紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

文椛 つくよにこいまう(4)

椛は一足早く外に出ていた。

パーティー用のメンズフォーマルを見事に着こなしている。

スーツの色は限りなく黒に近い濃紺の【ミッドナイトブルー】。

明るい場所で深い紺色だが、夜の照明の下では黒に見える。

色彩感覚に優れたモノだけが【青味】を感じ取れる。

今ではほとんど見られなくなった伊達者が好んだ隠れた洒落色。

自分が女であることは勿論分かっている。

華やかなドレスにも憧れがある。

だが、今宵のシチュエーションを考え、文をリードする立場に徹しようと心を決めた。

湖の畔に楽器を抱えた妖精たちが音あわせを始めている。

三十体以上いるだろう、正式なオーケストラだ。

椛は予想以上に本格的な舞踏会の準備に少し緊張した。

踊りたいと言ったものの、実は正式な踊りなぞ知らない。

博識で洒脱な射命丸文は知っているだろう。

自分はまた彼女の前で無様を晒してしまうのではと、かなり不安になった。

「椛」

声をかけられ振り返る。

クリムゾンのイブニングドレス、フレアたっぷりのシルクドレスの裾はどこも丁寧に黒いレースで縢ってある。

黒い手袋と、黒いスエードのピンヒールのシューズ。

【鴉の濡れ羽色】の髪と手足と裾の黒が、切ない赤色【クリムゾン】を前面に押し立てている。

「どうかしら?」

目を合わせるのが恥ずかしいのか、はにかみながら問いかける。

椛は暫し陶然となる。

自分が想気できる美しさ、麗しさ、愛おしさ、その全てを越えた存在がそこにいた。

「ねえ? どうなの?」

文がちょっと不安そうに聞く。

「私の生はここで全て報われました」

「なっ、なに言ってるの!?」

「文さま、ありがとうございます! 私は生まれてきて良かった、ホントに良かった」

「えーっと、どういうこと?」

「犬走椛は改めて誓います。 アナタのためだけに生きます」

「んー、なんだかありがとたいけど、このドレスはぁ?」

ここまで言われてようやく乙女心にケアーができていなかったことに気付く椛。

「美しゅうございます、この世の全てが平伏しましょう」

そう言われても口を尖らせている鴉天狗。

そんなことが聞きたいのではないのだ。

「しかし、願わくばその美しさ、私だけのものにしたいです。

誰にも見せたくありません! 我慢ができません!!」

ガッと抱きつき、すばやく口付けを見舞う。

半眼になって満足そうな射命丸、そう、これが聞きたかったのだ。

「椛、さあ、踊りましょう、ステップなんて気にしないで。

私はアナタへの想いを込めて踊るわ。

だからアナタは私の想いに応えて」

湖面に浮いた天狗二人に十六夜咲夜が合図をする。

緩やかに演奏が始まった。

リムスキー・コルサコフの【シェヘラザート】第3楽章《若い王子と王女》

http://www.worldfolksong.com/classical/korsakov/scheherazade.html

(※別ウィンドウで開きます)

ダンスの基礎を知らない椛の周りを、文が付かず離れず、まるでからかうようにまとわり付く。

三次元を利用し、右に左に上に下に、椛の顔や体を撫で回しながらスイスイと泳ぐ。

捕まえようとする椛の手をすり抜け、妖しい笑顔を返す。

ついに椛が文を捕まえる。

強い抱擁、見詰め合う二人。

そして椛が文を放り投げる。

空中ならではの曲芸のような舞。

ドレスを靡かせ、ゆっくり旋回しながら自由に踊る文、そして椛が迎えに行って抱きとめる。

そしてまた放り投げる。

何度も繰り返されるキャッチ&リリース。

二人の出会いから今に至るまでをなぞるような踊り。

夢幻の時が終わり、今は部屋で落ち着いている二人。

「はあー、楽しかったー」

ダブルのベットに体を投げ出した鴉天狗。

「そうですね、とっても楽しかったです」

ベットの縁に腰をかけた白狼天狗が追従する。

今の二人は就寝前のラフな格好。

空中舞踊が思ったより盛り上がり、ほどよい疲労感に浸っている。

文はこのまま眠ってしまうのもアリかなーとボンヤリ思っていた。

「文さま」

「ん? なに?」

「先ほどの文さまの衣装、熱烈なダンス、素敵でした」

「私もよ、椛、格好良かったわー、あんなに楽しかったのは久しぶり」

「そうですか、ありがとうございます。

私、今、とても滾っているんです」

「はい?」

「今宵、改めて文さまに魅了されてしまいました」

今夜は安らかにゆっくり眠りたいなー、と思っていた文は身を引き締める。

「今夜は、この世で最も可憐で素敵な射命丸文と言う名の女性に身も心も捧げた犬走椛の誠意と覚悟を改めて知っていただきたいんです」

「も、椛? なんだか怖いわよ? どうしたの?」

「私がどれほど文さまが大事で、大切で、大好きなのか、全身を用いてお伝えしたいのです!

今夜はお遊びは一切無しです! 全力の私を、どうか受け止めてください!」

真剣で熱い眼差し、とても素敵なんだけど少し怖い。

(はわわわわ ワタシ、な、なにをされちゃうのかしら!?)

翌朝、チェックアウトする二人に渡されたお土産は【YES/NO】枕だった。

あちこちの節々が軋み、ぐったり放心状態の射命丸文が面倒くさそうに受け取る。

使い方を説明しようとする咲夜を手で制する。

文から枕を受け取った椛が検分している。

「文さま、【YES】の裏側が【OK】になってますね」

OKって? NOじゃないの?

ここぞとばかりに十六夜咲夜が切り込む。

「仲睦まじいお二人に【YES/NO】は無粋ですよね? やはり【YES/OK】でないと」

なんじゃそりゃ。

せっかく良い感じだったのに最後でぶち壊された。

まったく、このメイド長は、いや今は支配人か。

「文さま! この枕、洒落ていますね、YESかOKのどちらかなんて! 文さまのお部屋に置いておきましょう!」

なにがそんなに嬉しいのか。

少し疲れた射命丸。

でも、まあ、いいかー。

射命丸文はこれまで思いっ切り好きなように生きてきた。

何にも縛られずに。

縛られるのがなによりイヤだった。

でも今感じている拘束感、他人に自由を奪われているこの感じ。

我慢がならないはずなのに、なんだかとっても安らぐ。

(んーー、これもありですかねー うふふふ)

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