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ナズーリン「私はバカじゃないと思うんだが」(10)

(最悪だ!)

これまでのやり取りを黙って見ていたナズーリンは、歯噛みする。

状況は悪くなる一方だ。

このままでは怪我人程度では済まない。

このところ心が満たされ過ぎていて、色々と鈍っているのか。

事前に打たねばならないはずの手回しがすっぽり抜け落ちている。

なにが【賢将】か、役立たずのバカモノめ!

それでも最善手をひねり出そうと思案していたナズーリンは、いきなり、はたてに飛びつかれた。

そして二人して一気に高度を落としていく。

「デスク! いけません!

あれは真空烈波の構え! スペカじゃありません! 文は本気です!!

無数のカマイタチがスゴい勢いで飛んできます! 巻き込まれたらバラバラですー!!」

抱きついたままのはたてが耳元で怒鳴る。

そんなものを喰らったら、勇儀はともかく、パルスィは無事ではすまない。

(ここは一旦、退くしかないのか)

ナズーリンは、はたてを振り払い、両者の間に割り込むべく上昇を開始する。

『双方それまで!』

突然、空に轟きわたった制止の声。

全員が見上げる先に居たのは注連縄を背負った八坂神奈子。

「なにやらとてつもなく大きな力がやってきた思ったら、鬼の大将だったか。

話はおおよそ聞こえていた。

この勝負、私が預かろう。

天狗たち、ここは八坂の顔を立てて引いておくれな。

天魔どのには後ほど私から話をするゆえ」

そう言いながら、勇儀と文の間に降りてくる。

それを見た二人は高めていた力を一気に緩めた。

文としては、天魔と同格である山の神の言を無視はできないし、勇儀の目的は目の前の神だったし。

「話は社で聞こうか。

では鬼の大将、参ろうか? 私についてきやれ。

ああ、そうだな。

見とどけ役がいるだろう、そこの鴉天狗、そう、オマエだ。

同道しなさい」

ナズーリンに追いついてきたはたてを指差す神奈子。

あっという間に戦場を畳んだ神奈子は、勇儀たちを伴って山頂へ向かっていった。

椛は文の元に駆けつける。

文が椛に投げたつけた布袋には、椛が彼女のために拵えた将棋の駒を模ったお守りが入っていた。

なにかと危なっかしいことをする文に、無事で帰ってきてくださいと満願をかけ、拵えたものだった。

それを椛に返した文、【永久(とわ)のお別れ】と覚悟を決めたからに他ならない。

本気の鬼と戦うとはそういうことだから。

文は、一行が去った後もその方向を見つめたまま小刻みに震えていた。

椛が優しく抱くと、文の眼は涙を湛え始めた。

「……こ、怖かった……ほんとに怖かった……」

そんな文をあらためて強く抱く椛。

「文さま、素敵でした。

貴方はとても強い心をお持ちなんですね。

カッコよかったですよ」

そこまでは明るく誇らしげに言った椛。

「でも、悲しかったです。

お立場は分かります、でも悲しかった。

私を捨てて、お一人で死ぬつもりだったのですね?」

とがめるような口調、まとっている雰囲気が変わり始める。

「文さまがいなくなった後、私がどうなると思ったんですか?

平気で生きていけると思ったんですか!?

何故、あのとき、一緒に戦えと、一緒に死んでくれと言ってくれなかったんですかー!!」

白狼天狗は涙声。

「あ、あやさまは、あやさまは、ヒドいヒトです!

私の全身全霊を受け止めるって言ってくれたのに!

一心同体だって、死んでも一緒って言ってくれたのに! ウソだったんですか!?

どうして!? どうして!?  最後には私を捨てるんですか!?

だったら、いっそ今、殺してくださいよ!

あやさまのバカ! バカあやさま! 私、ワタシ、こんなこと、二度と耐えられません!!!」

普段は冷静でどこかのんびりしている椛が真剣に怒っている。

椛だけは守りたいと思って行動した文だが、その結果、逆鱗に触れるどころか踏んづけてしまった。

先ほどまでの自分の激しい感情を脇に置いてでも宥めなければ。

「も、椛、ごめんねー、もうしないよぅ。

だから、許して? ね?」

「なんですかっ!? 上辺だけカワイコぶって! ぜっん! ぜっん! 心に届きません!!

やり直しなさい!!」

こうなったら容易くは機嫌が直らない白い天狼、犬走椛。

文の本当の戦いはこれからだった。

「私、なにもできなくて申し訳ありません」

八坂神奈子と共に守矢神社へ向かっている途中、はたてが師匠と四天王に詫びていた。

「いつもの文は、お山の仕事も割りといい加減なんですけど、仲間の危機となると、人が変わるんです。

あと、星熊様の前でなんなんですけど、【鬼】のことになると、私達はかなり神経質になります」

お互い話が出来るほど固まって飛んでいる。

「おいおい、私には、そんなつもりは毛頭無いんだがなー」

神奈子に会えたことで普段の調子を取り戻しつつある勇儀が言う。

「そうだとしてもです。

妖怪の社会を容易く揺さぶるとてつもなく強くて怖い存在、それが鬼なのです。

少なくとも私はそう教えられてきました」

「んー……そんなもんか。

それならば、あの射命丸と言う鴉天狗は、随分と肝の据わった娘なんだな」

力の差を知りながらも一歩も引かず、命を懸け、気丈に立ちふさがった。

「そうです。文はスゴいんです。

怖くないはず無いのに、私は竦んで身動きできなかったのに。

色々な意味で強いんです。

私、全然及びません。

彼女には敵わないんです」

ライバルとの器の違いを見せ付けられて悔しそうなはたて。

その肩にそっと手を置いたのはナズーリンデスク。

「今の自分の力を知り、いつも頑張って背伸びして、少しずつ成長している。

はたて君、キミがどれほど思いやりがあって、優しいのか、清廉な向上心を持っているか。

私はよーく知っている。

だから焦ることはない。

キミは、キミがなりたいと思うモノに必ずなれるさ」

「……デスク、ありがとうございます……頑張ります。

私をずっと見守っていてください……」

はたては肩に置かれた手に自分の手を重ね、俯いてしまった。

「ナズーリンは存外浮気ものだなー」

麗しい師弟愛を目の当たりにした勇儀は、生来の気質から茶々を入れてしまった。

「違います! デスクは寅丸さん一筋です、私はたまにご一緒できればいいんです!

少しだけお情けをいただければ満足できます!」

「なんだその愛人志願は」

「えっ!? あ、愛人とかじゃありませんよ! 違いますよ!」

慌てて否定する弟子を少し呆れながらも優しく見つめるナズーリン。

自分へ向けられている感情は、思慕の域を出ないだろうと予想している。

これほど素敵で楽しい娘なのだ、いずれ生涯を誓える相手に巡り合うだろうと思う。

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