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ナズーリン「私はバカじゃないと思うんだが」(9)

ナズーリンの予想通り、山の中腹に来たところでその哨戒天狗に呼び止められた。

「止まってください!」

犬走椛が警告する。彼女は後ろに五人の白狼天狗を従えていた。

【山】が、今回の侵入者をどれほど重く見ているかがわかる。

鬼の肩に手を置くナズーリン。

勇儀にもその意味は分かる。

無表情で前を向いたまま、軽く頷いた。

「椛! これにはわけがあるの! 後で説明するから今は通して!」

両陣営の真ん中に身を滑り込ませた姫海棠はたてが懇願する。

「はたて様、それでハイそうですかと通しては任務になりません……

すでに別の白狼が報告に行っています……

ほどなく判断のできるモノが参ります……

詳しいお話はそれからとなりましょう……

それまではお待ち願います……」

殊更ゆっくりと、時間を稼ぐように正論を吐く椛。

雨風の中、空中で対峙していると、やや下方から『豪っ!!』と突風が、いや轟嵐の塊が突き上げてきた。

慌てて勇儀の首にしがみつくナズーリン。

その風は上へ上へと吹き上げていたが、数秒でぴたりと収まった。

何とかその場に踏みとどまっていたモノ達がようやく目を開く。

なぜか眩しい。

突然の眩しさに上空を見上げると、雨雲は吹き散らかされ、本来の主役である弓張月が当然のように輝いていた。

その月光を背負い、凛然と宙に立っていたのは射命丸文だった。

写真機も文花帖も持っておらず、大きな羽団扇だけの姿。

今は【新聞記者】ではなく、【山の鴉天狗】であることを示している。

「【風の三郎ヶ岳】の筆頭、鴉天狗の射命丸と申します。

そちらにおはすは、四天王の星熊勇儀様とお見受けいたします」

大きな声ではないが、冴え冴えと響く。

四天王の一角が応える。

「いかにも星熊勇儀だ。

わけあって山頂の神社を訪うところだ。通してもらおう」

勇儀の声もよく響く。

「例え星熊勇儀様といえども、然るべき筋道を通していただかなければ、聞けませぬ。

どうか、今夜のところは、このままお引き取りを願います」

「山の連中には用は無いんだよ。

神社の用事が済んだらさっさと引き上げるからさ。

いいだろ? 頼むよ」

一転して態度を軟化させる勇儀、彼女にしては最大級の譲歩と我慢だろう。

パルスィのためなら天狗や河童に土下座しても構わないと思っている。

「なりませぬ。お引取りください」

冷たく突き返す鴉天狗。

勇儀が抱きかかえている布の塊がヒトであることは分かっている。

それに、あのナズーリンデスクとはたてまで一緒なのだ。

なにかとてつもなく緊急の用事があるに決まっている。

十分に状況を理解している文だが、ここは譲れない。

妖怪の山でそれなりに責任ある立場。

白狼天狗の報告で侵入者が【星熊勇儀】と知った山の中枢は驚愕し、対応を検討する時間稼ぎのため、幻想郷最速の射命丸文に『とりあえず今夜は帰ってもらえ。なんとしても』と下知した。

なんとも浅慮な命令だが、今は何より大事な椛が応対しているはず。

文は最大速度で現場に急行したのだ。

文の答えを聞いた星熊勇儀の中で何かが切れた。

「……ならば、もう頼まん! 押し通るまでよ!!」

長い金髪がうっすらと光り出し、命を持ったかのようにうねうねと動き始める。

それまで首っ玉に抱きついていたナズーリンが慌てて飛び退る。

勇儀の周囲の空気が、流れることを止め、不自然に張り付く。

『ミシッ! ミシッ!』

空気が固形物のように重く、硬くなっていく。

怪力乱神の【力】の欠片が解き放たれようとしている。

滅多なことでは使わない本来の【力】、山を崩し、河の流れをねじ曲げてしまう、理解不能のとてつもない【力】。

星熊勇儀がその力を眼前の相手に行使しようとしている。

犬走椛、姫海棠はたて、そして他の白狼天狗たちは勇儀の変容に身動きすら出来ない。

圧倒的な力の差、鬼の【本気】に魂までも縫い止められていた。

しかし、射命丸文はその気に中てられながらも使命を果たそうと踏みとどまる。

こんな剣幕の鬼を山に入れるわけにはいかない!

「ならば仕方ありません。

力及ばずとも、この身を盾にするだけです!!!」

じきに援軍が来るはず、それまでこの鬼をなんとか足止めする。

この命を費やしても。

文は袂から取り出した小さな布袋を椛に向かって投げつけた。

それを受け取って驚く椛。

そして羽団扇を平正眼に構えた。

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