紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンデスク! スクープです!(10)

はたての部屋を見渡すナズーリン。

「いいね。居心地のよい部屋だね。

この家は、この部屋は、長い間、はたて君を守ってくれていたのだな」

そう言って柔らかく目を細める。

このヒトは理解してくれた。

孤独と無為の長い時間を過ごした部屋を、自分ごと受け入れて理解してくれた。

小柄な先達に思い切り抱きついたはたて。

共に崩れ落ちる。

「デスク、私、私は!」

ナズーリンは、はたての頭襟をずらし、ゆっくりと頭を撫でる。

何も言わない。

「私、新聞記者の【資格】は取ったけど、外にでるのが面倒で、いえ本当は恐くて! 今までずっと一人で! これじゃいけないって!
わかっていたのに動けなくて! でも、でも! やっと外に出られて!」

自分でも驚くほど溜めていたものが支離滅裂に噴き出す。

ナズーリンは、その小さな胸にはたての頭を抱え込んだ。

顔正面をふさがれ、しゃべることもままならず、おとなしくなったはたて。

どちらも何も言わない。

はたてが目を覚ましたのは翌朝、自分の布団の中だった。

いつ眠ってしまったのか記憶がない。

辺りにナズーリンの気配はなかった。

ナズーリンに抱かれたまま、気が抜けて眠ってしまったのか。

身支度をして命蓮寺へ、と飛び立つ。

「おはようございます。

デスク、あの、昨日はすみません、ありがとうございました」

一瞬、昨夜と同じく柔らかく目を細めたナズーリン。

一つ頷き、すぐにいつものポーカーフェイスにもどる。

「今日からビシビシいくよ。覚悟したまえ」

「はい!」

印刷所を見たいと言ったナズーリン。

だが、印刷に関する一連の行程は、天狗社会の秘密なので明かすわけには行かない。

そのことを申し訳なさそうに告げるはたて。

デスクは【それも当然か】と追求しては来なかったので、ほっと胸をなでおろした。

しかし、原稿に対する追求は容赦がなかった。

「記事の内容で勝負と言ったのはキミだろう、ならば妥協するな! ぬるすぎる! 無駄が多すぎる、もっと削れ!」

「【そう思われる】ってなんだ!? 確証を掴んでこい! 想像と手抜きは違うぞ!

紙面を真っ青にするつもりか!

さぁ! 今から行ってこい! 納得できるまで帰ってくるな!」

「は、はいっ!」

慌てて飛び立つはたて。

はたてが帰ってこられたのは日が出始めた頃だった。

ナズーリンは腕組みをしたまま待っていた。

「納得いったのか?」

頷くはたて。

「よし、ならばすぐに書きたまえ」

疲れた体に鞭を打ちながら書き上げた原稿を見せる。

「また【思うに】が入っている! 一般記事に自分を半端に出すなと言っただろう! やり直せ!」

半べそをかきながら書き直すはたて。

小柄なデスクは半端仕事を即座に見抜いた。

少し手を抜こうと考えたとき、楽をしようとしたときに限って雷が落ちた。

それでも、はたては嬉しかった。

こんなに真剣に自分と向き合ってくれたヒトは初めてだったから。

本気で叱ってくれるヒトは初めてだったから。

資料、文献の確認が必要になり、二人は紅魔館の大図書館を訪れることにした。

二人とも図書館を訪れるのは初めて。

はたては少し緊張している。

門番に名を告げ、用件を伝えると、しばらくしてメイド長が出迎えにあらわあれた。

「ただいま図書館内を迎客仕様に整えております。もう少しおまちください」

単にレミリアがパチュリーに【私の正式な客として接遇して】と言いにいくだけなのだが。

ナズーリンが小さく手を振ると、メイド長は、にまーっ、と口角を上げ、目尻を下げた。

はたては、瀟洒で冷徹と評される完璧従者の表情が、柔らかく崩れる様に驚いていた。

やがて紅魔館大図書館の扉をくぐった二人。

胡散臭そうに二人を見ているパチュリー・ノーレッジ。

当主から丁重に接するように言われているので仕方なく通したが、本心は【さっさと済ませてさっさと帰って】に尽きる。

それでなくとも、招きもしない迷惑な来訪者が多いからだ。

ナズーリンは最初に手を洗う許可を求めた。

手を洗った後、本の取り出し方、開き方、ページのめくり方までを、小声ではたてにしつこいほど指導するナズーリン。

パチュリーは自分の支配下である図書館内の音声をすべて聞き取れる。

あのネズミ妖怪は一角の知識人、常識人と見て良さそうだと判断した。

小柄な妖怪が、派手な服装の烏天狗に説教をしている。

【知識は無駄にならない。振り回されてはいけないし、それが全てと過信してはならないが、使い方を間違えなければ、とてつもなく大きな力となる。

知識は全能の空へ至るための片翼と知るのだ。

くだらん本もある、だが、本にする時点で多くの思い、労力がそこに在る。

決しておろそかにしてはならない】

見てくれは浮ついた感じの天狗だが、ネズミ妖怪の言葉を心に刻み込むように一つ一つ真剣に返事をしている。

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