紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンユウギ(4)

迷いの竹林とはよく言ったものです。

代わり映えのしない風景が延々と続き、おまけに霧がかかっています。

これでは方向感覚と距離感が狂ってしまいますね。

ナズーリンはそのどちらも補正する術を持っているので、迷うことはありませんが。

女の子が大きな石の上に座っていました。

薄桃色のワンピース、大きな目、黒い髪、その髪からウサギの耳が垂れ下がっています。

因幡てゐ、さんですね。

「こんにちはー」

にっこり笑ったてゐさんが、すとん、と、岩から降りて近づいてきました。

背丈はナズーリンと同じくらい、強さや怖さは感じませんが、
なんだか忘れられない印象を塗り込まれました。

あ、いけない、私もご挨拶しなくちゃ。

「こんにちは、命蓮寺の寅丸星と申します」

「寅丸さん? 虎なの? でも、全然怖そうじゃないね。

あー・・・・・・ ふーん、ものスゴく強いのに頑張って抑えているんだぁ」

え、このヒトいったい何を見ているの? 何が見えているの?

「初めまして、かな? 私はナズーリン。こちら、寅丸星の侍者だ」

少し慌てた私を尻目に挨拶をかぶせたナズーリン。

動揺している場合じゃありませんでした。

「私は鈴仙・優曇華院・イナバ、【おうどん】って呼んでね」

は? てゐさん、ですよね?

私が顔をしかめると、

「うん、うそ。てゐ、因幡てゐ、よ」

このウソ、必要なんでしょうか? 意図が分かりませんよ。

「永遠亭に行きたいの? 血の臭いがするね。怪我したの?」

「いや、気遣い無用だよ。配置薬の申し込みに伺うのさ」

「お師匠様、今はいないよ。往診中。鈴仙も一緒。

多分、夜まで戻らないよ。明日は居ると思うけど」

あら、それでは出直すしかありませんね。

ナズーリンも軽くうなずきました。

「ならば明日、改めて訪うとしようか。

今日のところはてゐどのに会えた幸運を持って引き上げるよ。

あ、そうそう、お近づきの印にこれを受け取って欲しい」

そう言って、京ニンジンを差し出しました。

ナズ、もしかして、このためだったんですか?

「あらー、珍しい。金時ニンジンじゃない。

最近見なくなったよね、甘くて美味しいのに。

あ、それから、てゐどの、って てゐでいいのよ?

寅丸さんと、えーと、ナズリンだっけ? ありがとう」

「ナズーリンだよ」

「ふーん、ナズーリンね。じゃ、アナタのことは【ナズ】でいい?」

「いや、それは困るんだがな」

「略すのは親しみの表れだよ? ナズーリンって言いにくい」

「そう言われても、こう言う名前なんだから仕方ないだろう?」

「私だって【てゐ】って呼ばれてるけど、ホントは【テヰーセン】なんだから」

「そうだったのかい?」

「うん、うそ」

また、薄っぺらいウソです。

ホント、何の意味があるんでしょう?

「明日も来るんだよね?

明日は昼ご飯抜きなの、かわいそうな私のためにご飯を持ってきてね?

そしたら永遠亭まで案内してあげる」

無邪気な表情で結構図々しいことを言いますね。

でも、ご飯抜きはちょっとかわいそうです、なにかの罰なんでしょうか。

引き返す途中、ナズーリンはずっと取り留めの無い話をまくし立てていました。

人里のお店のことや境内の敷石のことなど、私が口を挟む間もないほど次々と。

竹林から出てしばらくして、真面目な顔で私に向き直りました。

「このあたりまで来ればよいだろう」

どうしたんでしょう? よく分かりません。

「ウサギは耳が良いからね。それにあの竹林は彼女の縄張りだ」

「そ、それじゃ、あそこで話したことは全部筒抜けになっちゃうんですか!?」

「まぁ、全部が全部というわけではないだろうが、用心するに越したことはない」

それでどうでもよい話を延々としていたんですか。

「今回は様子見といったところかな?

永遠亭へは明日行けばよいし、一番会いにくい因幡てゐと接触を持てたのだから収穫大だ」

「配置薬とてゐさん、なにか関係があるんですか?」

「薬は薬でも別のことだよ。

妹紅どのとの約束さ。 蓬莱の薬のことだよ」

妹紅さんとの約束! そうでした!

ナズーリンは以前、蓬莱の薬の効果を打ち消す方法を探す、と約束していたんでした。

ホントに大事な約束なのに、私、忘れちゃってました! 妹紅さん、ごめんなさい!

でも、ナズーリンは違いました、【約束】を必ず守ってくれる誠真の使徒でした。

誠実を絵に描いたら、ナズの肖像画になります。

ああぅ、惚れ直しポイント、四千点追加ですー!

「八意永琳から、その方法なり薬剤を手に入れられれば手間が少ないからね。

かなり風変わりな傑物と聞き及んでいる。

無理のない接触をしたいところだ。

対等以上の関係を持って交渉、駆け引きを行いたい。

そこでご主人に質問だよ。

永琳どのの言動に影響を与えるのは誰だと思う?」

ナズーリンに問いかけられ、慌てて妄想モードから切り替えます。

人伝に聞いた話を思い出しながらまとめてみます。

「え、えと、やっぱり主人である蓬莱山輝夜さん?

でも取り仕切っているのは永琳さんでしょうし、鈴仙さんは従者ですよね?」

従者といっても、私、ナズーリンの影響受けまくりですし、ナズが真剣に言ったことにはほとんど従っていますし。

体の関係は別ですけど。

どっちが主人か分かりませんが、不満なんかこれっぽっちもありませんし。

でも、永琳さんと鈴仙さんはそういう関係に思えません、普通の主従ですよね。

あ、私たちって、普通じゃないんでしょうか!?

不満が無い私が異常なんですか???

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