紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

七曜のクッキー(1)

姫海棠はたてが紅魔館の門前に降り立った。

「美鈴さん、こんにちわー。お疲れ様でーす」

門番、紅美鈴に挨拶して小さな包みを渡す。

「はい、こんにちは。 これはなんですか?」

「命蓮寺名物の虎縞どら焼き、【とらまる焼き】ですよー。

二つだけなんですけどね」

「なななんですとー!!?」

美鈴が驚くのも無理もない。

【とらまる焼き】命蓮寺の定例行事で参詣者に供される表面の焼き目が虎の縞模様になったどら焼き。

この寅丸星特製の和菓子を寺に縁のないモノが口にすることはほとんどない。

以前、彼女が遣いに行った里の雑貨店は命蓮寺の檀家になっていた。

店の者が品物を揃える間、茶うけに出された【とらまる焼き】に美鈴はすっかり魅了されてしまった。

美鈴は和菓子、特に餡を使った菓子が好きだったが、勤務先のメイド長が作るのはほとんど洋菓子。

美味しいのは間違いない、文句なしに美味しい。

だが、無性に餡が恋しくなるときもある。

だから、たまに里へ行ったときは、必ずと言っていいほど饅頭やきんつばを買った。

【とらまる焼き】はそんな彼女のど真ん中だった。

餡が秀逸であることもさることながら、生地と餡の間に放り込まれたたっぷりの有塩バターの塩気が甘味と旨味を引き出している。

うら若い乙女であれば二つ目はためらうほどの高熱量だが(ほとんどの場合迷った挙げ句、食べてしまう)、美鈴は自分なら20個はいけると踏んでいた。

だが、その製造元、入手方法を聞いて愕然とした。

自分の立場ではよほどの幸運に恵まれない限り手に入らない。

がっかり。

そこへ舞い降りてきた幸運の鴉天使、いや鴉天狗。

もともと美鈴は姫海棠はたてを気に入っている。

当主と図書館責任者からフリーパスを与えられているのに、門番である自分に必ず声をかけてくる。

元気な挨拶、ねぎらいの言葉、たまに差し入れ。

いいヒトだなーと思っていたところへ今回のこれ。

「はたてさん! ありがとうございます! とてもうれしいです! 大感恩!!」

機会があれば彼女の力になってあげようと思った美鈴だった。

たかがどら焼き二つと軽んじるなかれ、物事、タイミングの良し悪しで結果が左右することはザラだ。

それに今回の差し入れは偶然や気まぐれではない。

前日、命蓮寺に立ち寄ったはたては、寅丸から直々に【とらまる焼き】を三つもらった。

家に戻っていつものように編集作業。

夜食に一つ食べ、さて、もう一つと手を伸ばしたときに、翌日紅魔館図書館へ行くことを思い出した。

併せて門番のことも思い出した。

里の和菓子屋を取材したおり、意外な常連客の名前を聞いていた。

その客の買い方は少量多種、土産物としてはあまり適当ではない。

店主は本人遣いと推測していたし、はたてもそう思った。

美鈴が和菓子好きと当たりをつけたはたて。

ならばこの【とらまる焼き】は絶対に気に入るはず。

店では買えない抜群に美味しいどら焼き、あの人当たりの良い門番はきっと喜んでくれるだろう。

暑い日も寒い日も休まず外勤め。

大変だなぁと思っていた。

図書館長と自分、一つずつとも考えたが、先日の特製クッキーをまたご馳走してくれるとしたら、和洋がバッティングしてよろしくないかも。

そんなことを考えながら、はたては残りの二個を包みなおした。

はたての予想以上に紅美鈴は喜んでくれた。

よかった。

「パチュリー館長、こんにちわー。はたてでーす。

今日は鉱物の図鑑を見せてくださーい」

「いらっしゃい。どうぞごゆっくり」

穏やかでハリのある声が返ってくる。

はたてにとってはいつものことだが、動かない図書館の本当のいつもは面倒くさそうで抑揚の少ない小さな声だ。

パチュリーが来館を歓迎する唯一のヒト、それが姫海棠はたてだった。

テーブルに広げた数冊の図鑑を見比べながら首を捻って眉をしかめているはたて。

「あ、その一番大きい図鑑、第四章以降は図と解説がずれているわ。

解説文が示す図の、ひとつ前の図を参照して。

編集の時に手違いがあったんだと思うの。

それさえ気をつければ、なかなか役に立つはずよ」

「あ、なるほどそうだったんですかー、ありがとうございます」

図説の矛盾に気づき、他の本と比較検証をしていた鴉天狗が礼を言う。

パチュリーははたてを気に入っている。

初めてここを訪れた時に一緒だったネズミ妖怪に、本を丁寧に取り扱うことを徹底的に仕込まれていた。

今もそれを忠実に守っている知識欲旺盛な鴉天狗を気に入っている。

「はたて、お茶にしない?」

「いいですねー。お相伴させていただきます」

手ずから紅茶と菓子を用意するパチュリー。

他の来館者の場合は、メイド長なり使い魔にさせるのだが、この客は必ず自らがもてなす。

前回供した新作のクッキーがことのほか気に入ったようだったので、今日も準備しておいた。

七種類の小ぶりなクッキーがそれぞれ一つずつ皿の上に並べられている。

【火】を表した【オレンジピールクッキー】

【水】を表した【フレッシュミントクッキー】

【木】を表した【抹茶アーモンドクッキー】

【金】を表した【クリームチーズクッキー】

【土】を表した【チョコチップクッキー】

【日】を表した【バタークッキー】

【月】を表した【スノーボールクッキー】

七曜の魔女プロデュース、紅魔館特製【七曜のクッキー】

「この前、このクッキーを初めていただいたときは、【日】のバタークッキーから曜日の順に食べてみました。

私あの後、考えたんですが、食べる順番によって物語が変わってくるんじゃないかなと」

「物語? どういうこと?」

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