紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン「私はバカじゃないと思うんだが」(8)

陽が落ちた頃、予想通り雨が降ってきた。

風もかなり強い。

「うひゃー! すいませーん!! 雨宿りさせてくださーい!」

ずぶ濡れで本殿の入り口を訪れたのは姫海棠はたてだった。

出迎えたナズーリンが大きめの手拭いを渡す。

「どうしたんだ? 天気を読み違えるとはキミらしくもないな」

「うー、面白い岩を撮影していたんですよー、雨雲に気づきませんでした! 失敗でーす!」

けらけら笑うはたて。

「まったくキミは……集中するのはいいが、体を壊しては元も子もないんだぞ」

「はーい、デスク、以後、気をつけまーす。えへへへ」

とりあえず上がりたまえ、そう言った瞬間、客間の襖がバンッと開いた。

「ナズーリン!! 来てくれ! パルスィの様子がおかしい!」

勇儀の姿を見たはたては目を丸くしてその場に尻餅をつく。

「……お、お、鬼、おにーーー!!」

腰を抜かしたはたてを放っておいて客間に駆け込むナズーリン。

パルスィは目を閉じて静かに寝ている。

いや、静かすぎる。

口元に耳を近づける。

呼吸はしている、だが、間隔が長い、長すぎる。

立ち上がり、戸口から顔を出し叫ぶ。

「ひじりー!! ひじりーーー!! 客間だー! はやくきてー!!!」

飛ぶようにして駆けつけた超人・聖白蓮。

素早くパルスィの容態を診る。

「気脈に乱れは無いわ、病の根も無い。

でも、大事な力の源がどんどん無くなっていっているの! 止められない!」

珍しく取り乱した聖白蓮が叫ぶ。

ナズーリンは八意永琳の言葉を思い出す。

【少し妬ましいとすれば、地下ではおおっぴらに接することが出来ないことくらい】

【薄い嫉妬に何とか縋っている状態よ。それが無くならなければ数年は大丈夫でしょうね】

地上に出て、パルスィは唯一妬ましかったことが解消されてしまった。

白昼堂々往来で人目を気にせず勇儀と手をつないで抱き合った。

日の光の元、愛する人と誰に気兼ねすることなく笑いあって歩きたい。

ずっと夢見ていた、ささやかだがパルスィにとっては何より大事だった願い。

ヒトによっては【他愛もない】と思えるちっぽけな願い。

愛に裏切られ、愛に飢え、狂って堕ちた先に運命のヒトが待っていてくれた。

(いつかこのヒトと日の当たる道を一緒に歩きたいなぁ)

彼女には、もはや妬ましいことは何も無くなってしまった。

勇儀の迸る愛情表現が症状を一気に進ませてしまったのだ。

そのあたりの調整を怠った自分のうかつさを呪うナズーリンだが、遅い、遅すぎる。

緊迫した空気の中、パルスィがうっすらと目を開ける。

「……ゆーぎぃー、わたしー、な、んだか、しあ、わ、せ、んふふ」

嬉しそうに言って、再び目を閉じる。

『パルスィーーーーーーーー!!!!』

怒号とともに立ち上がった星熊勇儀、何をしようとしているのかは明快。

嫉妬心を煽るなど間に合うわけも無い。

今すぐ山に行くのだ。

神に頼むのだ。

こうなっては止めようがない。

妖怪の山にいきなり鬼が乗り込む。

事前に連絡をしておかねば悶着は避けられない。

だが、今回は時間がない。

勇儀の代わりに誰かがパルスィを連れて行けば良いのだが、激情に駆られている鬼が納得するはずもない。

「私も一緒に参ります!」

少し遅れてやってきた寺の住人たちの中、寅丸が状況を読んで名乗りを上げる。

「ダメだ!!」

従者の鋭い叱責に驚く寅丸。

「山の妖怪たちの面子が絡むかもしれない。

命蓮寺の寅丸星はその場にいてはいけないのだ。

もめ事が起きたとき、寅丸星が鬼の側にいると言うことは、命蓮寺は山の妖怪たちと対立する、という構図ができあがってしまう。

これはよろしくないのだ、だからダメだ、私が行く」

唖然としている寅丸を尻目に続けるナズーリン。

「命蓮寺の看板であり、聖白蓮の名代、毘沙門天の代理、ご主人は自分の気持ちだけで行動してはいけない立場だ。

自分の気持ちに素直に正直に行動して良いのは私に対してだけだ。

分かってくれるよね?」

(前半は道理だけど、後半は全然関係ないんじゃないの?)

その場の全員の心の声。

「は、はい、分かりました、お留守番してます」

顔を赤らめモジモジしている寅丸星。

(納得するのかー!)

妖怪の山、山頂に向かうのは、ナズーリン、防水布に包まれたパルスィを抱える勇儀、そしてはたてだった。

はたては星熊勇儀の存在に体の震えが止まらない。

しかし、師匠のナズーリンから状況を聞いた彼女は自分が同行することで、少しでも悶着を回避することができれば良いと判断し、震える体に活を入れた。

生憎の雨、風も強い、上空にいくほど強い。

うんと上空から山頂を目指す、というわけにはいかない。

仕方なしに山を舐めるような低空飛行を強いられる一行。

この悪天候が逆に幸いして、すんなり山頂の神社まで行ければ儲けモノなのだが。

しかし、ナズーリンは自分の淡い期待は実現しないだろうと確信している。

こんな豪雨強風の中でも山への侵入者を決して見逃さない奴がいるから。

それは犬走椛。

普段は、ぼんやりのんびりと見えるが、実は常に山全体に気と目を配っている千里眼の持ち主。

潜入探索を生業としているナズーリンは、自分だけなら誰に見咎められることもなく、好きなところへ行く術を心得ているが、これほど目立つ同行者がいてはどうにもしようがない。

妖怪の山自体を崩すことのできる怪力乱神の鬼が、その存在、その力を隠そうともせず、山を登ってきているのだ。

椛が感知していないはずがない、とあきらめている。

[←]  [小説TOP]  [↑]  [→]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.