紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

命蓮寺の三勇士(3)

「ところで皆さん、お通しするよう言われていますが、ご用はなんですか?」

一頻り手を取り合って喜んだ後、美鈴が本来の職務を思い出して言った。

「私たちはこれから吸血鬼を退治するんだよ」

(へえー、って……なんですかそりゃ)

こんな小妖に退治される主人ではないし、通して良いとも言われているが、【退治する】って言われて、ホントにすんなり通してしまっていいのかな?

後でメイド長にしこたま怒られるんじゃないかな?

「だから違うって! 会ってアイサツするだけだろ!」

懊悩している門番に判断の突破口が提示された。

(うん、そうよね、アイサツだけなら通して良いわよね)

ちょいちょい訪れるネズミの妖怪。

先ほどのお乳の話には驚いてしまったが、紅魔館では賓客扱いだ。

当主とその妹の関係を飛躍的に改善させ、図書館魔女の恋愛事情をいー感じに後押ししていると聞いている。

そしてなんと言ってもあの排他的なメイド長がどう言う訳か絶大な信頼を置いているらしい。

つまり、紅魔館にとってはベリーウエルカムなお客。

ただ、近隣のイタズラ妖精たちからの評価は高くない、いや低い。

特にチルノは『ナズーリンっていうネズミは頭が弱いからいじめちゃダメだよ』と言っていた。

このギャップ、訳が分からない。

「ところで美鈴どの、つまらないものだがこれを受け取ってほしい」

ネズミ妖怪から手渡された四角い包み。

「開けてよろしいんですか?」

「もちろん」

和菓子の詰め合わせだった。

寅丸星特製のとらまる焼きが五つ、その他に、豆大福、芋羊羹、落雁、霰餅が品良く詰められている。

和菓子に目のない紅美鈴にとっては宝箱に匹敵する。

「あ、あの! これ、これって!?」

「今後とも色々よしなに取り計らっていただきたい」

これは完全な賄賂だ、受け取ったことが主やメイド長にバレたらモノスゴく叱られるだろう。

……いや? 叱られるだけですむなら、この宝石箱は十回分の叱責にも勝るんじゃないか?

美鈴の激しい葛藤を見越したように鼠悪魔が囁く。

「もちろんレミリアどのや咲夜どのには内緒のことさ」

そう! それが聞きたかったのだ!

そこんところが保証されるなら迷うことなど何もない。

収賄に手を染める決心をした悪代官紅美鈴(w)。

「ないしょだよ」

「なーいしょ! ないしょー!」

小傘と響子も請け負ってくれるようだが、却って不安が再沸してきた。

(ホ、ホントにだいじょうぶかしら?)

そんなこんなで門をくぐった命蓮寺の三勇士を玄関前で待っていてくれたのは幻想郷が三千大世界に誇るスーパー・アルティメット・メイド、十六夜咲夜だった。

「命蓮寺のご一行様、ようこそいらっしゃいました。

当館のメイド頭、十六夜咲夜でございます」

よく響くメゾソプラノと完璧なお辞儀で迎えてくれた。

「こんちわー、あ、このヒト、このあいだお寺に来たおねーさんだよね?」

「あ! そうだ! あのときの美人のおねーさんだー!」

以前、ナズーリンを訪ねてやってきた美の化身のことを二人とも覚えていた。

まあ、忘れられるはずもないのだが。

今度は咲夜の顔をまじまじとみる化け傘と山彦。

「うわ! やっぱ! びっじーーん!!」

「ほわあー」

そばで見ても美しい、ドアップに耐えられる。

と言うか十六夜咲夜に至近距離で見つめられながら何か願い事を囁かれたらいったい何人が抗えるだろう。

しかし先ほどの美鈴の時といい、今回といい、この二人、素直というか無遠慮というか。

ナズーリンはヒヤヒヤ、ハラハラしっぱなしだ。

「恐れ入ります」

小妖たちの賞賛を余裕で受け止める月華麗人。

咲夜は、美人といわれることには慣れている。

このように記すといかにも傲慢に聞こえるが、彼女自身、実は外見の美醜にさほど頓着していない。

立ち居振る舞いや、考え方、その生き様の美醜こそが遙かに大事であるとの信念に従って生きているからだ。

だから己の外見を褒められても、照れもしないし、自惚れもしない。

つまり、並の美人さんとは最初から立っているステージが違うのである。

でなければ幻想郷で唯一の黒い星五つは冠されない。

《注※黒い星五つとはナズーリンのイイ女評価の最高点》

「優しそうで、スゴい綺麗なおねーさんだよね。

ひじりさまと同じくらい綺麗」

「ホント、ホントー!」

これは聖白蓮至上主義、ひじりさまだいすきーの小傘たちにとって最大級の賛辞である。

「こら、あんまりはしゃぐんじゃないよ、迷惑だろ。

それにキミたちはこのヒトの恐ろしさを知らないんだ」

「ナズーリン、バッカじゃないの?

こんな綺麗なヒトが怖い訳ないじゃん」

少し釘を刺そうと小声で忠告したナズーリンに思いも寄らないカウンターが返ってきた。

ちょっと引きつりながらも努めて冷静に助言めいたことを言ってみるネズミ妖怪。

「綺麗なバラにはトゲがあるんだよ」

「綺麗なバカにはボケがあるの? なにそれ?」

「カレーのバナナはコゲがあるの!? へんなのー!」

もう、なにがなんだか。

たとえ話は意味を成しそうにない。

咲夜には何度も怖い目にあわされているナズーリンは再び小声で爆裂コンビに告げる。

「咲夜どのにきちんとご挨拶したまえ。

そして、いいかい?

くれっぐれも余計なことを言うんじゃないぞ!」

「おーけー、おーけー まかしといて」

「まっかせって、おっきたっまへーー!」

うわ……スゴく不安。

「ナズーリンがいつもお世話になっております」

「おせわになってまーーす!」

二人とも両手を前で揃えてぺこりとお辞儀した。

おっ、なかなか良いじゃないか。

「こちらこそナズーリンさんには並々ならぬご厚情を賜っております」

「いえいえこちらこそ。

ナズーリンの枕元には咲夜さんの写真がおいてあって、なんだか色々お世話になっているんですよー」

爆発した。

大都市の中心部で最大級の傘爆弾が炸裂した。

どれほどの被害になるのか想像もできない。

さすがのナズーリンでも咄嗟に反応ができない。

「私の写真ですか?」

咲夜が先に反応してしまった。

「ま、待て! あれは違うんだ! 人里の茶店から女給にメイド服を着用させてみたいと相談されて、メイドの完成体である咲夜どのの姿を参考にユニフォームのデザインを考えていたのだ!」

いささか説明臭いが、これは本当のことであった。

小傘がなぜ咲夜の写真をナズーリンの居室で見つけたかは分からないが、今はそれどころではない。

いまだ大炎上中のナズーリン市はようやく緊急防災宣言を発する。

二次災害は絶対起こしてはならない。

「おい! このことはご主人には漏れていまいな!?」

「寅丸さん? 知らないんじゃないかな?」

寛容で聡明な寅丸星は、ナズーリンが他の女性と一緒にいても何も言わないが、十六夜咲夜だけは別だった。

本能が言っているのか、あるいは咲夜のポテンシャルをある意味一番理解しているからか、咲夜が絡むとただごとではないほどヤキモチを焼く。

ナズーリンを信じている、でも、十六夜咲夜はとっても危険だと感じている。

あの完璧メイドが本気になったら最愛のナズーリンを奪われてしまうのではないか。

思い込みの激しい寅丸星は二人の接触に過敏に反応、いや、あからさまに警戒している。

だったらナズーリンを紅魔館に行かせるなよ、と言いたいが、そこは【うっかりタイガー】。

小傘と響子のため、と思ったときには咲夜のことを失念していたわけ。

ホントお人好しな【うっかりタイガー】。

そんな寅丸星の間違った思い込みをなんとなく理解していたナズーリンは主人を悩ませたくはないので、なるべく十六夜咲夜とは距離を置くようにしていた。

なのに、なぜかニアミスが多い。

それも毎回毎回命が削れるほど際どい接触なのだ。

「ナズーリンさんが私の写真を……

これは私の自慢話にさせていただきますね」

そう言って、ホントに嬉しそうに微笑んだ。

クラっ、とするほどキレイな笑顔だ。

小妖三人はパカっと口を開けて見入っている。

最初に正気に戻ったネズミが訴える。

「ちょっ! ちょっとー! 他言は勘弁して欲しい!」

咲夜にとってナズーリンは紅魔館の危機や難題を奇跡のように解決してくれた夢のスーパーヒーローなのだ。

そしてほとんど見返りを求めないストイックな無敵の勇者にして万能の賢者。

咲夜の信念に照らせば、ナズーリンこそが真に美しく、素晴らしい、憧れの存在なのである。

思い込みや勘違いが、たっっっくさんあるが。

「でも、賢将ナズーリンさんが私の写真を愛でてくださるなんて、幻想郷の中心で声高に自慢したいです」

「だから! 待ってって!!

ねえ!? 私の説明、聞いていたでしょ!?」

どうしていっつもこのヒトは肝心なところを抜かして勝手に解釈するのか!?

咲夜の重心が後ろに移った。

このまま逃げられたらマジヤバい。

追いかけようと前に出たナズーリンはぴょこぴょこ落ち着きのない響子の足にけっつまづいた。

ぽふ、思わず抱きついてしまった。

十六夜咲夜に。

「こ、これは失礼!」

慌てて離れようとして見上げた先に魔瞳があった。

「光栄でございます」

ぎゅ。

咲夜に優しく抱かれている。

身動きができない。

ほんのりと香る上品なフレグランス、しなやかな肉体、そしてすべてを溶解させる強く妖しい瞳。

(あ……なにもかも持って行かれそう……)

♪いーってやろ〜いってやろ〜寅丸さんにいってやろ

♪いーってやろ〜いってやろ〜寅丸さんにいってやろ

地獄の童歌(合唱)が聞こえてきた。

♪いーってやろ〜いってやろ〜寅丸さんにいってやろ

♪いーってやろ〜いってやろ〜寅丸さんにいってやろ

ようやく我に返ったナズーリン、咲夜から身を離す。

「た、たのむ! 言わないでくれ! たのむーー!!」

何とも情けない懇願。

血の出るような熱弁(詭弁)でなんとか四方を丸く納めたナズーリンがようやく本題を口にする。

「して、レミリアどのは?」

「お嬢様はまだお目覚めではありません。

もう少しだと思いますので、その間、図書館に行かれてはいかがですか?

はたてさんもいらしてますよ」

(この二人を図書館に? 面倒なことになりそうだなあ)

激闘を終え、疲労困憊のナズーリンだが、休息の時はまだ先になりそうだった。

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