紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンデスク! スクープです!(1)

「バオバブの木だね。珍しいな。

何の因果かは分からんが、外の世界から流れてきたのだろうね」

ナズーリンが隣に立つ寅丸星に話しかける。

二人が見上げているのは、大きな木。

高さはそれほどではない、ナズーリン十人分ほど。

が、太い。ナズーリン二十人で囲めるかどうか。

「前の世界で各地を回っていたとき、南方の大草原地帯で見たことがある。

なかなか興味深い樹木だよ。

面白い形の白い花をつけるし、大きな実はいろいろと食用になる、そのままではうまくはないがね。

樹皮は非常に堅固なので、簡単な加工で丈夫な綱として使える」

ナズーリンが薀蓄を語る。

「どっしりたした、落ち着きのある木ですね。

頑丈そうな佇まいは厳しい環境に耐えるためなのでしょうか」

寅丸星は、おっとりしているが、本質を見抜くことが多い。

【無名の丘】のはずれの草原地帯に忽然と現れた大木。

ナズーリンが手にしているのは、(文々。新聞)と(花果子念報)。

(文々。新聞)の見出しは、

【異変の前触れか? 悪魔の仕業か? 逆さまの大樹!】

バオバブの全景写真が、一面の四分の一ほどを占めている。

「相変わらずの先走った見出しだな。逆さまの大樹か、そう見えんこともないか」

バオバブの木は、その幹の太さと、枝の広がりがまるで根っこのような広がりを見せるので、引っこ抜いた大木を、逆さまに突き刺したようにも見える。

幻想郷の著名人たちの見当はずれで、どうでも良さそうなコメントを散りばめながら、謎の大木の出現について面白おかしく書いている。

どんな異変が起きるのか、イタズラだとしたら誰が何の目的で行ったのか、今後を見守りたい、と締めている。

そう書きながらも、よっぽどのことがないと追跡記事を書かないのは(文々。新聞)の特徴でもある。

制作者の飽きっぽさに由来するのだろう。

一方の(花果子念報)もバオバブの木を一面に取り上げていた。

(文々。新聞)と同じようなアングルの写真は、ライバル紙の半分の大きさもない。

そして発行された日付は二日遅い。

文字の多い紙面は、見栄えが良くない。

ぱっと見、惹きつけられる部分が見当たらない。

以前の(花果子念報)は、扱う事件が明らかに後追いで、新鮮味のない内容だったが、最近は独自に取材活動をしているようで、取り上げる事象は地味ながら、丁寧な記述がナズーリンの好みに合い始めていた。

(今回、発行が出遅れたのは、取材に時間をかけ過ぎたからかな?)

風見幽香と八雲紫へのインタビューが載っている。これは珍しい。

見たことのない木についてフラワーマスターへ。

突然の出現について境界の大妖へ。

今回の事象に対する取材先としては間違ってはいない。むしろ適切。

ただ、その相手が、滅多なことでは友好的に応じてはくれないだけだ。

(よく話が聞けたな、ずいぶん粘ったのだろう、なかなかのものだ)

幽香からは【辛抱強い樹】【花が楽しみ】の二言だけ、もらったらしい。

紫は【今回はほとんど影響ない】と一言だけ。

そこから、植生、花の形状に対する推論が綴られている。

また、【今回は】を捉まえて、影響のあった出現が過去にあったのかどうか、意図があるとしたら、無いとしたら、幻想郷に与える影響、可能性を記述している。

幾分偏りがあるものの、とらえ方に個性があり、良い意味で突っ込みどころが多い。

しかし、文章をこねくり回すきらいがあり、手垢のついたレトリックを振り回し過ぎることも鼻につく。

推敲も十分ではない。【であるが故に】が、一つの面に二回も使われている。

(惜しいな)

ナズーリンの率直な感想。

(記事重視は悪くない。だが、紙面構成が地味すぎるから、よほどの暇人でもないと記事まで読んでくれないだろう。もったいないな)

新聞をたたんだ【暇人】ナズーリンが、主人に笑いかける。

「ご主人、帰る前に一服していこうよ」

「いいですね。私、お団子の美味しい茶店を知っていますよ」

にっこにこ顔の寅丸に、ナズーリンが左手を差し出す。

寅丸がその手をとる。

お互いにやんわり笑いながら、ゆっくり歩き出した。

その団子が、いかに美味しいのかを懸命に説明する主人、優しく相槌を打つ従者。

陽が落ちるまでにはもう少し猶予があった。

二人が赴いたのは人里近くにある茶店。

暖簾をくぐろうとした二人の耳に飛び込んできたのは鋭い叱責。

「はたて! アナタ写真の流用はもうやめるって言ってたんじゃないの!?」

「今回は偶然よ! 取材相手だって、かぶっちゃいないでしょ!」

ナズーリンが持っている新聞、それぞれの編者だった。

「このアングルはどう見ても私の写真でしょ!」

「だから偶然だって! 私、自分で撮影したんだもの! 取材も時間かけたし!」

「取材対象がたった二人じゃ話にならないわ。

内容だって相変わらずの妄想記事じゃないの!」

「なにそれ! 酷すぎない!?」

「端から【念写じゃなくて、実際にネタを集める】なんて、カッコつけなきゃいーのよ。

弱小のままでおとなしくしてればいーのよ! 大口たたくと、大恥かくわよ!」

「そこまで言うの? ちょっと許せない!」

席を立つはたて、その動きにあわせて文も立ち上がる。

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