紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンデスク! スクープです!(9)

その間、様子を見に訪れた寅丸が、泣き顔のはたてを見て、慌ててお茶を入れたり、お菓子をすすめたり、愛想を言ったり、と大忙しだった。

ナズーリンは苦笑いを浮かべながら、主人を下がらせた。

目配りだけで【あとは私の仕事、任せてダーリン】と伝える。

ナズーリンが、新聞大会で上位に入っている新聞を広げながら話し始める。

「はたて君、天狗の社会もなかなかに閉鎖的だね。

そもそも寿命が長い種族だから、面子の入れ替わりが少ない。

読者層も好みの傾向も変わりにくいということか。

スクープといっても、全部天狗社会の中でのことだ。

内輪のやらせくさいし、出版される書籍への評論も打ち合わせ済の感が否めない。

叩かれ役も予め決まっているようだし、総じて台本通り、って感じで面白くはないな。

文章は洗練され、整っているが、突っ込みどころが無いから逆に読後感が薄いね。

そんな中に新参のキミが入っていって、ランキング入りを目指すのだから苦労するだろうな」

はたてもそのことは理解している。

ランキングには天狗社会特有の面倒な序列や慣習がはびこっていて、一筋縄ではいかない。

「キミのライバル、(文々。新聞)だが、取材対象は天狗社会ではない。

それ以外、幻想郷全体に活路を見出しているよね。随分と思い切ったものだ。

勇気が要っただろう。

そこは認めなければいけないな。

はたて君は、そんなところにも魅かれたんだろう?」

素直に頷く。

「さて、(新生:花果子念報)の方向性をハッキリさせておこうか。

今回の目標はランキング入りだから、天狗社会をターゲットにするのが近道だろう。

それともあくまで(文々。新聞)、射命丸文にこだわるかね?」

「私、文との対抗新聞同士(ダブルスポイラー)を目指します!」

即答したはたて。

「やはりそうか。その意気やよし! 私もその方が力の貸しがいがある」

そう言ってニッコリ笑うナズーリン。

その晩は、ナズーリンの居室で打ち合わせが行われたが、八割方はナズーリンによるテコ入れのための講義だった。

(キミの考察はわるくない。大掛かりな事件をじっくり追うことに向いていると思う。単発記事より連載記事で力を発揮できるだろう)

(でも、実は小ネタがいい味だよね。美味しいもの紹介、頑固職人への取材、言い伝えの検証、十分にシリーズ化できる質だ)

(写真と見出し、とても大事だ。内容を読んでもらうためにも【キャッチ】には力を入れなくては)

(自分でこまめに配達すること。 読者の感想を直接聞くんだ)

(記事の内容で勝負したいのだろう? 小細工だが、記事の途中、目を惹かせたい単語を大きくするというのもありだ。やりすぎると紙面がうっとうしくなるがね)

(妄想記事だって悪くないよ。【青文字記事】って知っているかい? 青い文字で、あやふやなこと、危ないこと、ヨタ話。妄想を思いっきり使って書くのさ。ツッコミ上等、クレーム上等でね。青文字で書かれた記事は【本気にしたら野暮ですよ】と隅っこにでも注釈をつけておけばよいから)

はじめはびっくりするだけのはたてだったが、途中から懸命にメモを取りだした。

「やってみます! デスクに教えていただいたこと、全部ためさせてもらいます!」

いつの間にか言葉遣いが改まっていた。

はたては朝食をとらないことが多い。

引きこもりの頃は体を動かさなかったため、食欲が湧かず、それが当たり前になっていた。

打ち合わせの翌日から、はたての生活サイクルは大幅に変わった。

朝一番、命蓮寺にナズーリンを訪ねることから一日がスタートする。

その日の取材計画を確認するためだが、初日、朝食をとらない習慣を寅丸に咎められ、早朝の参詣者向けに彼女が作っている汁物を一杯だけ貰うようになった。

季節の野菜たっぷりの味噌汁、牛乳とジャガイモとトウモロコシのスープ、薫製肉と赤ナス(トマト)とタマネギのスープなどが日替わりで供される。

抑え目の味付けと、細かく刻まれた素材は朝のお腹に優しく、一口ごとに活力が湧いてくるようだった。

日中は飛び回る。

ナズーリンが同行することもあるが、ほとんどは一人だった。

昼食は取材をかねて各地の食事処を利用するが、取材場所によっては、ままならないこともある。

そんな時は寅丸がお弁当を持たせてくれた。

これは朝の確認時にナズーリンが手配してくれるからだった。

内容はおにぎり三つ。

ナズーリンと同じものですけど、と寅丸に聞かされたはたては嬉しくなった。

朝とは違い、はっきりした味付けを施されたおにぎりは、ちょっと疲れた体にちょうど良い。

ちらし寿司をにぎったもの、菜っ葉漬けや薄切り肉で巻いたおにぎり、このあたりがはたてに涙を流させた。

夕方は、家で取材内容の確認と原稿の作成を行う。

しばしばナズーリンが訪れ、徹夜仕事になることもあった。

最初にナズーリンがはたての部屋を訪れたのは、打ち合わせの三日後だった。

一緒に取材をした夕方、細かいネタがいくつかまとまりそうなので、一気に【割付】までやってしまおう、とナズーリンが言ったことがきっかけだった。

「時間が惜しいな。はたて君の家で詰めようか」

はたてはびっくり。

「え? わ、私の家ですか?」

「だって、ここからならキミの家の方がずっと近いだろう?

それに道具もあるんだから、すぐできるじゃないか」

はたては今まで同族以外、部屋に入れたことはなかった。

それも、数えるほどしかない。

「あの、スゴい散らかっているから」

「キミらが言うように、私は単なるネズミだから、どんなに散らかっていようと気にならんさ」

「そんなつもりで言ったんじゃないんですけど」

恐縮しているはたて。

彼女の中ではとっくに単なるネズミから、敬慕する【デスク】に昇格している。

「さ、行くぞ。案内したまえ」

長い時間を過ごした部屋。

都合の良いように少しずつ変えていった家具、道具の配置。

整理整頓されているようには見えない資料、書籍の山。

心の拠り所であった、歪な【城】は、他人が見れば乱雑で異様な空間に見えるはずだ。

見られたくない、と思いつつも、笑いも呆れもしないで受け入れてくれるのはこのヒトだけかも、と期待した。

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