紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンデスク! スクープです!(8)

命蓮寺にやってきたはたて。

入り口付近にいた雲居一輪は黙って頷いて通した。

申し送りがあったらしい。

社務所の入り口でナズーリンが待っていた。

「ようこそ命蓮寺へ。 姫海棠はたてどの、これからよろしくな」

「はたて、で結構よ」

「では、はたて君」

「なんだか堅苦しいなぁ。アナタのことはナズ、でいい?」

「いや、それは困るな」

「んー、じゃ、デスクってことで。ナズーリンデスク、よろしくお願いしまーす」

余裕のあるはたて。

からかい半分でナズーリンを【デスク】と呼んだ。

だが、この呼称は終生、変わることはなかった。

はたてにあらかじめ用意させていた天狗の新聞。

人気があるとされている数紙に目を通しながら、話しかける。

「キミの新聞が何故、評価されないのか、分かっているかね?」

「それは今まで、後追い記事で、新鮮味が無かったからでしょ?

あと、写真もイマイチだしねー」

はたての念写能力は、既存写真の検索に限定される。

他紙で大きく掲載された写真をそのまま使うことには、さすがに気が引けるので、ベストと思われる写真の前後に撮られたボツ写真を流用することになる。

これでは【イマイチ】も当然、出遅れるのも当然。

「それが原因だと思うわけだね? はたて君は」

「ナズーリンデスクは、違うって言うの?」

だからこそ、自分の足で、羽根で、取材を始めたのだから。

「違わないが、それだけではないな」

紙面から顔を上げ、はたてを見るナズーリン。

「まず、紙面全体が地味だ。

写真の選択も良くない。

記事の配置に工夫が感じられず、適当に並べただけに見える。

推測で終わる内容が多すぎて、記事そのものにも説得力がない。

そして文章もまわりくどくて読みづらい。

そもそも取り上げる題材に面白みが少ない。

まぁ、こんなところかな」

呼吸も出来ずに固まったはたて。

けちょんけちょん、とはこのことだ。

なにか言い返さなければ、と頭の一部は激しく回転しているのに、何も出てこない。

ナズーリンは続ける。

「写真だけで事件の内容と状況を推理し、記事にするのだから、ピントのずれた大ハズレを書いてしまうことも多いね。

妄想新聞と呼ばれても仕方ない。

そんなレッテルを貼られてしまえば、たまに気の利いたことを書いても、軽く読み飛ばされるのがオチだろう」

心臓を直接掴まれた。

確かに、ハズレ記事を書いて、いたたまれなくなったことは何度もあった。

【妄想新聞】と面と向かって言うのは文だけだが、仲間内では、半ば【かわいそうなコ】扱いされつつあることは、自分が良く分かっている。

だからこそ、だからこそ、自分の足で、羽根で、取材を始めたのに。

悔しくて、情けなくて、恥ずかしくて、泣きそうな姫海棠はたて。

しかし、これだけ好きに言い放ったネズミ妖怪には、不思議と怒りを感じない。

このネズミ、ナズーリンデスクが自分に向けている視線は、真剣そのもの。

揶揄や軽蔑などの愚劣な感情は微塵も感じられないから。

「はたて君の能力は【念写】だったな」

力なく頷くはたて。

「その力も、かなり限定されているよね?

自由自在に遠隔地の情景を撮影できるものではないのだろう?」

また頷く。

「ならば、その能力で撮った写真は、常に二番煎じということだ。

その写真を掲載し続ける限り、(花果子念報)はダメ新聞と呼ばれ続けるだろう」

はっと、顔を上げるはたて。

「そ、それじゃ、私の能力って、何の役にも立たないじゃない!!」

取材を始めてから、自分でも感じていたことだった。

他人より唯一優れていると信じていた【能力】。

でも、それは新聞作りでは価値の無いものではないのか、という疑問。

そして今、はっきりと告げられた。

やはり、そうだったのだ。

もう、涙をこらえるのは無理だった。

「はたて君、キミの【念写をする程度の能力】なんだが」

もう能力の話は聞きたくないはたては、首を振る。

ツインテールが顔にまとわりつき、未だ納まらない涙が飛び散る。

「使い方が間違っているんだよ」

使い方? 首を振るのをやめるはたて。

「【能力】は使い方次第だ。キミは自分の【能力】を活用しきれていないんだよ」

顔を上げたはたては、滲む視界にナズーリンをとらえる。

「写真を検索するとき、キミは自分の撮った写真は判別できるのかな?」

その質問には自信を持って答えられる。

理由は分からないが、自分がとった写真だけは絶対に間違いなく分かる。

はたては、大きく頷く。

「ふむ、やはりそうか。それは素晴らしい」

素晴らしい? なんで?

「キミが、ある事件の写真を検索したときに、キミの写真しか出てこなかったとしたら、それはどういうことかな?

キミしかその写真を撮っていないということだろう?

多くの記者が撮った事象でも、検索すれば、他とはかぶらないアングル、タイミングの写真をじっくり選定できるよね?

また、ある事象の写真を探してみたら、ロクな写真がなかったとする。

それなら自分でもっと良い写真を撮りに行けばいい。

写真でオリジナリティを発揮するには、これほど使いでのある能力はないだろう」

「あ、あ、あぅ」

それまでの閉塞感から、一気に大空へ放り出されたはたては視界が広がりすぎて言うべき言葉が出て来ない。

「それもこれも、自分で取材し、自分で撮影することが大前提なのだが、はたて君は、それをする覚悟をすでに決めているのだろう?

記事の内容を重視したい。

それは結構な心がけだ。

しかし、キミは写真でも圧倒的な個性を発揮できるのだよ」

がだがたと体をふるわせているはたて。

「魅力的な記事! 誰にも撮れない個性的な写真!

私は姫海棠はたての新聞が読みたいぞ! (新生:花果子念報)を読みたいぞ!

はたて君! 作ってくれるよね!?」

「はっ、はいっ!! はいっー!!!」

新たな涙は、先刻とは全く違う色だった。

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