紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

パチュはた 湯けむり旅情(3)

「ところで地下にどんな用事なんだい?」

「スパリゾート地霊ランドに行くんです」

「お、あそこか、結構楽しいところだぞ。温泉旅行か、いいじゃないか。

んー? なんだ、そう言うことか」

勇儀ははたてにチョイチョイトと手招きした。

首をかしげながら鬼の大将に歩み寄る鴉天狗。

大杯を持っている反対の腕ではたての首を抱え込んだ。

「いたたた! なんですか!? 勇儀さま!」

(おい、あの娘はオマエのコレなんだな?)

はたての耳元に口を近づけ、小声で問いかける。

もちろん、ニヤニヤしながら小指を立てている。

(いえ、そう言う関係ではありません、いつもお世話になっている魔法使いさんです。

あ、でも、あと数百年もすれば歴史に名を残す大魔法使いになりますよ!)

(ほう、随分と買っているんだな)

(諸物の大系を纏め上げるセンスが抜群で、怖いくらいの努力家ですから)

(んー、活力のない瞳だが、その奥底が全く見えないな、不思議な娘だな)

(とっても優しくて、とっても素敵な方なんですよ)

(あーーん? なんだ、やっぱり恋人じゃないか)

(ですからー、違いますって、……大切なヒトですけど)

(何が違うんだ? その気持ちは恋人への想いだろう?)

(……ど、どうなんでしょう?)

(じゃあ聞こう、オマエはあの娘とどうなりたいんだ?)

(どうなりたいって……あの方の成長を一番近くで見ていたいんです、実地検証や実験につきあっても良いと思っています。

でもそれは、あの方が私を望んでくれればの話ですけど)

(オマエ、それって、すでに結論が出てるんじゃないか?)

(結論って?)

(オマエの想いのさ)

(え……)

(今言ったことはあの娘に伝えたのかい?)

(いえ、はっきりとは)

(ふーん、あの娘、見たところ快活な感じではないよな。

よほどでなければ泊まりで出かけることなんかないんじゃないか?)

(ええ、多分そうでしょうね)

(んー、どうにもまどろっこしいなあ、ちゃっちゃとヤッてしまえばいいのに)

(ちょっ! いきなりそんな……)

勇儀とはたてのひそひそ話、アウェー感に晒され面白くないパチュリーだが、一方でパルスィのことも気になっていた。

鬼と天狗、二人が顔を寄せ合ってごそごそ話している間も、実に自然なタイミングで大杯に酒を注いでいる妖婦の所作に目を奪われていた。

影のように寄り添い、相手の欲するところをさりげなく補う所作。

(なんだかちょっと素敵だわ。

これも【大人の女】のあり方ってことなのかしら……私も、いつか【大人の女】になるのかしら?)

魔女は半生をざっくりと振り返ってみる。

感情表現に難がある、と言うより表現の仕方がよく分からない。

ヒトの気持ちを斟酌するのが苦手、いや、しようとしなかった。

身勝手な皮肉屋、それでいて本質は嫉妬深い。

(なんだ、私って結構ヒドいんだな……【大人の女】、無理っぽい……なれる気が全然しないわよ……ぐす)

無声の自嘲。

泣きそうになったが、この吉日を喜んでいるもう一人の自分のためになんとか堪えた。

勇儀から解放されたはたてとパチュリーは、旧地獄街道を歩く。

空が見えない閉塞感はあるが、商店の猥雑さと道行く妖怪たちの品の無さは地上とは違った活況を呈している。

決して快適な空間ではないが、生命力に溢れている。

はたては地上では見かけない珍しい売り物に目を輝かせ、店舗に飛び込んでは店員に質問を浴びせる。

すっかり取材モードに突入してしまった連れのテンションが面白くないパチュリー。

(なによ、はたてったら、手もつないでくれないじゃない)

ほっぺたがほーんの少しだけ膨らんでいた。

「スパリゾート地霊ランドへようこそ!」

それでもなんとか目的地には着いた。

猫耳ゴスロリの少女が迎え出る。

「宿泊の予約をしてある姫海棠はたてです」

「姫海棠さま、お待ちしておりました。

ご宿泊は二名様ですね?」

「はーい」

施設の案内、温泉の時間、食事の時間等を丁寧に説明してくれた。

「屋内庭園がおススメです、本日はお泊りのお客様は他にいらっしゃいませんから、貸切状態でございますよ。

おやすみ前に散策されるのも良いでしょう」

案内された部屋は純和風だった。

畳敷きの室内を珍しそうに見回すパチュリー。

「いかかですか? 和風の部屋も趣があるでしょう?」

「そうね、落ち着くわね」

基本、洋風の暮らしをしている室内魔女に対し、ちょっと趣向を変えようとわざわざ指定した部屋だった。

はたては純粋な好意で選択したが、妄想魔女は『ここが最終決戦場なのね』と妙な決意を固めていた。

「館長、まずは温泉にいきませんか?」

「ふん、取材はもういいのかしら?」

ちょっと皮肉を言ってしまった。

少し険のある物言いに気に聡い鴉天狗は反応した。

地下に降りてから、いつにも増して無口だった魔女のほっぺたが膨らみ気味なことにようやく気が付いた。

「あ……申し訳ありません、一人ではしゃいでしまって。

でも、でも、ここからは完全にプライベートです、パチュリー館長とだけです!」

そう言って少しぎこちなくニッコリ。

「ふん」

ちょっと横を向きながらもほっぺたの膨らみは無くなっていた。

荷物を置いて一息ついてから温泉にやってきた二人。

ぱっぱか服を脱いでいくはたてに対し、もそもそのたのたと捗らないパチュリー。

(はたてったら恥ずかしくないのかしら? それとも私が気にしすぎなのかしら?)

はたては腕を上げるとアバラが浮くくらい痩せているが、バランスの良いスレンダーボディ。

引きこもりから脱却してからは動作もきびきびとしており、細くて長い手足が快活な印象を与える。

一方パチュリーは同じような痩身なのに、やや短めの四肢の動きがかなり緩慢なため、持っている雰囲気と併せると病的な脆さに見えてしまう。

(小悪魔は自信を持って良いって言ってくれたけど、やっぱり私、みっともないカラダだわ)

はたてと自分の裸体と比べるパチュリーの心は少しだけ折れかかっていた。

「パチュリー館長! お背中を流しましょう」

(キター! キタキタキタキターー!! ホントにキター!)

「そうね、お願いしようかしら」

心臓はガッポン、ガッポン、ガッポン。

「うわああー、館長はホントお肌が綺麗でいらっしゃいますよね。

どんなケアをなさっているんですか? やっぱり魔法なんですか?」

「別に何もしていないわ」

「えー、そうなんですかー? 秘訣を教えて欲しいですよ」

「ほ、本当に何もしていないのよ」

「こんなにスベスベって有り得ないですよー、まるで真珠をコーティングしているみたいです」

さわさわさわさわ

「あふん! あ、あの、あのん」

「少し食べてもいいですか?」

「ふへ!?」

「冗談です、えへへへー、でも、ホーンと綺麗です!」

「そ、そう? ありがとう」

(ほ、褒められちゃった! き、綺麗だって!)

心臓がガコン、ガコン、ガコン。

折れかかっていた心が少し補強された。

こしこし、こしこし。

(うーーー! 緊張するわ! 緊張の夏だわ! でも、なんだかとても気持ち良い)

「流しますよー」

(んん? は!? こ、ここからが勝負!)

「ま、ま、まえん」

「? 館長?」

「まえ、ま、まえ、前」

「まえ?」

「ま、まえ、前、前田日明のニールキックは強烈だったわね」

「はあ?」

(やっぱりムリーーーーーー!!)

妄想魔女は最後の一歩が踏み出せなかった。

「ふああーー! きーもちいーーですねー!」

二人で温泉に浸かっている。

はたての背中を流すことすらできなかったパチュリーは色々と凹んでしまっている。

(私、こんなにダメな娘だったかしら? 理論的に導き出された為すべき行動ができないなんて。

これまで自分の行動に迷ったことなんてないのに)

階段を上るための一歩が出せなかった。

やると決めたことができなかった自分が情けなかった(結果的には踏み出さない方が良かったのだが)。

また心が折れそうだった(なんとも忙しい)。

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