紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

パチュはた 湯けむり旅情(1)

その日の夕間暮れ、アリス・マーガトロイドはシチューの仕上げにかかっていた。

大きめにカットした野菜と数種類のキノコ、そして鶏腿肉。

小麦粉をバターで丁寧に炒めたシチュールウ。

生クリームの代わりに上質の乳精を使った具沢山のクリームシチューはアリスの得意料理。

人形遣いは鼻歌まじりでとても楽しそう。

だって、今夜は霧雨魔理沙がやってくるのだから。

『良い酒が手に入ったんだ、夜になったら持って行くぜ、そのかわり晩飯ヨロシクな』

いつものようにアリスの都合を斟酌せずに予定を決めてしまった。

困った娘だ。

でも、振り回されることに慣れてきた今日この頃。

はじめはもちろん迷惑だったが、今は少し心地良いくらいだ。

そんな自分の心の変化がなんともくすぐったいアリス。

ぼんぼん、ぼんぼん、と音がする。

誰かが戸を叩いている。

力なく、柔らかいノック。

魔理沙にしては早すぎる、それに彼女のノックはもっと威勢が良い。

戸の近くで誰何しても聞き取れなかったので、アリスは思い切って戸を開けた。

七曜の魔女、パチュリー・ノーレッジだった。

日陰魔女がアリスの家を訪ねてきたのは初めてのこと。

魔理沙を含めた三人の【オシャレ魔女会】はいつも紅魔館の図書館で行われていた。

本虫魔女が、ものゴッツ出不精だから仕方がない。

だからアリスは驚いた、なんでわざわざ訪ねてきたのか?

「パチュリー? どうしたの?」

知識偏重のKYジコチュー魔女、いつものように活力のない目だが、上目遣いで何かを訴えているように見える。

口をもぐもぐさせているが、ハッキリとした言葉は聞こえてこない。

「お茶くらい出すわ、上がっていきなさいよ」

埒があかないと判じた世話焼きのアリスは珍客を招き入れた。

「さあどうぞ」

「ありがとう、いただくわ」

ようやく分かる言葉が聞けた。

ずずず  ふーー

「ん、とても美味しい。アリス、アナタの淹れる紅茶はもう少しで咲夜レベルね」

「そりゃどうも」

なんて言い草だ、この当たりがKY魔女って言われる所以だ。

アリスと咲夜、どちらの紅茶も最高水準。

どちらが上かは、ハッキリ言って【好み】のレベル。

仮に同じ茶葉を使ったら咲夜はアリスよりもほんの少しだけ早めにカップに注ぐだろう。

甘みと旨みが出尽くし、渋みと苦みが前面に出始める頃合い、ここが注ぎ手の力量が問われるタイミング。

咲夜は深みを持たせるために茶葉を少し遊ばせる。

だが、アリスが茶葉を遊ばせる時間はそれよりもちょっとだけ長い。

渋みと苦みをほんの少しだけ【押す】のだ。

緑茶党の霧雨魔理沙に紅茶の美味しさを分からせたい。

ティータイムには同じものを楽しく飲みたい。

だから緑茶に近い渋みを表現するために紅茶葉が泳ぐ時間を調節している。

そして少しずつ自陣に引き込み『紅茶も中々旨いな、いや、紅茶の方が旨いな、特にアリスの淹れてくれる紅茶がなにより旨い』と言わせようとする涙ぐましいほど遠大で健気な乙女ちゃん計画なのだった。

目の前のぼんやり魔女を一時は魔理沙を巡るライバルと目していた。

確かに本虫魔女の持つ広範な知識、それを集約し再展開する力はスゴいと思う。

ただの【物識り】ではない。

パチュリーの考察を聞いて絶句したこと、震えが止まらなかったこと、何度もある。

魔女としての実力には一目も二目も置いている。

しかし、生活力はほとんどゼロで、普段はトンチンカンな対応ばかり。

このズッコケ魔女に後れをとるはずはないと思っている。

魔理沙は譲れないのだ、絶対に。

一方的に気負っていたアリスだが、最近、パチュリーの関心が急速に余所へ向いていることに気づき、若干の【肩すかし】を感じていた。

「それで、用件はなに?」

人心地ついたと見て切り出す。

パチュリーはティーカップを両手で包み、俯き気味。

アリスが指先で促すとやっと口を開いた。

「ねえアリス、初めての時ってどんな感じだったの?」

「初めてって?」

「アナタが魔理沙の初めてを奪った時のことよ」

「意味が分からないわ」

ホントに分からない。

「初めての性行為のことよ」

「な……ちょっと待ってよ、私達そんな関係じゃないわよ!?」

「え!? そうなの?」

表情の貧しい魔女が心底驚いた顔をしている。

「そ、そうよ、違うわよ」

「んー、だって『魔理沙の強引なアプローチに流されたように見えたアリスだったが、ベットでは持ち前のフィンガーテクニックを駆使し、白黒魔女を翻弄したあげく、性の奴隷として覚醒させた』って」

「はああ!? ねえ! それ、なんなの!?」

「文文。新聞の【R18版】に書いてあったわ」

「アナタ! どうしてそれを信じちゃうの!?」

「魔理沙曰く『もう、アリスの指じゃなきゃイケないぜ』って」

「ふへ? あ、あの時のことがそんな風に伝わっているなんて……なんてことかしら」

「んんん?? あの時?」

ぼんやり魔女が珍しく食いついてきた。

「この前のお泊まりの時にちょっとマッサージしてあげただけよ!

たったの三時間だけよ!

『アリス、よろしく頼むぜ』って、ニッコリ笑って下着姿で全身を無防備に晒したのよ!!

魔理沙のお肌は指が痺れるほどスベスベでプリプリだったのよ!

あんなに触り心地の良い物体は他にはないわ!!

私、持てる技術の粋を尽くしたわ!!

とっても気持ち良さそうで、『あ、ありす、ありすぅう』って、可愛く喘ぐさまがタマらなかったわ!

だから、だから、このまま最後まで行っていいのかなって思ったのよ!

でも、我慢したのよ! まだ早いと思って我慢したのよー!

魔理沙が素面に戻っちゃったら、なにもかもダメになると思って!

だから我慢したのよおおおーーー!!

そしたら翌朝、魔理沙が『昨夜のアリスはスゴかったぜ、なにもかも全部気持ちよかった。ヤバいくらい全身を持って行かれたぜ。きっとなにをされても抵抗できなかったと思う』って! なんなのそれ!? OKだったってことじゃない!!

そして、そして『なあ、アリス、私って魅力ないのか? 私、勇気を振り絞ったのになぁ、ちょっと残念だぜ』って! 淋しそうに笑ったのよ!!

うううううーーー!

チャンスだったのに!

先に行けたのに! 行って良かったのに!!

意気地なしで間抜けな自分が許せないのよおー!! ぐぬおおおおーー!!」

「ねえ、アリス、少し落ち着きなさいな」

「な、なんですってぇ! アナタがソレを今、言うの!?

ぐぐっ! か、帰ってよ! 今すぐに!」

「アナタのテクニックを教えて欲しいの」

「だから帰れーっ!」

「ねえ、導入部だけでも良いわ、どこから弄ればいいの?」

「かっ、帰れー!」

「秘蔵の魔導書10冊あげるから」

「う、ぐ、だ、だめよ! 帰ってちょうだい!」

もうじき魔理沙が来る。

こんなトンチンカン妄想魔女と鉢合わせしたら大混乱は必至だ。

「帰って! お願いだから帰ってよーー!!」

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