紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン「私はバカじゃないと思うんだが」(1)

「パルスィさーん!」

「星さーん!」

互いに手を取り、ピョコピョコ跳ねている花も恥じらう美姫二人。

やや小柄で濃い金髪、白磁の肌、特徴的な翠緑玉の瞳を細めて喜んでいるのは水橋パルスィ。

大柄なもう一人の髪は黒と金が交じり合った獣王のもの、しかし猛々しさより優柔が表に出る寅丸星。

命蓮寺に珍客到来。

地底旧都の星熊勇儀と水橋パルスィを、旧知の寅丸星とナズーリンが出迎えた。

一昨年に催された地底の大宴会に命蓮寺代表で参加したのがこの二人だった。

「勇儀どの、久しぶりだね。元気そうでなによりだ」

小柄なネズミ妖怪が大柄な一本角の美鬼に話しかける。

彼我の力の差にもまったく動じることなく、当たり前に。

「私は見ての通りさ、地上にちょいと野暮用があるんだ。

パルスィが地上に行くなら寅丸に会いたいとねだるものでね。

少し休ませてもらえるとありがたい」

「ゆっくりしていってくれ。

大宴会とはいかないが、酒と食事は用意するよ。

泊まっていくといい」

まるで寺の主のような物言い。

だが、ナズーリンは聖白蓮から外部折衝について大きな権限を与えられている。

彼女の判断、決定が後から覆されることは無い。

ネズミの従者が【この客人をもてなす】と言ったなら、それは聖白蓮の、命蓮寺の意思ということになる。

尼公は、毘沙門天の使いにして寅丸星の監視役、広い見識と良識を備えているナズーリンを信頼している。

「そいつぁ、ありがたい。いろいろ話もしたいしね」

ナズーリンと勇儀は少し距離をとったまま、話を交わす。

パルスィと寅丸はお互い涙を浮かべ、顔をクシャクシャにしながら抱き合っている。

大切な恋人が他人と真剣に抱き合っている。

ナズーリンも勇儀もそれまでの経緯を知っているので、浅薄な嫉妬は感じない。

感動の再会を演じている二人は、最初に会ったときから、お互いが気になっていた。

いや、最初はなんだか気に食わなかった。

パルスィは、何度も激しく倒れ、泣きながら立ち上がってきただろう寅丸の擦り傷だらけの純心が妬ましかった。

それは今までにはないほど激しく妬ましかった。

寅丸は想い人に注ぐパルスィの、一途で純粋、それなのに見事なまでに謙慎な想いが眩しくて羨ましかった。

パルスィの能力が影響したとしても普段の寅丸らしからぬ激情だった。

そして宴会の終盤、むき出しの感情のぶつけ合いがはじまり、果ては泣きながら罵り合った。

いわゆる【同族嫌悪】に近い感情だった。

自分が求める理想の姿を目の前の相手が具現している、と互いに錯覚していたから。

周囲は静まり返り、視線が自分たちに集まっていた。

宴席では法度の醜態に気づいた二人は、慌てて座を外し、別室で戦闘を再開した。

お互い好きなヒトの話をした。

自分の想いがどれほど深く、混じり気のないものか。

そしてそれが肝心の相手に届ききっていないことを歎き合っていたが、

じきに自分の想い人の鈍さ、素っ気なさ、デリカシーの欠如等、愚痴の言いあいになった。

「勇儀は節操がなさ過ぎなのよ!

人前ではダメだって言っているのに!

勇儀のためなのに分かってない!」

「それでも両想いなんでしょ? 羨ましいです。

パルスィさんは二人っきりのときに、もっともっと勇儀さんに甘えればいいんだと思います。

勇儀さん、甘えさせてくれますよ。とても優しそうだから」

「うー、まぁ、勇儀はホントに優しいんだけどね。

そう、もっと甘えてもいいのかな?」

「そうですとも。うんと甘えて、そして、貴方も勇儀さんを甘えさせてあげればいいんですよ。

私、ナズーリンにこの気持ちを伝えたら、これまでのことが何もかも壊れてしまう気がして言えないのに」

「あら、星さん、アナタ分かっていないのね。

教えてあげるわ。

ナズーリンはアナタのことが大好き。

自分の命より大事に想っている。

アナタの幸せのためだけに生きている」

「えっ!? そんな、そんなことあるはずないです!」

「私は嫉妬に狂って妖になった身。

ヒトの強い想いには敏感なのよ。

間違いない。

彼女はアナタがなにより大事で大好き、狂おしいほどに。

でも、アナタが言うように【立場】を弁え、自重しているだけ。

だから待ってあげて。

きっと彼女から想いを告げる日が来る。

そしたら全力で応えてあげるのよ」

パルスィのアドバイスに半信半疑の寅丸。

だが、後日、なし崩し的に告白しあったあの瞬間、彼女の言が正しかったことを思い出した。

後刻、宴席から抜け出し、二人の様子を見に来たネズミと鬼。

おーい、どうしたー? 大丈夫かー?

腫れぼったい目で【べー】とあかんべをする美姫二人。

鈍感な想われ人たちは、その想いに気づきもせず、のん気に、【やれやれ】と見やるだけだった。

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