紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

七曜のクッキー(4)

パチュリーにとってこれほどの速度で飛ぶのは二度目のこと。

初めては、魔理沙の箒の後ろに乗せてもらった時。

夜遅く、神社から紅魔館まで送ってもらったことがあった。

【飛ばすぜ! しっかりつかまっていろよ!】

未知のスピードで宙を切り裂いていく。

びょうびょうと唸りを上げる風音が正直怖かった。

眼をつぶり、必死で背中にしがみつく。

あっという間に到着した。

箒から下ろされてもしばらく放心してしまった。

圧倒的な速度に畏怖と憧憬を感じた。

今も素晴らしい速度で飛んでいる。

なのに風をほとんど感じない。

自分の最高速度の数倍で飛んでいるのに、周りの景色を眺め、はたてと会話をする余裕さえある。

はたては風を【捌く】と言っていた。

鴉天狗の力なのだろうか。

日傘が煽られる気配もない。

ただの移動なのに、なんと素敵で気持ちのよいことか。

快適な空の旅、そう表現するほかない。

半刻ほどで目的の【岩】に着いた。

パチュリーは座っていたクッションを畳んでいく。

一回畳むたびに何かつぶやきながら、軽く叩く。

そうすると厚みが半分くらいになった。

何度も畳んでは叩く。

そのうち、手のひらに乗るくらいの大きさになった。

それをポシェットにしまう。

「すごーい! すごいです! 魔法ってすごい! パチュリー館長! 素敵ですよー!!」

いたく感激しているはたて。

(アナタが贈ってくれた空の旅の方がずっとずっと素敵よ)

本気でそう思っていたし、そう言いたかったのに。

「このくらい、たいしたことではないわ」

(わ、私、バカなのかしら? なんなの? きちんとしゃべりなさいよ!)

気を取り直して調査を開始する。

パチュリーは、件の岩を少し削り、薬液の入った小さなガラス瓶に入れる。

岩の粉はシュワシュワと溶けた。

持参の小さな図鑑を睨みつける。

はたてに周囲の風の流れを調べさせる。

何度も細かく。

ややあって告げる。

「凝灰角礫岩のようね。

火山灰を多く含んでいるから風の浸食を受けやすいのね。

この場所、岩の根元の方にだけ強い風が流れているわ。

ほら、あそこにある大きな岩壁、妙に鋭角でしょ?

あれに当たった風が下りてきて地面を舐めるように流れている。

だから根元の方だけ侵食を受けたのだと思うわ」

それまでパチュリーの行動を注意深く見守り、時折メモを取っていたはたて。

今はパチュリーの最終考察を黙って聞いているようだ。

「百年単位で出来るものではないわ。

何かの拍子でここらの地形ごと幻想郷にやってきたのでしょうね。

いずれにせよ、偶然撓められた風の道が気まぐれで造った【キノコ岩】ってところかしら?」

しゃべりすぎたと思ったパチュリーは照れくさくなり、最後、少しおどけて見せた。

はたての顔を覗いてみる。

眼に涙をたたえ、唇を噛み、小刻みに震えている。

(えー!? どうして!?

私、なんか変なこと言ったのかしら!?

ふざけすぎだったの!?)

慌てるパチュリーに向き直るはたて、真剣な表情。

「パチュリー館長!」

「はひっ!」

「貴方はすごいヒトです!

こんな短時間で知識の情報網を集約し、仮説を立てられるんですから!

貴方はもっと外に出るべきです!

貴方の知識は、現場、現物を見ることでもっともっと高まります!

深まります!

真実を見極められます!

だから外に出ましょう!」

はたての目からこぼれる涙。

「そ、そうなのかしら、もうちょっと外に出たほうがいいのかしら?」

力強く頷く鴉天狗。

しかし、なんなのだろう。他人事にこんなに真剣になって。

健康のために外に出ろ、と言うモノはたくさんいた。

だが、知識のため、とは初めてだった。

少し前、引きこもりだったと打ち明けてくれた。

【いろいろあって今はこんな感じですけど】

きっと、本当にいろいろあったのだろう。

【ひきこもり魔女】と揶揄されている。

気にはならないし、外に出たいとも思わない。

でも、彼女が外に出よう、と勧める理由は【知識】のためと。

他の誰もこんなこと言ってくれないだろう。

心の奥底を優しくかき回される、気持ちよく揺さぶられる。

「は、はたて、そろそろお昼にしましょうか?」

誤魔化すように提案、このところ誤魔化してばかりだ。

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