紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 幻想郷名物、ハリセンチョップ!(1)

戌の刻をすぎた頃。

山に続く小径、少し脇に入ったの林の中、夜雀の屋台の提灯がぼんやりと灯っている。

こんな場所では人の通りは望めそうにないが、この屋台の主要なお客は【人間】ではない。

夜雀、ミスティア・ローレライの屋台は、意志疎通ができて、酒や食べ物の味が分かる妖怪たちがゆるゆると集う憩いのスポットだ。

普通の人間が近寄れるはずもない。

それでも希に【人間】っぽいのモノも来る。

しかしそいつらはヘタな妖なぞ裸足で逃げ出すようなトンでもない猛者ばかりだった。

紅白の全自動妖怪退治マシンや、黒白のひねくれ暴発魔砲使い、銀髪の切り裂き冥途蝶、白髪もんぺの爆炎妖術師。

機嫌を損ねたら、バラバラにされるか、消し炭にされるか。

再生に何年もかかるような超重量級の攻撃をためらいもなく叩き込んでくる。

妖たちにとっては同族のゴロツキ以上に危険な連中だった。

彼女らは先客がいればそれなりに気を遣うようであるが、なにせその存在感は圧倒的なので、先客はそそくさと『お、女将、お勘定を頼む!』と立ち去ってしまう。

屋台の女将、ミスティア・ローレライは彼女らが来店した日のあがり(売り上げ)は諦めることにしていた。

以降のお客はその雰囲気を察して近寄りもしないから。

その分、彼女らには少しふっかけることにしている。

今夜のお客は一見さんだった。

金と黒の斑でややクセのある髪はとても派手、そして見上げるほどの長身。

妖獣であることは分かる、だが、自分とは明らかに格が違うことも分かる。

穏やかな雰囲気、上品な物腰、そして桁外れの美形。

笑顔がとても柔らかく、最初に『こんばんは』と声をかけられたときから夜雀は虜になってしまった。

(うわわー、すっごい綺麗! かっこいいいいー!)

このヒトには今日一番具合の良い串を食べてもらおうと心に決めた。

この美人妖怪さん、アタリは柔らかいのに、力強い【気】をまとっている。

邪なモノを遮断する清廉で高貴な【気】を。

半端な性悪妖怪は近寄ることもできないだろう。

(妖怪……だよね? たぶん間違いないと思うけど。

妖怪なのに不思議な感じ、なんだか神様っぽいなぁ)

ミスティアは目の前にいる佳人の正体がよく分からなくなってきた。

(でも、このヒトのそばにいたらなにもかも安心できそーだー、はああー)

ミスティアは自分の眼が潤んでいることに気付いて慌てた。

もう一人、彼女の連れは夜雀と同じくらいの小柄な妖。

美人さんのことを『ご主人』と呼んでいるから、従者か家来なのだろうと推測する。

大きな耳と、ちらちら見える尻尾からネズミの妖怪と分かる。

麗人の陰に隠れ、気を付けていないと居るのを忘れてしまうくらいその存在はうすい。

しかし、美人さんは度々『ナズーリン』と嬉しそうに、楽しそうに話しかける。

とろけけきった笑顔で、とても艶っぽく。

ネズミの従者に向かって、時に甘えてみたり、時に怒ったふりをしたり、時にすねてみせたり。

この【ご主人】さん、どんな表情を見せても綺麗で愛らしい。

ミスティアはたびたび調理の手を止め、見入ってしまっていた。

夜雀は自分の頭があまり良くないこと、察しが悪いことは承知している。

それでも分かる。

このスゴい美人さんは、隣に座っている小さなネズミ妖怪のことがメチャクチャ大大大好きなんだ、ということが。

寅丸星は酒を嗜む。

自らすすんで飲むわけではないが、誘われれば断らない。

それでも大宴会よりは、気心の知れたモノたちとゆっくり飲むのが好みだった。

命蓮寺で仲間と一緒の、いわゆる【家呑み】が多い。

命蓮寺では酒はOK。

僧家の隠語である般若湯とも呼ばず、堂々と酒の存在を認めている。

なにせ聖白蓮は酒豪だ。

飲み比べで負けたことがない。

身体強化魔法を使っているのかもしれない。

だが、彼女なりに飲酒についての信条はあるようだ。

楽しく節度を保って飲む分には寛容だが、己を見失うほど泥酔すると、翌日この住職はキツく窘める。

寺での小宴、肴を作るのはいつも寅丸星。

手頃な食材を使って、小洒落た肴を手際よくこさえていく。

自らも飲みながらではあるが、ちょこちょこ席を立ち、次の肴の支度をする。

本人は『好きでやっていることですから』と言っているが、刃物を使い火を使うのだから、当然、抑えた飲み方になる。

皆が満足し、お開きになった後も当たり前のように片づけをする。

そんな主人にたまには楽をしてもらいたかったナズーリンは【外飲み】の機会をうかがっていた。

そして今夜。

聖と一輪は人里の顔役の宴に招かれていた。

今日に限っては泊まりの妖怪もいない。

夕飯の対象は自分たち主従の他は、好きよキャプテンとUFOガールだった。

ナズーリンがムラサに、主人と外食したい旨を伝えたところ、快諾してくれた。

夕飯は自分たちで済ますから心配無用、とのこと。

ムラサとぬえの艶々黒髪コンビは、いそいそと夕餉の支度を始めた。

この夏、寺でブームの【冷や汁】の新しいアレンジを試すらしい。

基本は、軽く焼いた味噌、すりゴマにきゅうりやミョウガなどの夏野菜、シソの葉、ネギなどの香味野菜を刻んで馴染ませ、氷水で伸ばした汁物。

ご飯にかけてもよし、そばやそうめんのつけ汁にしてもよし、過酷な夏の暑さを乗り切るための手軽でナイスな料理それが【冷や汁】。

具の内容はアレンジし放題だ。

現に命蓮寺では、ちぎった豆腐と、川魚を焼いてほぐし入れたものがトッピングの定番になっている。

今回二人が用意している【アレンジ】の材料をみた子寅コンビは、顔を見合わせた。

いつもの味噌、ゴマ、野菜類の他に、トウガラシ、酢、筍、椎茸、卵。

どうやらアレンジの相手は【酸辣湯(さんらーたん)】のようだ。

酸っぱ辛いスープと、ゴマ味噌ベースの冷や汁を組み合わせようとしている。

実は辛いもの好きのムラぬえコンビ。

かねてより定番メニューの新作アレンジを画策していたようで、この度ようやくチャンスが到来した、というわけ。

試みは興味深い、だが正直、微妙だ。

個性的な味がケンカしそうな組み合わせ。

料理の失敗の一つに【過度なオリジナリティ】がある。

隠し味の加えすぎや、美味しそうなものをとりあえず混ぜてみる、というパターンがそれだ。

この手の失敗を山ほどしてきている星、そしてその失敗に千年以上つきあってきたナズーリン。

しかし、やってみて初めて理解できることもある。

二人とも美食への探求者(新米)達には何も言わずに出かけることにした。

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