紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリンユウギ(6)

歩きながら永遠亭の皆さんのことを聞いてみました。

蓬莱山輝夜さん【姫様】は、ほとんど外出しないそうです。

以前は妹紅さんが殴り込みのいきおいでやってきては凄惨な戦いをすることもあったようです。

今は妹紅さんから仕掛けてくることはなくなったようです。

そりゃそうですよね、今、妹紅さん色々と忙しいですもの。

八意永琳さん【お師匠様】は、日中は診療や調剤、往診で、夜はなにやら研究をしているそうです。

鈴仙・優曇華院・イナバさん【鈴仙】は、永琳さんの助手、配置薬の集金・補充、炊事、洗濯、掃除、聞いているだけで大変そうです。

そして粗相をすると永琳さんから折檻されるそうです。

なんだか気の毒すぎます。

てゐさんにそう言ったら、

「好きでやってるみたいだからいいんじゃないの?」

ですって。

しれっと言ったこの態度にはどうにも納得できませんが、他所様の事情ですから何も言えません。

てゐさんは竹林の見回りと例月祭で供される団子作りの監督だそうです。

随分と楽なように思えますが、これもナズーリンが言っていた微妙な立ち位置だからでしょうか?

「薬箱はどうするの?」

「は? 薬を入れる箱のことですか? 箱ごと置いていってもらえるんじゃないんですか?」

「それじゃ預箱(あずけばこ)にするってことでいいのね?」

「あの、よくわからなんですけど」

「薬自体は使った分を支払ってもらう【先用後利】だけど、入れ物は貸すだけなのよ、分かるでしょ?」

薬箱は借り物ということですね? もっともですね。

「でも、貸していた薬箱が壊れちゃったらどうなると思う? 弁償しろとは言いにくいよね」

ふむふむ、それはそうですね。

「だから最初に預箱の代金をいただくの。そして配置薬がいらなくなったら引き上げるときに箱代を返すわけ」

なるほど合理的ですね。

「最初に箱代を払わないヒトもいるよ。

ずっと大事に傷つけずに扱ってくれるのならそれでもかまわないんだけどね。

でも壊したらそれなりのお金はいただくよ。

先に箱代を払ってくれるなら、そのお金は大体半額。

どうする? 払う? 払わない? どちらでもお好きなように」

寺に薬箱を置くとなるときっと長い期間でしょうし、それに私自身がうっかり壊しちゃうかもしれませんし、無傷でお返しするのは無理のような気がします。

「先にお支払いします。おいくらですか?」

てゐさんが示した金額は、里の甘味処の【贅沢三昧甘味フルコース・春の調べ】二人分くらいでした。

よかった、そのくらいの持ち合わせはありますから立て替えられますね。

「それじゃ私が預かるから」

両手を差し出すてゐさん。

ここで払うんですか?

「だって薬箱作っているの私だもん。

このお金で材料を仕入れるんだよ」

そういうことですか。

ナズが買ってくれた財布を広げ、お金をわたしました。

「毎度ありがとうございまーす」

いかにも、の作り笑いですね。

まぁいいですけど。

てゐさんは休憩中の永琳さんのお部屋まで案内してくれました。

去り際に【ナズリンによろしくね】と言ってニタッと笑いました。

「近々そちらへ売り込みに行こうと思っていたのよ。

わざわざお越しいただいて恐縮ですわ」

永琳さんは成熟した才女とお見受けしました。

柔らかいのに強い視線、物腰に落ち着きがあり、なにより【頼りになる】雰囲気です。

はぁー、私、この雰囲気にとても憧れます。

ナズに頼られたいです。

「薬は明日、届けしましょう。

ところで、寅丸さん、てゐになにかイタズラされませんでした?」

「いえ、なにも。楽しくおしゃべりしながら案内していただきました」

「そうですか」

永琳さんがじっと見つめてきます。

なにか変なんでしょうか?

なにもなかったと思いますけど…… 箱代のことですかね?

「お薬の箱代はちゃんとお支払いしましたし」

「箱代? なんのことでしょう?」

不審げな永琳さん。

……あっ! ああーっ!

ワタシ、ヒッカカッタンダ……

「いくらとられたんです?」

動揺している私を冷ややかに見据える永琳さん。

私の中で湧き上がる驚きと怒りの感情、でもそれよりはるかに大きいのは自己嫌悪。

バカです! マヌケです!

「寅丸さん、おっしゃってください。私がお返ししますから」

この賢人は、なにもかも見透かしています! そんな憐れむような顔しないで!

恥ずかしい! 言えません!

命蓮寺の代表で来たのに! 皆の心配どおりになってしまうなんて!

こんな愚か者が聖の名代だなんて!

飛びそうな意識を引きずり戻し、歯を食いしばってから、

「いえ! なんでもありません! あれは案内してくれたお駄賃です!」

自分でもなにを言っているのかわかりません。

「これにて失礼します!」

永琳さんと目をあわすこともかなわず、逃げるように永遠亭を辞しました。

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