紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

文椛 つくよにこいまう(3)

陽が落ちかけた湖畔をゆっくりと歩く。

「ねえ椛、私達の出会い、覚えている?」

「ええ、最悪でした」

そう言って苦笑した。

射命丸文は、哨戒任務と言いながら、たいして仕事の無い白狼天狗たちを完全に下に見ていた。

白狼天狗たちもお山の重鎮であるはずなのに軽薄な言動で自分たちをからかう自称新聞記者を煙たがっていた。

身分、妖力に勝る口数の多い鴉天狗の挑発めいた物言いに対して、へつらうか、下を向いて生返事をするだけ。

『早くどっか行ってくれよ』それが偽らざる本音だった。

そんな射命丸を正面から見据えたのは犬走だった。

『射命丸さま、貴方さまから見れば他愛のない仕事でしょうが、我々は定められた任務を怠りなく遂行しております。

我々をお気遣いいただく時間があれば、そっくりそのままご自分の職務を全うするためにお使いください』

『ふーん、そんなこと言われたのは初めてですねえ、アナタ、名前は?』

『犬走椛です』

『犬走さん、ですか、覚えましたよー、また会いましょうね』

『お断り申し上げます』

『ふふん』

その後、何年も小競り合いを続けた二人。

「なにがきっかけだったかしら?」

「私にとっては【リンゴ】でした」

「……あのリンゴの時だったの?」

「はい」

「ねえ椛、私もそうだと言ったら驚く?」

いつものように岩場で見張りをしていた椛の元へ文がやって来た。

『犬走さん、ご精が出ますねー』

いつものようにチョッカイをかけてきた鴉天狗に会釈するだけの白狼。

『美味しそうなリンゴをいただいたんですよ』

そう言って両手に持った赤い果実二つを見せる。

『お一ついかがですか?』

『勤務中です』

『そう言うと思いました。

でも、見張りならリンゴ食べながらでも出来るでしょうし、季節の旬を【見張る】のもお仕事じゃないんですか?』

『随分と、回りくどい屁理屈ですね』

こんなやり取りを何年もしている。

文は片方のリンゴに齧り付く。 しゃくしゃく。

『んーー! 美味しい! これは食べないと損ですね、犬走さん、はい』

そう言ってリンゴを放った。

今、齧った食べかけの方を。

反射的に受け取ってしまった椛はリンゴと文を何度か見比べてから横を向いた。

『いただきます』

文の齧り跡の上から豪快にかぶりついた。

「あの時、決めていたの。

アナタの食べかけなどいりませんって捨てられたら、もう会わないようにしようって。

でも、そのまま食べてくれたら……」

「食べてくれたら、なんだったんですか? 私、食べましたよ?」

「……もうちょっとチョッカイかけようって決めてたの!」

そう言って破顔した。

「はあ? なんですかソレ? 私、あの時に文さまへの想いが定まったのに」

顔をしかめてみせる白狼天狗。

この二人が想いを交わしあうのはこの出来事からもう少し後のことだった。

ホテルに戻ると丁度ディナーの時間だった。

スープ、サラダ、前菜、魚料理、肉料理、そしてデザート。

贅を凝らしたものではないが、どれも一手間以上かけてある。

見た目以上に美味しい。

十六夜咲夜が指揮をとっているはずの客用料理の数々。

そりゃ美味しいはずだ。

椛は岩魚の香草蒸しが、文はデザートのシフォンケーキが特に気に入った。

お腹が満たされた二人に支配人兼料理長が提案する。

「今宵は明るい月夜でございます。

屋外でダンスはいかがでしょう?」

咲夜が視線を窓を移す。

天狗二人はその流れるような所作に思わず釣られて窓を見てしまった。

夜空に煌々と輝く白金の月。

十五夜は昨日だったはず。

今宵は十六夜(いざよい)の月。

「いかがですか?」

いつの間にか窓辺に移動していた男装の麗人、その横顔を月光が照らしている。

(……綺麗……)

美人の誉れ高い月華の佳人、その最大出力を目の当たりにした文はボーっと見とれてしまっていた。

はっとして慌てて連れ合いを見る。

連れ合いも見とれていた。

(もみじぃ?)

自分のことは棚に上げ、テーブルをトントンと叩く。

気付いた椛が目線を文に戻す、ちょっとバツが悪そうに。

結局、ダンスをすることにした。

「文さまと月光の元で踊れるなんて夢のようです! 是非お願いします! 文さま、良いですよね!?」

椛が珍しいほどのハイテンションで乗ったからだった。

「では楽曲の支度にお時間をいただきますので、その間にお二人にはお着替えを」

「着替えですか?」

文の疑問に咲夜が応える。

「はい、せっかく舞踏会ですからそれなりのお召し物が必要です」

「でも、そんなの持ってきていませんよ?」

「ご衣裳は当方で用意させていただきます、ささ、こちらへ」

咲夜は半ば強引に文を誘導する、椛も妖精メイドたちに別の部屋に連れて行かれた。

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