紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

パチュはた 湯けむり旅情(2)

「あのね、はたてが温泉旅行に誘ってくれたの」

しぶしぶアリス邸を後にしたパチュリーはホームベースである図書館で小悪魔に話しかけている。

「これってやっぱりそういうことなのよね?

ついに花を散らす時が来てしまったのよね?

階段を一つ、いえ、二つ三つ上がるのよね?」

「パチュリーさま、少し落ち着きましょう」

小悪魔は苦笑しながらも小鼻がひくついている。

この主人が甘酸っぱい恋心を抱いてからこちら、素っ頓狂な相談が面白くて仕方が無い。

「急いては事を仕損じると申します、イベントごとに確実に距離を詰めていくべきです」

「そ、そうね、慌ててはいけないわね」

「お泊りでご旅行となると、イベントはたくさんございますが、今回は温泉ですから、一緒にご入浴する時がクライマックスへの重要なトリガーになります」

「い、一緒にお風呂に入るの?」

「当たり前でしょう、何のために温泉に行くのですか?

ボケナスも大概になさってください」

「ボケナス? 私が?」

「そこは今さら如何ともしがたいので、どうでもよろしいです。

パチュリーさま、はたてさんは『背中を流しましょう』って言ってくるはずです」

「そ、そうなの?」

「はい、気の良いはたてさんは必ず言います」

「そ、そしたら? どう答えるの?」

「パチュリーさま、脳ミソ大丈夫ですか? 『ええ、お願いするわ』に決まっているでしょう」

「そ、そうよね、せっかくの機会なんだし、でも、でもぉ、なんだか恥ずかしいわぁ」

もじもじくねくね。

(今さら恥ずかしいって……ったく妄想だけはいっちょ前のオボコが)

「え? なんて言ったの?」

「なんでもありません。

そうなったら勝負はいただきです、パチュリーさまの勝利でございます。

パチュリーさまは細身で小柄でいらっしゃいますが、お胸は無駄にデカいですし、お尻の張りも思いっ切り蹴飛ばしたくなるほど十分です。

それに不健康な生活サイクルのくせにクソッタレなほどお肌がスベスベです、至近距離での攻撃力が滅茶苦茶高いので勝ったも同然なのです」

「それって、ホメてくれてるのよね?」

「もーちろん、でーす(棒読み)」

「じゃ、じゃあ、背中を洗ってもらうことにするわ。

えと、その後は私もはたての背中を洗ってあげればいいのかしら?」

「何を言っているんですか? 時系列が飛びすぎです。

背中を洗ってもらった後に言うことがあるでしょう?」

「へ? あ、そうね、『ありがとう』って言うのね?」

「違いませんが、それじゃ面白く、いえ、的確ではありません」

「何て言えばいいの?」

「『前も洗って』です」

「前? …………ぅえええーー!?」

「追加します『手拭いは痛いからイヤ、アナタの手で直接洗って』です。

ここ超大事なポイントですからね」

「て、手で!? はたての手で!? ム、Mu、む、無理無理無理無理無理ーー!!」

「どうしました? ここを越えれば一気に大人カップルの仲間入りですよ?」

「そんなの無理よ!

だって、だって、はたての手が泡まみれの私の胸をヌルヌルグニグニいじり回して、先端をクリクリキュッキュッって何度も摘まんで『いやん、しつこい、もうやめてぇ』って言っても止めくれなくて、あげく、その手が下がって『ここもキレイにしましょうね』なんて大事なところをツンツンチュクチュクされて、そしてきっと、指が奥まで入ってきて、コリコリキュルキュルこねくりまわされるのよ! そしたら、私! 私! ダメになっちゃう!!」

「……今でも十分ダメですけどね」

「はうん、ああん、ダメよぅ、絶対無理よぅ」

「まー、決断するのも行動するのもパチュリーさまですからね」

「でも、でも、でも」

「一つご忠告いたします。

やらずに後悔するより、やってしまって後悔する方が面白い、いえ、前向きです」

「そ、そうなのかしら?」

他にも色々アドバイスした小悪魔だが、すでに妄想でイッパイ×2なパチュリーの頭にはほとんど入っていなかった。

「パチュリー館長! おはよーございまーす!!」

来てしまった。

この日が。

具体的な方策も、覚悟もできないうちに。

どうしよう。

本日のパチュリーは水色のアッパッパの上に薄いカーディガンを羽織っている。

頭には小振りのカンカン帽、夏のお出掛けファッション。

手荷物はいつものように魔法で小さくしてポシェットにしまってある。

紅魔館の門前に降り立った姫海棠はたてはいつもの白いシャツに、ぴっちりしたチェックの膝丈パンツだった。

ツインテールには頭襟は乗っておらず、足元も高下駄の代わりにシックなローファーを履いている。

彼女なりのカジュアルなのだろう。

「館長、素敵なお召し物ですね!

私ももっとおしゃれしてくれば良かったです」

そう言って明るく笑う。

はたてのパンツルックを初めて見たパチュリー。

いつもはチラチラと盗み見るだけの形の良いお尻のシルエットが存分に堪能できた。

「アナタも中々良いわよ」

中々なんて嘘、良い、とても良い、最高によろしい。

【脳パチ】美尻ランキングNo.1に輝く逸品の全容が眺め放題なのだ。

「そうですか? えへへへー」

(おぅふ、うん、良いモノを見られたわ、うん、なんだか幸先が良いわね。

今日の私はツイテいるわ。

よっしゃ! こうなったら流れに任せて出たとこ勝負よ!)

妄想日陰魔女は、確固たる根拠のないくせに、とりあえず腹を括ることにした。

お馴染みの空橇(【七曜のクッキー】参照)が発進する。

この度の行き先は旧地獄の温泉街にある【スパリゾート地霊ランド】。

各種効能を謳った温泉、冷泉に加え、サウナや遊戯施設、屋内庭園も楽しめる総合レジャーランド。

宿泊施設もあり、料理も美味しいらしい。

地上と地下の妖怪たちの行き来が多くなってきた昨今、温泉街の目玉として地霊殿の主が立ち上げたのものだった。

はたてがパチュリーを旅行に誘ったのは純粋に日頃の恩返しのため。

いつも図書館を利用させてくれて、素敵なティータイムを提供してくれて、アドバイスをたくさんくれて、とにかく世話になりっぱなしだった。

滅多に外出しないインドア魔女だが自分との遠出は喜んでくれているように見えた。

だから意を決してお泊まり旅行に誘った。

お金を貯めて一日フリーパス+お食事+宿泊コースを予約した。

気を遣わせたくなかったので、パチュリーには『天狗仲間のビンゴ大会で宿泊券が当たっちゃいました』と言っておいた。

地下の入り口で橇を畳み、徒歩に切り替えた恋人未満の二人は並んで旧地獄街道を目指す。

入り口からすぐ、大きな橋があった。

手すりに凭れ掛かっていた二人連れがはたパチュに気づく。

「はたてー! 姫海棠はたてじゃないか! 久しいな!」

声をかけてきたのは旧地獄の顔役で桁外れの力を誇る鬼の中の鬼、星熊勇儀だった。

パチュリーは初対面だったが、その迫力に一瞬息を呑んだ。

館の門番と同じくらいの体躯だが、単なる体格以上に周囲を黙らせる大物感が漲っている。

「星熊さま! ご無沙汰ですー!」

はたては以前命蓮寺にやって来た鬼の四天王の一角と面識があった。

勇儀は大杯を掲げて応える。

「いつぞやはロクに紹介もできなかったな。

これが私のパルスィだ」

勇儀の脇から顔を出したのはパチュリーと同じくらい小柄な女性。

クセのある金髪と緑眼が印象的だった。

鬼の顔役は、友人とも恋人とも妻とも呼ばず【私の】と言い切った。

自信と覚悟に溢れた力強い紹介だった。

当のパルスィは、少しだけ目を細め、口元を和らげ、軽く首をかしげる。

ぞくり

パチュリーはその微笑に危険を感じた。

特上の笑みだが、寅丸星とも十六夜咲夜とも霧雨魔理沙とも違うなんとも奇妙な感覚だった。

(なんなのコノ女?)

パチュリーは眼前の妖姫から目を離せないでいた。

圧倒的な存在感を示している女鬼より遙かに気になった。

確かに美人だが、腰が抜けるほどではない、造作は咲夜の方が上だろう。

なのに全体の雰囲気は無視できないほど輝いている。

姿形だけでなく、【女】としての艶と妖しさが単なる美人とは一線を画しているようだ。

幼さの残る顔立ちにもかかわらず、成熟し、満ち足りた女性の魅力が強烈に匂い立っている。

(なんなの? キレイとか可愛いとかを突き抜けた何かがあるのね?

何が彼女をここまでにするのかしら?)

頭でっかちの魔女は解答を得ようと知識を総動員するが、分からない。

「はたて、そちらの娘さんは?」

勇儀がパチュリーに目を向ける。

「紅魔館にお住まいの魔法使い、パチュリー・ノーレッジ館長です」

「ほう、あの吸血鬼の館の住人か、ノーレッジどの、私は星熊勇儀、以後見知り置いてくれ」

「パチュリーで結構よ」

「ならば私も勇儀と呼んでくれてかまわない」

ニカッと笑った女傑。

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