紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン「私はバカじゃないと思うんだが」(6)

改めて地底からの客人二人に正対するてゐ。

「鬼のお姉さん、勇儀姉さん? じゃあ【ゆーねーさん】でいい?」

「アンタの方がずっとお姉さんだと思うがな」

勇儀には目の前の妖怪ウサギが経てきた年月、それが半端ではないことは見て取れる。

自分と同等以上の大妖になってもおかしくない経験を積んでいそうなのに、【力】は感じない。

漫才の相方のネズミ妖怪と【在り方】が似ている。

コイツらは永い年月をどんなふうに過ごしてきたのだろう。

戦いと酒色に明け暮れてきた勇儀には想像もできない。

「こういうのは見た目とか雰囲気ってあるからね。

そちらはパルスィ? スィーなの? どうも横文字は呼びにくいなぁ。

ぱるしー、ぱるちゃん、ぱるるん、それとも、パー子でいい?」

「最後のは絶対イヤ!」

それまで無口だったパルスィが反応した。

確かに具合が悪いのかもしれない。ツッコミが弱い。

普段の彼女なら【ペーの奥さんでも、パー○ン3号でもないわよ!】くらいは言う。

先導のナズーリンとてゐが異次元漫才を繰り広げているうちに一行は永遠亭に到着した。

珍しく待合室には誰もいない。

今にも降りだしそうな天気に具合の悪いモノたちの足も鈍ったか。

いつの間にか姿を消したてゐ。

皆がそのことに気づいたあたりで八意永琳があらわれ、挨拶をした。

今、診療室を掃除しているので少し待って欲しいとのこと。

直前の患者になにか粗相があったらしいが、当然詳しくは話さない。

ナズーリンが【うん、うん、よし、よし、眼福、眼福】と嬉しそうに何度も頷いている。

彼女が勝手に称している【幻想郷・乳八仙】のうち、三人までもが手の届く範囲にいるのだ。

「寅丸さん、先だっては失礼をしました。

てゐはきつく叱っておきましたから」

永琳はこの一行に急患はいないと見て、気を緩め、寅丸に話しかける。

過日、寺の配置薬の申し込みに訪れた寅丸は、途中、てゐの幼稚な詐欺にひっかかって、軽作業半日分くらいの給金分をだまし取られたことがあった。

「いえ、私こそ恥ずかしいところお見せしてしまいました。

あれもきっと縁あってのことだと思います。

あの後、いろいろ良い方に流れましたから、満足しておりますよ」

軽く頭を下げる寅丸を少驚の表情で見やる月の頭脳。

「不思議な方ですね。

気にしていたと思っていたのに、すぐにそのように切り替えられるとは。

はじめから気にしないのとは違い、激しく揺れ動く感情を美しく御しておられるのですね」

「いえ、私はただの未熟者です。

ですが、この身も心も支えてくれる存在があるのです。

立場は従者ですが、私を常に導いてくれるナズーリンがいるのです」

そう言って恥ずかしそうに俯く。

永琳は視線をネズミの従者に移す。

「従者にして導師ですか、やはりとても興味深いですね。

じっくり話をしたいものです」

【やはり】? ひっかかりを感じたナズーリンだが追求はしなかった。

「力が弱っているわね」

パルスィを診察を終えた永琳の第一声は待合室の三人に対して。

別室で点滴を打たれている本人には聞かれないように。

「体には異常はないし、病気でもないけれど、妖怪としての力の源がとても小さく弱くなっているの」

嫉妬が高じて妖化したパルスィはそれを操る能力もさることながら、妬む心が存在の礎になっている。

他人を妬ましい、と感じることでその身が成り立っていた。

しかし、今のパルスィは満たされている。

嫉妬する必要がない。

星熊勇儀の存在が彼女の境遇を変えてしまった。

妬ましいと思わない、思えない橋姫。

ならば、その存在が薄くなるのは道理。

以上が八意永琳の【診察】結果の説明。

星熊勇儀は呆然としている。

そして【治療】の方法と段取りに移る医師。

「嫉妬心が戻れば力も戻るでしょうね」

それは嫉妬させるために、フリでも良いから勇儀に浮気をしろと唆しているに等しい。

「薬で疑心暗鬼にさせることも出来ないわけじゃないけれど、いずれ薬を飲むことにも疑いを持つわ。

効果が切れたとき、それまでの自分を激しく責めることになるでしょう」

仮に愛情に質量があるとしたらパルスィのそれは常人とは桁が違う。

それこそ妖鬼になるほどに。

その愛を疑ってしまったと気づけば、自分の心身を自ら傷つけるかもしれない。

そこに思い至った勇儀は俯いたまま首を振った。

「あるいは新たな力の源を付加するか」

神が地獄鴉に八咫烏の力を与えた例もある。

「でも、それは私の専門外。申し訳ないけれど」

「他に方法はないのかい?」

しばらく俯いていた勇儀がそのままの格好で聞いた。

「【対症療法】の観点では他に思い当たらないわ。

もっとも【原因療法】をしようにも、症例が皆無だから手の施しようがないの」

無責任な気休めを言わないのはいいとしても、少々冷たく感じる。

「まだしばらくは【嫉妬心】が残っているから大丈夫でしょうけど、近いうちに貴方は決断しなければならなくなる。

結局は貴方次第」

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