紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

魔法使いナズーリン! 放てマスタースパーク!!(4)

客人二人が帰り、ご主人と二人で後片づけ。

皆で暮らし始めた当初、聖とご主人が率先して後片づけをするものだから、仕える側が慌てた。

【姐さんがそんなことしちゃいけませんよ!】

【ご主人、それは従者の仕事だ】

聖が一言。

【家族ですから】

それ以来、二人一組交代で片づけをするようになった。

聖と一輪、ムラサとぬえ、そしてご主人と私。

二人でやれば皿洗いもあっと言う間だし、共同作業ってなんだか楽しい。

三度の食事の支度も皆で分担している。

でも、食材の管理はご主人がしているので、献立決めもおおよそご主人が中心になる。

妖怪、妖獣、幽霊。

血肉を喰らい、恐怖、憎悪など特定の感情をすすることでその身を保つのが普通だ。

本来、人と同じような食事をとる必要はない。

もちろん食べられるが。

ご主人は、三度の食事がきちんとしていれば、人外の存在でもそれなりに満たされる、と考えていて、真面目に取り組んでいる。

食材の管理、調理、何度も失敗しながら、美味しいご飯は人妖共存、皆の幸せに繋がるのだ、との信念を持って取り組んでいる。

あまり器用ではないご主人は、いわゆる食通を唸らせるような料理は作れないが、空腹の50人に対し、短時間で人数分の焼飯と野菜スープを作れる。

その膂力で大きな鍋を振り、たくさんの野菜を休むことなく刻む。

夜、小腹が減ったときには、余りものでささっと夜食を作る。

常備菜や漬物、干物などの保存食作りにも積極的だ。

お祝い事があればそれなりに凝ったものを作るが、驚くほどではない。

ただ、一年365日の三食のうち、普段の食事、千食分を安心して任せられる。

そんな底堅さ、当たり前のことを、当たり前にやってくれる安定感。

それが寅丸星、私のご主人の魅力なのだ。

そして完璧かといえばそうでもなく、たまにポカをやって必死に謝る、心底わびる。

決してごまかそうとはしない。

これは料理に限ったことではないけれど。

まぁ、料理のポカは今では稀だが、それ以外のポカは相変わらずしょっちゅうなのだ。

その失敗が自分で補えないとき、私にすがるのだ、私だけに。

ぎりぎりまで自分で何とかしようと奮闘し、それでもダメなとき、申し訳なさそうに、ときには半べそをかきながらすがってくるのだ。

私だけに。この私だけに。 ここ大事。

たまらない。

私はどんな無理難題にもこたえたかった。

【頼りになるナズーリン】でありたかった、なりたかった。

【ナズーリン、ありがとうございます】と言ってもらいたかった。

ご主人が本当に困って苦しくて私を頼ってきたとき、

(それは知らないな)

(それは分からないな)

(それはできないな)

そんなことを言わなければならないなら死んだ方がましだった。

だから、見て、聴いて、調べて、覚えて、考えて、練習して、知識と、技術の習得に励んできたのだ。

備えてきたのだ。

全知全能。

私は寅丸星にとっての全知全能の存在になりたかった。

そうでないとこのヒトのそばにはいられない、と思い込んでいた。

困ったご主人に向かって、さも当たり前のように、答えてみせる、やってのけてみせる。

ドキドキしながら、冷や汗を隠しながら。

でも、こんな不安定に張りつめていた私をこのヒトは丸ごと受け入れてくれた。

(ナズ、大好きです)だって。

いつも私を心配していたんだって。

私を抱きしめてキスしたかったんだって。

私がいつでも最優先なんだって。

あの告白はたまらなかった。

【好き】に単位があるとしたら、一桁あがった瞬間だった。

翌日、魔理沙は早くから来ていた。

術を試したいのだろう。

はたて君も来たが、魔法使いとは口を利こうとしない。

朝課が終わるまで聖は出てこない。

魔理沙は一人で庭をぶらついていた。

私ははたて君の話を聞きつつも、目は若い魔法使いを追っている。

やがて里の人間や、ヒト型に近い妖怪・妖獣たちがぞろぞろと出てくる。

見送りがてら寺の皆も出てきてそのまま私たちのいる庭へ集まってくる。

今日、聖と魔理沙が何かやるらしいことを聞いたのだろう。

だが、聖は見当たらない。

こちらにやってきたご主人に聞いてみる。

「聖はどうしたんだい?」

「まだ中で里の方の相談事をきいています。もうしばらくかかるでしょうね」

目で聖を捜す魔理沙だが、不在を確認すると、イライラした様子で庭の隅へ歩いていった。

嫌な予感がする。

詠唱が聞こえてきた。術を始めたのだ。

やはり待ちきれなかったのか。

止めたいところだが、身体強化系は半端な発動が命に関わると知っているのでうかつには手が出せない。

突然、詠唱が止み、魔理沙はビクビクッとのけ反り、硬直したまま倒れた。

あの倒れ方はまずい!

駆け寄り、状態を確認する。

呼吸も心臓も止まっている。

「一輪! 聖を呼んできて! 早く!」

大声で呼びかけると、一輪は駆け出した。

一刻を争う。

仕方ない、ここは私の出番か。

まずは気道の開放、頭を強く後ろにそらしてやる。

まだ、呼吸は回復しない。

次は人工呼吸だ、魔理沙の鼻をつまんで大きく息を吸い込み、口をかぶせる。

息を吹き込む。

魔理沙の胸が膨らんだ、よし、通っている。

五回吹き込んだところで、喉のあたりで【ごっ】とくぐもった音がした。

首を支えていた手が脈動を感じ取った。

とりあえず成功か、やれやれ。

「ねぇ、寅丸さん。

こんな時に私が言うのもなんですけど、デスクの唇が、あの、えーと」

「だって、あれは【ミラクルスイートキッス】ではありませんもの。モーマンタイです」

はたて君、こんな時に何を言っているんだね? まったく。

それにご主人、その名称をバラすのはどういうつもりなのか? 動揺しているのか?

「マウスがマウスツウマウス」

この声はぬえ。

間髪入れず【スパーンッ】といい音がした。

ムラサだな。

このタイミングでツッコミを入れられるのはザイダベック号の船長だけだし。

ほどなくして魔理沙が意識を取り戻し、聖も駆けつけた。

大魔法使いは魔理沙の様子を確認し、私に小さく頷いて見せた。

処置は合格ということか。

結局この日の魔法指導はお休みとなり、しばらく寺で休んだ魔理沙は夕食の誘いも断り、意気消沈して帰っていった。

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