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七曜のクッキー(7)

最初に異変に気づいたのは美鈴だった。

もう三週間、はたてが来ていない。

用事がなければ門番である自分が図書館に赴くことはないので、事情も分からない。

だが、変だ、とても気になる。

「咲夜さん、最近のパチュリー様ってどんな感じです?」

「部屋干ししておいたのを忘れて何日も経ってしまった洗濯物みたいな感じかしら?」

「あのー、もう少し分かりやすくお願いしますよ」

「乾きすぎて干しグセがついて残念な感じ。

つまり大体いつもと同じだけれど、少し元気がないということ」

「その表現、ヒドくないですか?」

「アナタの階級にあわせたのだけれど?」

もういいです、と言って美鈴は自分の中の気がかりを咲夜に話し始める。

週に一回は来ていた姫海棠はたてが三週間来ていない。

発端はこれだけのことだが、なぜか気になる。

咲夜が言うように洗濯物の元気がないとしたら、二人の間になにかあったのかも知れない。

パチュリーははたてと会うことを楽しみにしているように見えたことも伝えてみた。

そこまで聞いたメイド長は、先週テーブルでうたた寝していたパチュリーの寝言の正体に気がついた。

「なるほど、そういうことだったのね。

あれは【南京玉簾】ではなかったのね、合点がいったわ」

うむうむと頷いている咲夜に謎解きをせがむ美鈴。

「パチュリー様が寝言で何度もつぶやいていたのは【はたて】だったのよ。

悲しそうに、苦しそうに。

戻す前の高野豆腐のように感情の起伏が少ないあの方が夢にまで追い求める【はたて】が来なくなった。

アナタが危惧するように、なにかあったと見るべきね」

やはりパチュリー様にもなにかあったのか。

(しかし、それほど分かりやすいヒントがあったのに、咲夜さんはなんで気づかなかったのかな?

それに【南京玉簾】ってどういうこと?)

美鈴は思うところを聞いてみる。

「それは寝言が【あ……さて…… あ……さて……】と聞こえたからね。

パチュリー様と南京玉簾、あまりにかけ離れた関係だから、その時はまったく分からなかったの。

なるほど【は……たて…… は……たて……】と呼びかけていたのね、なんて切ないことかしら」

(えーと、このヒト、頼りになるし、美人だし、優しいし、気も利くし、頭もいいんだけどなぁ)

美鈴はこの、ほとんど完璧、でもほんの、そう、ほんのちょっぴり残念な紅魔館の至宝を眺めやった。

「美鈴、私は姫海棠はたてと関係の深い頼りになる正義の味方を知っているのよ。

だから、後は任せておきなさい」

きりっとした表情で告げる。

その日、里へ買出しに行った十六夜咲夜はその帰りに命蓮寺を訪れた。

入り口にいた雲居一輪に身分を告げ、ナズーリンへの面会を求める。

敵意はまったく感じないものの、規格外れのビューティーオーラを全身に浴びた一輪は【あたふた】といった体で寺に駆け込んだ。

「紅魔館のメイド長が来たぞ! 皆のものであえ! であえーい!!」

一輪の呼びかけにわらわらと集まってきた命蓮寺’sが入り口の見える扉のかげに密集する。

なんだいあれは、すごい美人じゃないか!

なにアレ、ただの美人じゃないよ、超々美人ね!

人間じゃないね、うん、絶対違う、あんな綺麗な人間いないもの!

ゲロマブですね!

なにそれ、いつの言葉?

絶好調時の寅丸でも勝てなさそう!

いや、寒色系と暖色系、単純に比較はできないねー。

アタシ知ってるよ! クールビューティーって言うんだよ!

あ、髪、かけあげた! かっこえーー!

驚かしてみていい?

やっほーーーー!

買い物籠片手の所帯じみた格好なのに、なんであんなに絵になるのか。

その佇まいは【美の女神がお忍びでご来駕なされました】と言われれば【恐悦に存じます】と誰も疑うまい。

ぎゃいぎゃいと騒ぎ立てる命蓮寺’sの後ろからハリのあるアルトが響く。

「皆さん、お静かに。あのヒトは紅魔館のメイド長、十六夜咲夜さんです。

ご覧のとおり、大変に美しい方ですが、それだけではありません。

とても有能で、かつ、単独で異変解決に向かえるほど強い練達の戦士です。

そして幻想郷でただ一人の黒い星五つの方です。 くぅぅぅ……」

「寅丸? なんでそんなに悔しそうなの? 星五つってなに?」

「そこは忘れてください」

「ご主人、落ち着きたまえ。

ねえ、一輪、咲夜どののご用件はなんだったんだ?」

遅れてやってきたナズーリン。

「あ、いけない、アンタに用事があるんだったっけ」

「やれやれ、しっかりしてくれよ。

美人の一人二人で取り乱していては命蓮寺が軽く見られるよ?」

もっともらしいことを言われ、ちょい反省ムードの命蓮寺’s。

「ナズーリンはなにも感じないの?」

ムラサ船長の質問にナズーリンは軽く前髪をかきあげながら気障っぽく言う。

「確かに素晴らしい美人さ、間違いない。

しかし、私の心は揺さぶられない。

だって、私の心はいつでも寅丸星への想いではち切れそうなんだからね」

「……ナズーリン……」

ぽーっとなっている寅丸。

「はいはい、わかった、またスケベ絡みで寅丸を怒らせたんだね?」

ぬえがニヤニヤしながら言う。

このネズミ妖怪があからさまなお世辞や惚気をいうときは、決まって直前に寅丸を怒らせていることに気づいている。

「な、なにを言うんだ! ぬえ! そんなことない!

あれは単なる誤解なんだ! 私には下着蒐集の趣味はない! 絶対だ!」

「ほら、やっぱり」

再び喧騒に包まれそうになった場を寅丸が収める。

「ナズーリン、咲夜さんがお待ちですよ。早くお行きなさい」

「ご、ご主人? なんかちょっと怖いよ?

さっきのことは後でキチンと説明するから!」

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