紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

命蓮寺の三勇士(5)

「めーざーすーわ こーまかーん」

「きゅーけつきーを やあっつけーろー」

「キミたち、まだそれを歌うのかい?」

ついにラスボスの登場、今回のクエストの最終目標だ。

なのにこの緊張感のなさはなんなのか。

(いくら根回ししてあると言っても、あまりふざけていると紅魔館の住人たちに失礼してしまうよな。

やはり、少しは怖い目を会わせた方が良いのかな。

仕方ない……レミリアどのに一枚かんでいただくか)

色々とバランスに悩む苦労性の献将、いや賢将だった。

「こちらでございます」

十六夜咲夜が案内してくれたのは上等な客室だった。

戸を開けたメイド長に続いて三人が入室する。

広い部屋の奥正面の大きな椅子に腰掛けている。

フリルの多い白いドレスをまとった少女が。

「ようこそ命蓮寺の勇士たち。

私が紅魔館当主、レミリア・スカーレットよ」

声は少女のものだが、一言一言が心の敏感な部分に響いてくる。

三人を順番にゆっくりと眺めるレミリア。

ナズーリンのところで少し時間をとった。

ネズミ妖怪が化け傘と山彦をちょんちょんと指さし、もう片方の手で自分の胸の辺りを掴む仕草をしている。

「そこのネズミは見たことがあるわね。

今日は何の用向きかしら?」

普段はお互いを【レディ・スカーレット】【ネズミの騎士】と呼び合い、どこまで本気か分からない【ごっこ】遊びに興じるのだが、今日はお休みだ。

「我々はこの世に仇なす吸血鬼を退治しにきたのだ!」

ナズーリンの宣言にビックリしたのは小傘と響子。

さっきまで『あいさつだけ』と散々言っていたのに。

「クックックックッ、それは面白いわ」

「この日のために抜かりなく準備をしてきた!

オマエの命運もここまでだ!」

「ほう? 楽しみだこと、クックックックッ」

小傘が響子に耳打ちする。

「あのヒト具合が悪いのかな? くっくっくって」

「うん、苦しそうだねー」

緊張感のない二人にナズーリンが怒鳴った。

「そうじゃないよ、ああいう笑い方なんだ!

てか、なんだよ! キミたち!

せっかく盛り上げてやっているのに!」

「そっかー、笑ってたんだ?」

「ふーん」

聞いていた美少女吸血鬼が、むーっと口を尖らせる。

どうにも盛り上がりにくい状況だ。

「ったく、ほら、さっさと弱点アイテムを出したまえ!」

「あ、そうだよね」

二人が背負っていたバックを下ろし、しゃがんでゴソゴソやっている。

このもたつき感、間が持てないったらない。

ナズーリンは目線で(ちょっと待ってて)と申し訳なさそうにレミリアに伝える。

「じゃーん! 十字架! ニンニク!」

「銀のスプーーン! そして、BLまんがー!!」

それぞれの手に掲げた四つのアイテム。

顎に手をやり、物憂げに見ていたレミリアがしばらくして口を開く。

「アナタたち、名前は?」

「多々良小傘!」

「幽谷響子!」

「そう……では……こがさ!! きょうこ!!」

突然大きな声で自分の名前を呼ばれた二人は、反射的にレミリアの顔を、目を見てしまった。

そこには真っ赤に光る魔眼があった。

吸血鬼に対峙したとき、初っ端で、もっとも警戒しなければならないのがこの魔眼だ。

これを跳ね返すほどの魔力、妖力、胆力等がない限り、一度捉えられれば吸血鬼の意のままに操られてしまう。

レミリアがゆっくりと席を立ち、近づいてくる。

もちろん、二人とも身動きができない。

ロクに声も出せない。

「ひ、ぃぃ……」

「か、ぁぁ、くっ」

二人が持ってきた【吸血鬼の弱点】を手に取る紅魔。

「十字架は信仰心の象徴なんだから、信仰を持たない者が持っても意味はないわ。

それに私たち、あの宗教とは無縁だもの」

「ニンニクは好物よ。

臭いに敏感な魔物が嫌がるって言われているわね。

でもね、好みの問題にすぎないのよ」

「銀のスプーン? 銀なら何でも良いわけじゃないのよ?

ナイフや弾丸なら良かったでしょうに」

「BL漫画? 何の冗談かしら?

まあいいわ、これは貢ぎ物としていただいておくわね」

魔眼に縫い止められている小傘と響子に、ことさらゆっくりと話しかける。

「さあ、手足を少しずつ、少しずつ、ちぎられていく痛みにどこまで耐えられるかしら?

妖怪も痛みを感じるのかしらね?

とても興味深いわ。

……では、まず、指からいくわね?」

そう言って小傘と響子の指をそっとつまんだ。

だが、恐怖を増幅されていた二人にとって、その感触は本当に指を引きちぎられる痛みとして伝わった。

「ぎゃっ!!……」

二人とも白目を剥いて倒れてしまった。

「レミリアどの!」

ようやくナズーリンが声をかける。

「あら…… やりすぎたかしら?」

ナズーリンは、少し寝かしておけば大丈夫と見立てた。

心に深刻なダメージを受ける手前で気を失ったようだ。

「私、悪くないわよ」

紅魔館当主がぶすっくれて言い放った。

「だって、アナタが【怖い目にあわせてくれ】って合図送ってきたからやったんだもの」

ナズーリンの胸を掴む仕草をほぼ正確に理解していた聡明なレディだったが、少々やりすぎだった。

「んー、まぁ、そうだね、私がもう少し早く止めに入れば良かったかな」

ちょっと反省しているナズーリン。

「でも、これでこのコたちも吸血鬼は怖いって分かったでしょう、勉強になったはずよ、あら?……」

レミリアが身の回りを確認している、何か探している。

「お嬢様、これはいけません」

少し離れたところで十六夜咲夜が手にしているのは件のBL漫画だった。

「さ、咲夜! 返しなさい! 私がもらったのよ!」

そう言えば、ずーっと小脇に抱えていたね、お嬢様。

「まだ早うございます、年齢制限がございますゆえ」

「なに言ってんの!?

私は500歳を越えているのよ!?」

「この本はR600です」

「そっ! そんな本、あるわけないでしょ!」

「健全なご成長には毒なだけです」

「こういったモノを糧にして成長する女もいるわよ!

パチュリーだってきっと、たくさん持っているわ!」

「パチュリー様は、ある意味健全に腐っていらっしゃるので良いのです」

「健全に腐るって、意味分かんないわよ!」

「チーズや納豆のようなものですね」

二人とも日陰の魔女に対し、失礼極まりない。

いいから返しなさい!

ダメなモノはダメです

じゃ、半分だけ!

それでは、前半分でよろしいですね?

なにいってんの!? 後ろ半分が重要でしょうが!

ドバーーン!

客間の扉が勢いよく開いた。

「お姉さま! 私の出番は!?」

フランドール・スカーレット。

紅魔館のEXボスがしびれを切らしてやってきた。

「あ、フラン、ごめんなさい、終わっちゃったの……」

レミリアがひっくり返っている小傘と響子を指さしながら大ざっぱに状況を説明する。

「えー!? もおー、私も遊びたかったのにー!

あ……」

本当はもっと文句を言いたかったが、憧れの【ネズミの騎士様】の存在に気づき、物わかりの良いレディを演じることにした。

「今回は仕方ありませんね。

お姉さま、次は私も誘ってくださいな、ふふふ」

フラン本人は目一杯上品に言ったつもりだが、なんだか逆にスゴく怖い。

「フランドールどの」

「は、はひ!」

ネズミの騎士に呼びかけられ、声が上ずってしまった。

「本日は余興もかねてまかりこしたつもりですが、あいにく主役の二人がこの様でございます。

かわりの座興としては小振りでございますが、こちらはいかがでしょうか?」

背嚢から取り出した大きめの箱を開ける。

ナズーリンがパタパタと箱を広げ、中のオモチャを手際よく組み立てていくと立体ジオラマになった。

これは幻想郷か?

フランドールもレミリアも食い入るようにナズーリンの手先と作られていく幻想郷を見ている。

「あ、これって紅魔館だ!」

「左様でございます、ではこれは?」

粗めの芝生の中に小さなお屋敷。

「分かった! 永遠亭!」

出来上がったのはいくつもの升目の上に配置された幻想郷の名跡。

「これは【幻想郷すごろく〜秋の陣〜】でございます。

各々、登場人物の駒を選び、仲間を増やし、異変を解決し、お金を稼いでいただき、【楽】ポイントを集めます。

異変を起こす側になっても結構です。

最後は【楽しんだもの】の勝ちでございます」

立体ジオラマのスゴロクゲームだが、サイコロの目だけではなく、途中にいくつもある分岐点の選択、チームプレイ、お金の貯め方、使い方、判断することがたくさんある結構複雑なゲーム。

レミリアとフランはすでにやる気満々だ。

二人してテーブルや椅子の支度をしている。

やがて小傘と響子が意識を取り戻した。

二人ともキョロキョロと辺りを見回している。

ダメージはないようだ。

ナズーリンが寸劇の種明かしをしたが、理解できているかどうか。

それよりも【幻想郷すごろく】に目を奪われている。

命蓮寺で何度もやったことのあるこのゲーム、小妖二人は即参加できる。

「クックックックッ、どんなゲームでも私が一番だと教えてあげるわ」

「ねえ、お姉さま、前から思っていたのだけど、その笑い方、似合っていないと思うの」

がーーん

「だ、だって、定番だって聞いたし……」

「ありきたりって言うか、わざとらしいって言うか、んー

なんだかお間抜けな感じ」

結構練習したのに。

「じゃあ、どうやって笑えばいいのよ?」

「なんで笑う必要があるの?」

「不敵で邪悪な笑いは悪魔に付き物でしょ?」

「私は嫌」

「うー」

「あ、そうだ、ゲームでお姉さまの能力は禁止だからね。

運命を操るの無しだからね」

当たり前と言えば当たり前だが。

暗くなるまで遊んだ。

食事をしていきなよ

お夕飯はお寺でたべるんだよー

では今度はきっと一緒にご飯ね

うん、指切りげんまーん

フランと小傘と響子はあっという間に仲良くなった。

レミリアは自分は紅魔館当主なので、フランと同じようにフランクに接してはいけない立場だと思い込んでいる。

ゲームは楽しかった。

序盤こそ、小妖二人は警戒を露わにしていたが、ナズーリンのハンドリングですぐに打ち解けることができた。

だからこそ面白くない。

指切りげんまんで楽しそうな輪に入れない自分が面白くない。

誰か私を慰めなさいよ!

横を向いたまま右手を差し出す。

その意を察したナズーリンが片膝をつき、その手の甲に優しく口づける。

「レディ・スカーレット、本日の無礼の数々、どうかご寛恕を賜りたい。

この償いは必ず致します。

今宵はこれにて失礼つかまつります」

鷹揚にうなずくレミリア。

(償いなんていらないのに。

だって、とっても楽しかったんだから。

でも、償うって言うのなら期待しちゃおうかな?)

三勇士の帰り道。

「吸血鬼って優しいんだねー!」

「お姉さん吸血鬼はちょっと怖かったけど、妹は優しかったよね」

「うん! 怖くなかったー!!」

ナズーリンは本日の心労をどっかりと背負ってヨタヨタ歩いていた。

やれやれ、ホントにやれやれだ。

苦労人、ナズーリン。

あ、語呂が似てるかな?

苦労人ナズーリンが今日も行く、ひゅるり〜。

(やめてくれよ! このオチかた定番になったら嫌だからね!)

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