紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンの星っていくつあるの?(1)

ご主人が私の幻想郷縁起(第九増補版)を読んでいる。

少しでも早くこの幻想郷を理解しようと努力しているのだろう。

真面目なご主人らしい、と言えばらしいが。

「ナズーリン」

ご主人は本から目を上げ、私を呼ぶ。

何か分からないことがあったのか。

「この印をつけたのは貴方ですか?」

開いた本を指差し、問いかけてくる。

本が読めるほど近くに寄り、覗き込む。

彼女の体温と、微かな柑橘系の香に心がざわめく。

困ったものだ。

人物録のページ。

幻想郷の主だった人物がイラスト入りで解説されている章だ。

ご主人が指差しているのは、イラストの上辺に書き込まれている星印だった。

☆☆☆ ★★★★★

白い星が三つ、黒い星が五つ。

【十六夜咲夜】のイラストを指している。

紅魔館のメイド長。

人間でありながら、わがままな吸血鬼の主を満足させる家事管理能力に加え、卓抜した戦闘力を持ち、そしてそれらをより完璧に近づけるために時間と空間を操る能力を縦横に駆使する『パーフェクトメイド』。

なおかつ、この容姿なのだから、星の数も宜なるかな。

なにせ星印を書いたのは私だから。

「印をつけたのは私だが、それがなにか?」

「なに、と言うわけではありませんが、少し気になったもので」

ご主人はページをめくりながらも星が気になっているようだ。

「ご主人、もしや、星の意味が分からないのか?」

「えっ、分かりませんよ!」

驚いた。

まったく、鈍いにもほどがある。

ご主人の鈍さを誰よりも理解している、と自負しているはずなのに自信が無くなってしまうではないか。

改めて教育しなければならないのか、やれやれだ。

ため息ひとつ。

腕を組んで少し固い口調で。

「ご主人。まずは白い星から見ていこうか」

私の口調と態度に緊張したのか、目を大きく開き、口元を少しすぼませている。

うむ、可愛いな。

「白い星は乳の素晴らしさを評点したものだ」

ご主人の表情は変わらない。

「乳が大きいほど星の数は多いが、厳然たる基準がある」

ご主人の表情は変わらない。

「私や吸血鬼姉妹、酔っ払いの二本角の鬼、ほとんどの妖精たち、幼女―少女を基本にしたモノの【どうやら膨らんでいるな】、程度では一つも印されない。

私は妥協しない。自分にこそ厳しくあらねばと思っている」

ご主人の表情は変わらない。

私の心意気を理解できているのだろうか。

「星が一つ。これは微乳なのだが、相応の存在感があるモノ。

具体的には、私のこの小さな掌で全体が握りこめるほどのものだ」

右手を開き、ゆっくりと閉じていく。

指同士がくっつく直前で止め、その形をご主人に見せ付ける。

「このくらいの大きさだ」

全く動かないご主人から幻想郷縁起をもぎ取り、ページを繰る。

「例えば黒白魔法使い、楽団の妹二人、地霊殿の主、その飼い猫、あと、ウチのぬえ、などがそうだ」

霧雨魔理沙のページを開き、白い星一つを指差す。

「真横ではなく、やや斜め後ろから見るのがポイントだ。

腕を上げた瞬間、ふくらみの存在に納得できた場合にのみ授与される」

ご主人の眉間にほんの少しだけ、皺が寄る。

付き合いの長い私には、彼女の疑念などお見通しだ。

そんな微乳の機微が厚ぼったい服装の上から分るのか? ってことだね。

「もちろん十分な観察は、裸体でなければ適わない」

「こらーっ! どこで見たんですかっ!」

ようやくご主人が反応した。

「基本は風呂場だが、朝夜の着替えのときも狙い目だ」

「そっそれって覗きでしょうが! 犯罪ですよ! 犯罪っ!」

「従者たるもの、目的のためには、いつでも主に代わって手を汚す覚悟はある」

「なんとなくカッコイイ言い方してもダメ! それに私頼んでないし!」

「そんなに興奮しないでほしいな。冗談だよ、冗談」

「貴方の場合、冗談に聞こえませんから!」

「毘沙門天の使いである私がそんなことするわけが無いだろう?

【万が一】、発覚すればご主人にも大変な迷惑をかけてしまうし」

「本当に、本当に信じていいんですね?」

そんな縋りつくような目で見なくても良いのに。

「信じてくれて良い。私は【万に一つ】もミスを犯さないからね」

「うかーっ! 貴方を殺して私も死ぬー!」

ご主人が飛び掛ってきた。

組み伏せられ、両腕を掴まれる。

大柄なご主人にのしかかられ、小柄な我が身はくまなく包み込まれる。

いかん、この体勢はいかん。

荒い息遣いが額から鼻先にかかっている。

思い切り吸い込んでみた。

なんと甘やかな息なのか、いかん、たまらんぞ。

口が近すぎる。

今なら【くっちびる】を頂戴しても【事故】で済むのでは、と明晰な我が頭脳は即座に打算した。

しかしながら、その唇は我が唇より少しばかり上に位置しているため、届かない。

身動きできないから、位置の是正も適わない。

舌を伸ばしてみたが、わずかに届かない。

無念、すごく無念だ。

くそっ、千載一遇の好機なのに如何ともし難し。

すべらかな喉を舐めたおす、という選択も閃いたが、この甘美な唇を至近距離にして、ここで妥協することは敗者の言い訳めいた選択に思えて自分が許せなかった。

ご主人に関しては、欲望に一切の妥協をしないことを自分の信条に誓ったではないか。

唇がダメなら、喉でも良い。

違う、断じて違う。

私のご主人への思いは、千年にわたって積み重なり、熟成され、研ぎ澄まされ、蒸留され、時にはとんでもない悪臭を放ち、腐りながら、大事に育んできたものだ。

ここ一番で妥協など出来るものか。

もちろん、顎から喉にかけてのラインは、ご主人の大きな魅力の一つだ。

いずれは徹底的に攻略する所存では在る。

感極まり、声を漏らす瞬間、のけぞる喉元に我が唇と舌をあて、歓喜の微振動を味わいつくすのだ。

なので、今はダメなのだ。

この場面ではダメなのだ。

我慢しろナズーリン。

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