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ナズーリン「私はバカじゃないと思うんだが」(3)

「私も大概だと思っていたが、キミは上白沢慧音に匹敵するほどの弩級スケベだな。

しかし、相手を怒らせているようではまだまだだ」

「上白沢慧音? んー? 誰だっけ?」

「ああ、人里の守護者で寺子屋の先生だ。

当人も文句無し、抜群の美人なんだが、【藤原妹紅】というパルスィどのと並ぶほどの可憐な美姫を、毎夜、好き放題、縦横無尽に味わい尽くしている。

それだけではない、口惜しいことに、相互愛撫、攻守交替を容易に成立させている。

技の数は四、五十程度だが、そこにいくまでの雰囲気作り、言葉での縛り込み、相手をその気にさせ、自分から乱れさせる手練手管は達人と言って良いだろうな。

分かるだろう? 一旦、自分の土俵に引き込んでしまえば、後はやりたい放題だ。

実は最も難しいこのあたりを巧みに操る上白沢慧音、ただのスケベではないぞ」

ナズーリンの解説を聞くうちに、見開かれていく勇儀の眼。

「ナズーリン!! ぜ、是非、紹介してくれ! その先生を紹介してくれ! 頼むー!」

「おわっ! いきなり頭を下げるなよ! 角コワイよ! 危ないよ!」

いずれ紹介するから、と言ってなんとか宥める。

「しかしナズーリン、そこまでいろいろ分かっているのに手が出ないとはな。

頭でっかちとはこのことだぞ?」

痛いところを突かれた。

「いや、私だって色々と行動は起こしているさ。

先日も風呂で入念に体を磨き上げ、首に贈答用の真っ赤なリボンを巻き、ご主人の布団の中に潜り込んで待っていたんだ。

もちろん素裸で『たーんと召し上がれ(はぁと)』の札を付けてね。

布団を剥いだご主人は、ちょっと困った顔をしたまま私を掛け布団でくるみ、帯で縛って私の部屋に放り込んでしまった。

絶対いけると思ったがダメだった。 ……何が足りなかったのかな?」

「一言いいか?」

「なんだろうか?」

「オマエはバカだ」

「……バカにバカと言われるのは思ったより腹立たしいものだな」

「そんなベタなやり方。……はぁー、まったく、なっちゃおらんなー。

オマエは寅丸が相手だとホントに頭が悪いなー」

「そこまで言うかね? 生まれてこの方、頭が悪いとハッキリ言われたのは初めてだぞ!」

「悪いったら悪いんだよ、だいたいだなー……」

ロクでもないやり取りは晩御飯の声がかかるまで続いた。

晩御飯。 星とパルスィが支度をしている。

お客様にそんなことさせるわけにはいきませんよ。

いえ、星さんとたくさん話をしていたいの。

料理を教えあう。

勇儀はお酒の肴ばかりだけどね。

実は汁物はお酒のアテにいいのよ。

口をさっぱりさせると改めてお酒の美味しさが分かるんですって。

だから複雑な味は要らないの。

良い出汁が取れたら塩で整え、見た目に鮮やかで風味のある浮き身を入れればそれで十分。

今日は手鞠麩と黄ニラを添えましょう。

ナズーリンは、味はもちろんですが、歯触り、舌触りの食感を重んじるようです。

コリコリ、プチプチ、ヌメヌメ、パリパリ、スルスル、変化を楽しみたいんですって。

食材の組み合わせ、調理の仕方が工夫のしどころですよね、当たり前ですけど。

考えるの楽しいです。

今日は牛蒡を薄く長く削って甘辛味をつけ、油でカリっと揚げましょう。

これ以外にもいろいろと作りながら話し合う。

食事の支度がこんなにも楽しい。

お互いの想い人の嗜好をネタにノロケながら料理のキモを伝えあう。

寅丸星にとってナズーリンは、当初、緊張を強いられる存在だった。

自分よりもはるかに優秀なのに立場は従者、そして監視者でもあった。

そっけない言葉とほとんど変化しない表情に戸惑った数百年。

それでも二人きりで残された千年間、不安定な心をいつでも支えてくれた存在。

経典よりも頼れる道標だった。

数百年かかって信頼が親愛にかわり、そして至上不換の存在になった。

しかし主従の立場を超えて想いを伝えるわけにもいかず、鬱屈した時を過ごしていた。

パルスィは星熊勇儀からの告白に困惑した。

冗談に違いないと思いながらも【鬼は嘘をつけない】と言う風説を頼りに、勇儀の強引なアプローチにとりあえず頷くことにした。

だが勇儀の情愛は本物だった。

受け止め切れないほど大きく、むせ返るほど濃厚だった。

お前だけと言われ嬉しかった。

身も心も痺れた。

愛に飢えた存在だったから。

しかし旧都の顔役である鬼の大将格と下賤な妖怪である自分では身分の違いは明らか。

この陽気で優しい人気者の評判を落としたくなかった。

故に他の目があるところでは常に控えめにして、勇儀の酔狂で囲われているモノの一人として振舞った。

お互い溜めていた気持ちをぶつけ合ってそれなりの解決の糸口を掴んだ。

【同族嫌悪】が【同病相哀れむ】に、そして励まし、応援する相手になった。

寅丸星と水橋パルスィは驚くほどの短時間で盟友となっていた。

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