紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

パチュはた 湯けむり旅情(4)

サウナは遠慮したパチュリー。

それでなくともかなりのぼせている。

これ以上蒸されたら倒れてしまうだろう。

脱衣所に併設されている売店ではたてがビン牛乳を買ってくれた。

二人して裸タオルのままビンをあおる。

「ぷはーー、やっぱりお風呂上りはミルクですよねー!」

腰に手をあてたはたてが元気よく言ってうっすら白くなった上唇をペロリと舐めた。

その仕草に、のぼせ気味の【脳パチ】妄想回路に妙なバイパスが通ってしまった。

(ミルク好きなのかしら? はっ?『パチュリー館長のミルクが飲みたいです』って言われたらどうしよう)

タオルの上から星四つの豊かな膨らみをギュッと押さえる。

(……い、いけない、こんなおかしなことを考えるなんて、きっとのぼせてしまったせいね)

いえ、いつも通りですよパチュリーさん。

浴衣に着替えた二人は【遊戯室】に行ってみた。

ドライブゲーム、スマートボール、ボウリングゲーム。

最近のデジタル化したゲームとは異なり、実際に物を動かすレトロな遊具の数々。

デジタルゲームにしろ、スペースイン〇ーダーやドンキー〇ングが置いてある。

よくぞわざわざ集めてきたものだ。

眼を丸くして『なんですかこれー?』とはしゃぎまくるはたて。

そして古物の解説は【歩く博物誌】と言われる本虫魔女の独壇場だった。

『はたて、これはね……』

へー! スゴイ! おもしろいです!

いちいち大きなリアクションをするはたてが可愛くて仕方ない。

パチュリーもようやくテンションがあがってきた。

部屋の隅に卓球台があった。

温泉に卓球はある意味つきものである。

「あ、卓球台がありますよー!

館長! 勝負しましょう!」

ハイテンションのはたてがパチュリーにラケットを握らせる。

「何か賭けましょうか、んー、負けた方は何でも一つだけ言うこと聞くってのはいかがです?」

(キターー、ついにキタわ! 合法的にスゴいことを要求できるシチュエーションね!

フフフ、あんな軽い物体操るのは雑作もないわ、はたて、アナタにスコンク負けを進呈しましょう。

腰を揉んでもらおうかしら? いえ、いっそ前を揉んでもらおうかしら? むしろもっとプリンシプルな要求でもいいかも)

博学な魔女だが、正々堂々って単語は知らないらしい。

「あ、魔法はナシですよー」

「へ? そうなの?」

当たり前である。

鴉天狗は元々鳥妖であるから動体視力と反射神経、瞬発力は群を抜いている。

つまり、鴉天狗に卓球で勝てるはずはないということだ。

どたばた走り回るパチュリーは、胸元も裾もあられもなくはだけ、スゴい格好になっている。

やがて、ずてーんっと転んだ拍子に浴衣の裾が盛大にめくれ上がって、ぽってりしたお尻が丸出しになってしまった。

「パチュリー館長! 大丈夫ですか!? あの、下、下は穿いていらっしゃらないんですか!?」

(え? だって小悪魔が『浴衣に下着? いけません、絶対ダメです、超弩級のタブーです』って言ってたし)

「パ、パチュリー館長、あの、その、ちょっとマズいですよ」

(はたてったらなんでそんなに赤い顔をしているの? さっき温泉でさんざん裸見てるじゃない)

エロス検定4級すら持っていないエロ素人の魔女は【シチュエーション別チラリズムの希少価値】が理解できてない。

試合結果はもちろんパチュリーのスコンク負けだった。

『お連れさまはお疲れのご様子ですので、精の付く料理を添えさせていただきました』

卓球の後、大汗をかいたパチュリーはもう一度温泉に入った。

そしてグッタリモードで部屋戻ってきた。

それを見ていたらしいゴスロリ猫の世話役は料理をオマケしてくれたようだ。

部屋にはすでに料理が並んでいた。

はたては事前に、食の細い魔女にあわせて油っこい料理は避けてもらうように頼んでいた。

豆腐、湯葉などの大豆を使った小皿、そして季節の野菜をふんだんにあしらった手の込んだ料理が上品に卓上を飾っている。

「これは予想よりレベルが高いですねー」

はたても驚いている。

パチュリーの側にだけ温泉玉子に細かく刻んだ牛肉の時雨れ煮が乗った小鉢が置いてあった。

『精の付く料理』とはこれだろう。

パチュリーはその小鉢を真っ先に取り上げてみる。

小さな匙で軽くかき回して一口。

(あ、美味しい)

ねっとりして滋味が濃い、確かに元気が出そうだ。

その様子をニコニコしながら眺めていたはたてに、

「アナタも食べてみる?」

「よろしいんですか?」

「もちろんよ、はい、 あーん」

平静を装っていたが、はたての口に匙を運ぼうとした時にはちょっと手が震えた。

上唇に玉子の黄身がべちょっと付いてしまった。

その黄身をぺろりと舌で舐め取ったはたて。

その仕草にゾクゾク! っとした。

「んー、おいしいですねー」

(さっきのミルクの時もそうだったけど、はたての舌ってなんだか官能的だわ。

うん、そう、あの舌が、はたての舌が今夜、私の身体を蹂躙するのね……)

さっきまでグッタリ状態だったのに、すっかり絶好調のパチュリーさん。

食事中も食材のことを中心にたくさんの話題を振りまくはたて。

その一つ一つに丁寧に応えるパチュリー。

とっても楽しい時間だった。

腹ごなしに屋内庭園を散歩することにした。

枯山水を軸にした落ち着きのある中庭は、夜間は点在する間接照明によって幽玄な空間となっている。

ごく自然にパチュリーの手を取るはたて。

(あ……やっと手をつないでくれた、ずっと待っていたのよ、うれしいわ)

きゅっと、少し力を入れて握り返す。

「さっき、卓球で勝ちましたよね」

「そうね」

「お願いごとを言いますね」

(こ、これは! キタのかしら!? やっぱりベサメ・ムーチョかしら!?)

「ど、どうぞっ」

はたてはいつものように柔和な表情だが、真剣さが加味されている。

こんな時はいつも大事なことを告げると知っている。

バリ緊張するパチュリー。

(こ、今夜のことかしら? それともついにフィニッシュブローな告白なのかしら?)

ドキドキドキドキ。

「館長はスゴい魔法使いです」

「そ、そうかしら?」

「でも、今よりももっと知識を蓄え、もっとスゴい魔法使いを目指していらっしゃるんですよね」

何を言いたいのか分からないが、あまーい雰囲気ではなさそうだ。

ちょっとがっかりなパチュリーは普段の冷静さを取り戻してしまった。

「そうね、全然足りないわ、知りたいことはまだまだ山ほどあるわね。

そしていつか魔道の深淵に近づきたいわ」

「それはきっと、長い、長い、道程なんですよね」

「ええ、そうでしょうね」

「孤独で険しく苦しい道なんですよね」

「覚悟の上よ」

魔法使いとして生を受けたからには誰も行ったことのない高みを目指したい。

それがパチュリー・ノーレッジという個体の存在意義だから。

「それを助けたいって、見守りたいってヒトがいたらどうします?」

「余計なお世話だと思うわ、所詮一人で行かなければならない道だもの」

「……そうですよね」

(はたて、どうしたの? 何が言いたいの?)

「でも、私、もう、結論が出ているみたいです」

晴れやかな表情でパチュリーを見つめる。

「余計なお世話を焼きたいんです! お側にいさせてください!」

(こ、これってプロポーズ!??? いきなり飛びすぎじゃない?)

「知識に対する真摯な姿勢、万物に対する冷徹な態度、でもどんな存在も尊重し受け入れる広くて強い精神、とても素敵です。

そんな館長のお側にいたいんです」

(え? そうなの? ……なんだか微妙にズレがあるような……それともこれで良いのかしら)

はたての想いを完全には理解できなかった初心ッコ魔女は内心で首を傾げて考えるが、相手は返事を待っている。

告白には違いがないからうれしいことには間違いない。

(『喜んで』いえ、『こちらこそ』かなぁ、うーん)

考えた末に口から出たのは、

「ふん、好きにしたらいいわ」

言ってから自分でビックリ。

どうしていつもここ一番肝心な時にツマラない見栄を張るのか!

(わ、私、やっぱりスゴいバカなんだわ! ど、どうしよう?)

偏屈魔女は恐る恐る最も大事な宝物を見上げた。

「はい! スキにさせていただきます!」

ぱあーっと笑っている。

(……こ、こんなバカの側に居たいなんて、はたて、アナタだけよ……アナタ、変よ……)

ようやく就寝。

布団は二組敷かれていた。

これからの展開をあれやこれや妄想していた魔女に先制パンチが炸裂した。

「館長、今夜は一緒に寝てもいいですか?」

(ストライーク!! ど真ん中キタわね! ていうかイキナリそう来るの!?)

「卓球で勝ちましたからねー」

「え? あれって『言うことを聞く』のは一回……」

ドガーーン!

【脳パチ】が本体の意識にラリアットをかましていた、『よけーなこと言うんじゃねーわよ!』と。

「そ、そうね、構わないわよ」

しっかりと抱きつき、パチュリーの首筋に顔を埋めている鴉天狗。

「館長、いい匂いです、はああー……しあわせー」

いきなりの強烈なスキンシップに戸惑っていたパチュリーだが、この後の流れを色々と夢想するのに忙しい。

(えーっと、まずは【優しい KISS】よね、そして……)

すーっ すーっ すーっ

肝心のお相手はあっと言う間に眠りに落ちていた。

今日一日、ずっと気を張っていたのだろう。

拍子抜けのパチュリー。

でも、自分の腕の中で穏やかな表情で眠る【パートナー】を見ていたら、諸々の妄想は吹き飛んでしまった。

(はたて、私がどれほどアナタが好きなのか、どれほどアナタが大切なのか、いつか聞かせてあげるわ)

「いっしょ……ずっと……ずっと……ぱちゅりん……」

(ぱちゅりん?)

寝言をつぶやくはたての頬に涙が伝っている。

パチュリーは、苦笑を浮かべながら愛しい連れ合いをしっかり抱きしめ直した。

そしてその髪に顔を埋める。

(そうよ、ずっと一緒よ……ずーっと)

翌朝、チェックアウト。

「あの、私、昨夜、何か言っていませんでしたか?」

「『お団子食べたい』って言っていたわね」

「ホントですか!?」

「ふふ、うそよ、何も言っていなかったと思うけど?」

「そ、そうですか」

「それより街道沿いの【朝市】を見て回りましょうよ、お土産も買いたいわ」

そう言ってはたての手をとるパチュリー。

「はい!!」

不器用カップルが、ちょっとだけ前進したバカンスのお話。

[←]  [小説TOP]  [↑]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.