怪は自分より頭の悪い格下の相手として刷り込まれている。

「それなら私たちが仇をとってあげるよ!」

「そうだ、そうだー!」

小傘と響子がファイティングポーズを取る。

「まぁ、待ちたまえ、今日はこんなことにかまけている場合じゃないだろ?」

「あ、そうだ、こーまかんに行かなくちゃだ」

「そーだねー! 今日のところは見逃してやるかー!」

そのやりとりを聞いていたチルノが怒鳴った。

「逃げるつもり!?」

闇と氷のコンビ、そこそこ強く、意外とやっかいだ。

ここは力押しでは通れないと見て取ったナズーリン。

「二人ともミスティアが呼んでいたよ?」

もちろん嘘。

ここは命蓮寺に縁があり、取引もあり(雀酒といなり寿司の物々交換だが)ナズーリンとも親交のあるミスティア・ローレライに仲立ちを頼むことにした。

「みすちーが?」

「屋台で奢ってくれるそうだよ、食べ放題だってさ」

言いながらメモに状況を書いているナズーリン。

メモをちぎって小さく折り畳み、チルノに渡す。

「この手紙をミスティアに渡すと良い。

間違いなく奢ってくれるよ」

「ホントかー!? ラッキー!!」

「うなぎだー、うなぎだー」

ミスティア・ローレライは小妖だが、道理をわきまえ、ヒトの気持ちを思いやれる娘だ。

ナズーリンの【手紙】を見れば理解してくれるはずだ。

だが、チルノとルーミアの飲み食いの分は、後日ナズーリンが払わなくてはならないだろう。

(やれやれ、つまらない出費だな)

厄介なチンピラをやり過ごして湖のほとりに出た一行。

本当なら紅魔館まで飛んで行けば済むところだが、幽谷響子は実はそれほど飛ぶのが得意ではない。

空妖に近い小傘や、何千年も探索行をしてきたナズーリンにとっては何という距離ではないが、響子にとってはかなりシンドい道のりだった。

それに気づいていた優しい小傘は何も言わずに徒歩での進軍を選んだ。

もちろんナズーリンは異を唱えなかった。

対岸に紅魔館が見えてきた。

「ここらで腹ごしらえをしておこうか」

ちょうどお昼時、寅丸星から持たされお弁当を広げる。

小振りのチャーハンおにぎりが三つずつ。

炒り卵、焼き豚の細切れ、京人参、ネギ、柴漬け。

ぱくぱく むしゃむしゃ

「寅丸さんのお弁当、おいしいよねー。

寅丸さんって、ちょっと慌てモンだけど、お料理じょーずだし、とっても優しい」

「そうだよねー!

ぼんやりしてるけど美人で力持ちだし!

ご飯! とってもおいしいー!!」

色々と引っかかる物言いだが、寅丸星の従者で恋人であるナズーリンは黙って聞いている。

(見た感じだけだとそんな印象なのかな、ご主人の本当の魅力は…………まぁ、いいか)

紅魔館の入り口に大柄な女が立っていた。

響子がいつものように元気よく挨拶する。

「こおん、にちわーー!!」

ちょっとビックリしながらも挨拶を返す紅美鈴。

「はいはい、こんにちは、元気がいいですねー。

いらっしゃいませー。

……おっとと、そうじゃなかったですね。

えーっと、……私は紅美鈴(ほんめいりん)!

この紅魔館に何用ですか!?」

門番として最低限の職務を果たそうとする。

「かそだに、きょーーこ、でーす!!」

「多々良小傘でーす」

「そうですか、きょうこさんに、こがささんですね?」

相手の目を見ながら丁寧に挨拶を返す。

その後ろで軽く手を振るナズーリンに美鈴は会釈した。

こちらは顔見知り。

「このヒト、なんだか寅丸さんみたーい!」

山彦が言ったら、化け傘が同調する。

「そーだね、大きくてノンキそうで優しそうだよね」

(まぁ、確かに雰囲気は似ているけどね)

ナズーリンは複雑な表情。

愛する主人が褒められているのか、馬鹿にされているのか、判断が微妙なところだ。

小傘と響子が美鈴をじっと見ている。

顔ではなく、胸の辺りを。

小傘が囁いた。

(ねえ、このヒト、おっぱい、大きいよね)

「うん! でかい! でっかーい!

ぱいおつ、かいでー、かいでーっ!!」

この山彦にひそひそ話は無理だ。

「なにそれ?」

「ギョーカイよーごだって、ぬえさんが言ってたー!」

「寅丸さんと同じくらいかな?」

「そーかもー! どっちがでっかいかなー!?」

そう言って改めて門番の胸をまじまじと見つめる。

美鈴は思わず胸を隠した。

幻想郷の【乳八仙】の一人と謳われているらしいが、面と向かって言われるとさすがに恥ずかしい。

「くおらっ! キミたち! 失礼にもほどがあるぞ!

女性の美しさ、特に固有の部位は陰で愛でるものだ!

じろじろ眺めるなど不作法にもほどがある!

それに、ご主人のは美鈴どのより質量は一割減だが、ハリと艶は勝っている!」

「ナズーリン、よく分かんないよ」

「そーだよー! なにが言いたいんだー!?」

美鈴も胸を隠したまま、汚らわしいモノを見るような顔でナズーリンを見ている。

(し、しまった、ご主人の乳の話題が出たから我を忘れてしまった。ここは話を逸らさねば)

「ま、まぁ、この話はどうでもいいだろう。

美鈴どの、我々のことは聞いておられるかな?」

少し前に来館した姫海棠はたてから、そして十六夜咲夜からも来客の予定を聞いていた紅美鈴がうなずく。

「はい、うかがっております、お通しするようにと」

まだ胸を隠している美鈴に小傘が問いかける。

「ねえ、美鈴さんはどんなお仕事しているの?」

「私は門番です、この館にやってくるヒトの出入りを見張り、不審なモノには声をかけ、用件を問いただします」

「じゃあ、私とおんなじだー!」

響子が、そのくりくりした目を美鈴に向けた。

「え? そうなんですか?」

「私、お寺の門でおそーじしてるのー!

来るヒトにごあいさつして、ご用件を聞いてるの!」

「それでは響子さんとは同業者、ご同業ですね」

体の緊張を解いた美鈴が少し屈み、響子の目線にあわせながら穏やかに言った。

「ごどーぎょー、ごどーぎょー!」

嬉しそうにぴょこぴょこ跳ね回る山彦。

楽しそうな二人を見て、ちょっと寂しくなった小傘が遠慮がちに言った。

「あ、あの、あちきも、お寺のお墓の番人……みたいなことしてるんだよ」

「では、私たち三人は門番組合ですかね」

小傘に向き直ってニッコリ笑った。

「くみあい?

よくわかんないけど、仲良しってこと!?」

「そう言うことですね」

美鈴の穏やかで包容力のある雰囲気にあっと言う間に打ち解けてしまった二人。

この風景を見て、これはこれで良し、うんうんと頷くナズーリンだった。

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