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ナズーリンユウギ(7)

邸を出て、すぐに飛び上がったのは覚えていますが、その後はわかりませんでした。

金額の問題ではありません、永琳さんの前で大変な恥を晒してしまったんです。

なにが毘沙門天の代理でしょう!

代理がこれでは毘沙門天様まで侮られてしまいます。

それに命蓮寺の、聖の顔に泥を塗ってしまうなんて!

なんと情けない!

私、うっかりモノじゃありません! 精進の足りないただの愚か者です!

聖に、皆に、なんと言ったらいいのか!

そして、そしてナズーリンはなんと思うでしょう!?

【いいところを見せたい】【尊敬されたい】ですって!?

ああっ、なんと大それたことを言ってしまったんでしょう!

数多いる毘沙門天様の【使い】の中から、あのナズーリンが私のところに来てくれたのに。

この幸運を何度も何度も無駄遣いしているなんて、罰当たりの極みです!

あれほど有能なのに、こんなダメな主人に長年仕えさせてしまうなんて。

もう、合わす顔がありません、どうしたらいいんでしょう……

不意に後ろから抱きつかれました! 誰!? 誰って、この感触は……

「ご主人、少し休んでいこう」

今、アナタにだけは逢いたくなかったのに。

振りほどいて逃げたくなりましたが、弱い私は背中から伝わる温もりに全てを委ねてしまいました。

そう、このヒト、こんなときにはいつも真っ先に駆けつけてくれるんです。

私がホントにつらいとき、ホントに悲しいとき、ホントに苦しいとき、いつのまにかそばにいるんです。

何故ですか? 不思議を超えて奇跡のようです。

……もう、泣きそうです。

人気のない林の中、大きな木の根元に二人で座りました。

ナズーリンがすすめてくれた水筒にはぬるくなった麦茶が入っていて、渇いた喉を優しく潤してくれました。

人里での用事を済ませたナズーリンはその足で迷いの竹林の上空へやって来たそうです。

私の様子が尋常ではないと見て、後ろから近づいたそうです。

そう、遠くから声をかけられたら、私、きっと逃げちゃってたと思います。

少し落ち着いたと見たナズーリンは、座っている私に正面から跨り、首に手を回し抱きつきました。

「なにがあったのか話してごらん、ゆっくりでいいからね」

私もナズの腰を抱いて肩に顎を軽く乗せます。

あったかい、なにもかも全部あったかい。

先ほどまでの激情が退いていきます。

「預箱の代金は【保証金】として理にかなった話だ。あり得ることだよ」

今日の出来事を思い出せる限り順を追って話しました。

「ただ、因幡てゐに直接渡してしまったところが失敗だったね」

確かに、てゐさんは【払う? 払わない? どちらでもお好きなように】と言っていました。

強要された訳ではありません、払うことを選んだのは私です。

「今は持ち合わせがない、とか言っておいて、永琳どのに確認すればすんだことだが、
それまでの会話、雰囲気作りにしてやられた、というところだね。

少し辛口の授業だったと諦めるしかないな、それとも正式に抗議するかい?」

滅相もありません。そんなことしたら恥の上塗りです。

「そんなつもりはありません。

てゐさんとのことはいいんです。

私、私がマヌケなせいで毘沙門天様や、聖や、命蓮寺の皆が永琳さんに見下されるのが我慢できないんです」

私はかまわないんです。

でも、私に関わりのあるヒトたちまで私のようにマヌケだと思われたら申し訳が立ちません。

たとえば、聡明なナズーリンが永琳さんにそう思われてしまうなんて、そんなの絶対嫌です。

え……ナズーリンが永琳さんに?

ど、どうしましょう!? ナズはこれから妹紅さんとの約束を果たすために永琳さんと折衝するのに!

【対等以上の関係を持って交渉、駆け引きを行いたい】って言っていたのに!

こんなマヌケな主人の従者だなんて言ったら、対等になんか接してもらえません!

私、私、ナズの足を引っ張りまくりです! これは本気でマズいですよー!!!

抱きついているナズーリンを引っぺがし、

「ナ、ナズッ! あの、ごめんなさい! 永琳さんの、ナズの、ナズは私と違うんだって言いに行きます!!」

「ご主人? 落ち着いて。言いたいことはなんとなく分かるから。

それにその件は心配いらないよ」

「でも、でも、ナズが、ナズが」

「寅丸星!!」

「はひっ!」

ナズーリンの大きな声にビックリ。

「貴方の従者、【ナズーリン】とは、なにモノか!?」

へ? ナズーリンがなにモノ、ですか? 真剣な表情のナズ、ちょっと怖いです。

でも、私、その問いにはいつでも答えられます。

「ナズーリンはこの世で一番頼りになって、この世で一番優しくて、この世で一番素敵なヒトです。

大大大大だーい好きな私の恋人です!」

「あ、ありがとう」

ちょっとうつむいたナズーリン、はぅ、可愛い。

「それならば、その【ナズーリン】が言う! この件、問題なし! 大丈夫!」

はえ?

「ご主人は私の言うことを信じてくれるんでしょ?」

「も、もちろんです」

「だったら、OK!」

「でも」

「でも、は必要なし!」

妙に力強いナズーリン。

なんか変ですけど、ナズが言うのでしたら、そうなんでしょう。

いつの間にかいつもの穏やかな表情になっているナズーリン。

ああ、やっぱりこの顔、大好き。

「ご主人、大丈夫だよ。

他にもいくつか手を打ってあるから。心配しないで。私を信じて」

そう言って、ふわっと笑いました。

あぅ、私、なんて言ったらいいんですか、こんな顔見せられて。

「それからもう一つ【ナズーリン】が言うよ。何度でも言うよ。

私のご主人、寅丸星は高潔で慈愛に溢れ、強く気高く輝く星。

私のほとんどすべてを捧げる至高の存在だ」

そんな、そんな立派なモノじゃないですよ、私、ただのマヌケですよー。

力なく首を振る私の顔を優しく掴んでじっと見つめてきました。

「いいかね? 万に一つ、貴方が己を信じきれずに道を踏み外してしまい、堕ちていくときが来たとしても、【ナズーリン】は必ず貴方の隣にいる。

必ず、だ! 【ナズーリン】はいつでも寅丸星と共にある!」

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