紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

文椛 つくよにこいまう(2)

「文さまの水着はこちらに用意させていただきました。

私はディナーの打ち合わせをしてから参りますので先にビーチに行ってください」

椛から手渡された箱を持ってビーチに向かう文。

着替えはビーチに隣接したシャワールームを使うらしい。

(椛が選んだ水着かぁ……)

生真面目に見える犬走椛だが、性嗜好のゾーン(受容幅)は驚くほど広い。

ほとんどなんでも受け入れるし、奇想天外な仕掛けをしてくる。

この箱の中にある水着は【アダルティ】で【ポイゾニング】、つまり【けしからん】デザインに違いないのだろう。

でも、椛と二人っきりだし、ちょっと悩殺ボンバーを仕掛けても良いかなー、なんてニマニマする桃色乙女天狗。

箱の中には、帆立の貝殻が三枚。

手のひらほどのの大きさ、それも指の部分を抜いての大きさ。

(……えーっと……これ、なにかしら?)

貝殻の縁にはいくつか小さな穴が開いており、ピンク色の細いヒモが通してある。

(これをつけろってことかしら? てか、これ、水着じゃないわよね?

こんなので泳げるわけないわよね?)

それでも好奇心旺盛な鴉天狗はいろいろ試してみる。

胸の頂に二枚、大事なところに一枚。

ヒモの長さを調整し、なんとか形にしてみた。

前から見ればようやく隠れているが、後ろから見たら素っ裸、マッパだ。

お尻も肝心なところも丸出し。

(かなり大胆、いやいや、いくらなんでもあり得ないでしょ!?)

(これってかなり恥ずかしいな……誰もいないよ……ね?)

ドキドキ ビクビク

シャワールームから顔だけ出してビーチの様子をうかがう。

ビーチ用の大きなパラソルとチェアが二つ見える。

(椛、早く来ないかなぁ)

今の自分を守っているのは小さな貝殻が三枚だけ。

行動原理の根幹を支えている一般常識はハッキリと【あり得ない】と言っている。

しかし、椛が用意してくれたからには何か意味があるのだろうと、無理矢理納得させた。

でも恥ずかしい、椛以外には絶対見られたくない。

きょろきょろと周囲を警戒する。

プライベートビーチと言っても、ちょっとした壁で囲ってあるだけで、湖の方角は思いっ切り開けている。

(湖からからは丸見えじゃないの!)

少し考えれば当たり前のことではあるが、通常プライベートビーチはこんなものだ。

気にすることではない、空でも飛ばない限り覗くのは難しいだろうって、ここは幻想郷でした。

きゃいきゃいと幼げな笑い声が近づいてくる。

ここは【あの】湖だ、つまり【あの】連中のテリトリー。

クラシカルなツナギの水着を着た妖精たちが数体、楽しそうな声を上げて飛んでくる。

文にとっては死神の哄笑に聞こえた。

「あはははー、お尻丸出しじゃん! 変なのー」

氷精チルノが指差して大笑いする。

光の三妖精やサイドポニーの妖精、他に数体の妖精が文を取り囲んでいる。

「あ、あの、あの、あの」

こんな妖精数体くらい、一喝して追っ払えるはずの存在なのに竦んでしまっている。

普段は傍若無人、大胆不敵な鴉天狗だが、その内実はとても繊細で深長。

そうでなければ本当に心に届く記事は書けないのだが。

此度は完全なプライベート、生まれてこの方最も激しく愛した犬走椛とのバカンス。

普段は厳重に張り巡らしている精神のバリアを完全に下ろしてしまっていた。

繊細で壊れやすく、いつでも愛を探している無垢な少女が羞恥の波濤に晒されている。

常時纏っている何ものにも怯まない堅固な精神障壁の展開が間に合わなかった。

こうなってしまうと脆い、乙女天狗はとても脆い。

(あ、あう、あう、た、助けて、椛、助けて もみじぃー)

へなへなと座り込んでしまった。

力が入らず、逃げ出すこともできない。

恥ずかしがりの少女が泣きそうになっている。

「くおらーー!! オマエたち! 下がらんかー!!」

少女を護る騎士が颯爽と現れた。

犬走椛の剣幕に妖精たちは射命丸包囲網を解いた。

「遅くなりました、申し訳ございません」

座り込んだ文の肩を優しく抱く。

「お、遅いわよう」

ガチ泣き寸前の鴉天狗。

「妖精たち、これは見せ物ではない!

ここはプライベートビーチだ! 出て行きなさい!」

凄んでみせる椛にチルノが片眉を吊り上げる。

「えー? あたいたち、ここにいるヒトと遊んであげることになってるんだよ?」

氷精の物言いが意味不明なのは今に始まったことではないから椛は無視した。

文を立ち上がらせ、庇うようにしてシャワールームに向かう。

シャワールームに入ってもしっかり椛に抱きついたままの文。

そのモノスゴい格好に相好を崩す白狼。

「文さま、そちらをお召しいただけるとは、驚きです。

冗談のつもりだったのですが、大胆でいらっしゃる」

「な!? だって! これしかなかったじゃないの!」

「ん? オレンジ色の上下がございましたでしょう?」

「無かったわよ!」

「そんなはずは、…… あ、うっかりしていました」

「わざとでしょ!? わざとなんでしょ!?

私! とっても恥ずかしかったんだから!」

「文さまの恥じらうご様子は極上の酒肴でした」

そう言えば少し酒臭い。

「ア、ア、アナタ……」

「いかがなさいました?」

「もう、イヤ! ヒドいよ! もみじヒドい!」

えぐえぐと泣き出してしまった。

「も、椛と旅行だから、た、楽しみにしてたのにぃ! ヒドいよおぉ!」

文の本気の泣き顔に流石の椛も怯んだ。

やり過ぎたか。

「文さま、ごめんなさい、償わせていただきます」

涙を舐め取りながら柔らかい素肌を強く抱きしめた。

二人がシャワールームから出てきたのはあれから一時間ほどしてから。

何故か文は上気した顔で満足そう。

オレンジ色のビキニには控え目にフリルがあしらってあって清楚な感じがする。

一方椛は、胸には黒いチューブトップ、下は黒猫褌。

トップアスリートのような引き締まった肢体。

身体を捻れば腹筋のスジが確認できる。

それでも男性とは間違えられない女性特有のまろみがあるが。

哨戒任務が主な白狼天狗がこの幻想郷で肉弾戦を行うことはまず無い。

だが、愛するモノを守るいざという時に最高のパフォーマンスを発揮できるよう鍛錬をしている。

それは幻想郷最高の速度と反射神経を有する射命丸文の足手まといにならないためだった。

以前、地獄の鬼とことを構えそうになった時、犬走椛は鬼の気に中てられ竦んで動けなかった。

命を懸けて守ると誓った文が一人立ち向かおうとしたあの時に指一本動かせなかった。

もう、あんな無様は晒さない。

妖精たちはまだビーチで遊んでいた。

「あー、やっと出てきた、こっちで遊ぼうよー!」

チルノが手招きしている。

椛が目だけで問うてくる。

(どうします?)

先ほどとは打って変わって余裕のある射命丸が鷹揚に応える。

「たまにはこんな遊びもいいでしょう」

妖精たちとの他愛の無い追いかけっこや水遊びは予想以上に楽しかった。

ところで文さま、ビーチとビッチって似てますよね?

ちょっと! その言葉マズいでしょ!?

プライベートなビッチ(雌犬)、なんだか甘美で淫猥な響きですね

だから、口にしちゃいけない単語だって!

私だけのビッチですか、良いですね くふふふふふ

も、椛!? その目、なんだかイヤよ? しっかりしてよー!

シャワーを浴び、ホテルに戻ってきた二人を支配人が迎えた。

「プライベートビーチはいかがでしたか?」

「そうねー、プライベートってわりにはなんだか賑やかでしたけどねー」

文がちょっと皮肉を言ってみる。

「今回は【妖精たちとの楽しいふれあいタイム】をサービスさせていただきました」

「はい?」

「通常は別料金になるスペシャルアトラクションです」

上質の微笑だが、ほーんの少しだけドヤ顔成分を含んでいる。

「あー、そういうことだった訳ですねー」

なんだかちょっと力が抜けてしまった。

「お気に召しませんでしたか?」

「いえ……楽しかったです、結果オーライです」

「それはようございました」

そう言って今度は混じり気の無い純粋な笑顔を披露した。

その後、緋色の宿で利用できる施設・催し物について説明を受けた。

【紅魔館ビックリスタンプラリー】

『紅魔館内にある七つのチェックポイントでスタンプを押してください。

ただし館内を徘徊している吸血鬼に見つかると問答無用で血を吸われますので注意してください』

【カンフーエアロビ教室】

『美容と健康に効果のあるエクササイズです。

ただし一日二日では全く効果が無く、長く続けることが必要らしいです』

【大図書館読み放題】

『紅魔館が誇る大図書館にある本が何百冊でも読み放題です。

ただし一時間とさせていただきます、館長の我慢の限界がそれくらいなのです』

どれも魅力が感じられず、企画者のセンスを疑うものばかりだ。

「夕食まで湖畔を散歩することにします」

犬走椛の言葉に十六夜咲夜は少しにガッカリしたようだ。

文は連れ合いの提案に不満は無い。

なにもがっついて遊ぶ必要は無い、二人でのんびり楽しく過ごせればいいのだから。

「では、ディナーにはスペシャルサプライズ【そこまでする!? フツー!?】プランをご用意いたします」

「ちょ、ちょっと待って、普通のディナーで結構です、むしろ是非、普通でお願いします」

今度は文が言う。

咲夜は明らかにガッカリしている。

サプライズって、言っちゃったら意味無いだろうに。

「……左様ですか、ではこの後はパチュリー・ノーレッジ考案のスタンダード・ノーマル・シンプルプランをご提供します」

それもなんだか不安が残ったが、内容を確認するのも煩わしくなった文。

「それでお願いしましょう」

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