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快傑!ナズーリン!!(2)

なるほど、これが【ドン引き】と言う状況なのね。

話には聞いていたが、これほどイタイとは。

当のナズーリンとやらは、部屋の隅で寅丸星に抱かれてぐしぐし泣いている。

【だから嫌だっていったのに】とか【こんな恥ずかしい思いは生まれて初めて】とか【やるんじゃなかった】とか、小声で繰り返している。

一方、寅丸は【貴方は悪くない】とか【ほんとうに素敵でした】とか【いつか時代が】には【そんな時代絶対こない】と突っ込みが入ったりとかしていたが、【今夜は一緒にお風呂】とか【明日は一日中手をつないで】とかのあたりからナズーリンの嗚咽がおさまった。

「レンズを忘れてきてしまったよ。ご主人、一っ飛び、取ってきてもらえないか?

私の文机の上にあるはずだ」

「レンズ? 虫メガネのことですね? おやすいご用ですよ」

「ご主人に遣いをさせてしまうとは、無様な従者だが、その間に状況を確認しておくからよろしく頼む」

「いいんですよ。頑張ってくださいね」

抱擁の解き際に頬にキスをする寅丸。

なんだかイラッときた。

「そのようなわけですので、一旦、失礼させていただきますね。

皆さん、ナズーリンをよろしくお願いします」

ニコニコ顔で頭を下げて退出していった。

残されたナズーリンは、我々に背を向けたままだ。

尻尾が力なく揺れている。

手拭いで顔をこすっているようだ。

深呼吸を三つほど。

こちらに向き直る。

「色々と騒ぎだてして申し訳ない。

改めて名乗らせていただく。私がナズーリンだ」

口調も改まり、なかなか凛々しい表情だ。

先ほどの痴態、べそっかきを、無理矢理振り出しに戻そうとしている。

目と鼻が真っ赤なのが、少し残念ね。

「そちらにおられる咲夜どのを通じてのお召しにより、まかりこした。

探しものが、おありと聞いている。状況は如何に?」

先ほどとは別人のようだ。

己の能力への自信と、実績を十分に感じさせる。

こちらが本来の彼女の姿なのだろう。

【レンズ】とやらも、あの寅丸を退出させる方便だろうか。

「貴方も大変ね。あんな主に仕えなければならないのだから」

「待ってくれ。

レミリアどの、今の発言は訂正していただきたい」

意外なほど強い口調で窘められた。

「我が主、寅丸星は些か思い込みが激しく、うっかりミスも多いが、それでも生涯をかけて仕えるに足る人物だ。

私、ナズーリンの生は彼女を中心に回っている。

私の基本行動は【寅丸星】ありき、なのだ。

彼女を愚弄するなら相応の報いを受けてもらうことになるよ」

迷いの無い、断固たる言葉。

このちっぽけなネズミ妖怪が、この私に対し、なんと大それたことを言うのだろう。

それなのに、この迫力はなんだ。

命をも懸けようとする覚悟がビンビンと伝わってくる。

それほどにあの主人が大事なのか。

ウチの咲夜の【本気】に並ぶほどの勢いだ。

ここはその忠誠心に敬意を表してやろうかしら。

「分かったわ。今の発言は取り消させていただくわ、すまなかったわね」

私の言葉に魔法使い二人が目を丸くしている。

まぁ、私が謝るなんて、滅多に無いことだし。

私の謝罪に対し、ナズーリンは、軽く会釈を返しただけで何も言わなかった。

これほど克己した彼女が、なぜあのような痴態をさらす羽目になったのか。

なにやら深い理由がありそうで興味をそそられるが、今はもっと大切なことがある。

「それでは説明をお願いしたい」

「そうだぜ、レミリア、早く話してみろよ。

せっかく【快傑ナズーリン】さんが来てくれたんだからさ」

その呼び方が、癇に障ったのだろう、魔理沙を睨みつけるナズーリン。

それはそうだ、忘れて欲しいはずだ。

魔理沙のことだ、わざと言ったに違いない、ニヤニヤしているし。

「その呼び方はやめてもらいたいのだがね」

ふふん、と流したお転婆魔女、後で泣いても知らないわよ。

面子が揃ったのだから説明を始めるのは私の役目だ。

「では聞いてもらいましょうか。 私の妹、フランドールのことなの。

昨日、フランに会ったときに気づいたの。

あのコの羽根の飾りが欠けていることに」

「フランの羽根の飾りって、宝石みたいなのがたくさんついているアレか?」

少し神妙な顔になった魔理沙の指摘に頷く。

この娘はフランがすすんで会話をする数少ない知人の一人だった。

「どうしたのかと問うてみても、【あら、本当。気がつかなかった】と言うばかり」

「うーん、そもそもアレってどうやってくっついているんだ?

直接生えているにしちゃ、付け根のところが曖昧だよな?」

「曖昧って?」

魔理沙の隣に座っているアリスが、覗き込むようにして尋ねる。

「ああ、果物が生っているところを想像しろよ。

羽根の【フレーム】が枝で、【宝石】が実だとしたら、繋がっている部分はハッキリしているはずだろ?

フランのその【部分】はガッチリくっついてはいないんだ。

少し離れているんだよ。

その隙間に【力】の存在は感じるが、性質は全く分からない」

私は魔理沙の観察力に内心驚いていた。

魔法使いとは、かくも良く【観ている】ものなのか。

「私は良く【観た】ことはないから分からないけど、宙に浮いているように見えるなら、何らかの魔力で接合しているってことよね」

アリスの指摘も正しいと思う。

期待以上に考察が進みそうね。

ならば情報を小出しにすることに利は一つも無い、急いで追加しよう。

「フランの羽根は一族の歴史をひもといても、他に例が無いの。

これまでに石の羽根や青銅の羽根を持っていたモノの記録はあったわ、あとガラス製も。

近いと言えば近そうなのだけれど、そのモノたちは当時も隔離されていたようで詳しいことはほとんど分かっていないわ」

【当時も隔離されていた】と他人に言うのはキツかった。

異形の羽根が心に影響を与えるのか、心が羽根を歪ませるのか。

でもフランは違う。

羽根も心も美しいのだ。

それに気付かなかった、気付こうとしなかったのは私の罪だ。

「パチュリーは今、一族の系図や、伝聞、関連する文献を調べてくれているけど、いかんせん一人では探す範囲が広すぎるのよ。

今回のように広範囲を系統立てて、整理しながら調べるには、アリスの協力が是非とも必要だと言われたの」

「オイ! なんでワタシじゃないんだよ!」

「今も言ったでしょ? 【系統立てて整理しながら】と。

おまえに整理整頓を頼むモノが幻想郷にいるのかしら?」

「む、いない訳じゃないと思う、多分、いるかも知れない」

憮然として言い返してくるが、苦しすぎる。

しかし、今更彼女を追い出そうとは思わない。

偶然にせよ、居てもらって良かったような気がするから。

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