紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 幻想郷名物、ハリセンチョップ!(2)

ミスティアの屋台で緩やかな時を楽しむ千年来の恋人達。

正確には、恋人になったのは最近なのだが。

梅味噌が添えられた新鮮なきゅうり、干し椎茸の含め煮、菜種油と醤油がかかった冷奴、そして八目鰻の串焼き。

小さな屋台から次々と料理がでてくる。

備えにかなり工夫を凝らしているのだろう。

寅丸星は、どんな料理を食べても『美味しいですね』と従者と店主に微笑みかける。

そして本当に美味しそうに食べ、飲む。

料理を褒められ気分の高揚した夜雀は緊張しながらも自慢の歌を披露する。

貴婦人から熱烈なスタンディングオベーションを受け、文字通り舞い上がりそうになった。

気持ちが緩んでいるのか、よほど楽しいせいか、酔いの早い寅丸。

口数が減り、顔全体、首筋もほんのり赤くなり、少し伏し目がち。

色っぽさが五割増になっている。

やがてカウンターに腕枕を置いて頭を乗せてしまった。

従者が声をかけようとしたら、

「ナズ、ナズ、ナズリン♪ ナズナズリーン♪」

顔を伏せたまま即興で歌い始めた。

「わたしのナズリン♪ 素敵なナズリン♪ 優しいナズリン♪ 愛しいナズリン♪ ナズナズリーン♪」

聞いている方が恥ずかしくなるストレートな歌詞。

えらくご機嫌だ。

ナズーリンでさえ滅多に見たことのない、少し危ないくらいの上機嫌だ。

突っ伏したまま顔だけ従者に向ける。

片目を少しだけ開き、

「ねぇ、ナズぅ? 私をこんなに酔わせて、この後、どうするつもり?」

(……むうう、思ったより酔っているな……。

なんだかスゴく色っぽいし、正直、たまらない。

でも、ど、どうしようかな???

この後って、やはり【お持ち帰り】だよね。

とは言え、元々帰るところ一緒だし。

でもこのまま帰るのは【MOTTAINAI】なぁ)

逡巡しているナズーリン。

「ねぇ、ナズぅ?」

身を起こし、ナズーリンに抱きつく寅丸。

そして特徴的な丸っこい耳を、はむはむ甘噛みし始めた。

「ちょっと! ご主人、ダメだよ! こ、こんなところで、 はぁはぅん、

ご、ごしゅ、じ、ん、 あぁん、 み、みみはダメぇ……あ、あぁ」

ミスティアは突然戯れ始めた一見客に驚きながらも、

「仲がいいんだねー」

お決まりの冷やかしを言う。

そして屋台の裏に下がって食器を洗い始めた。

気を利かせたつもり。

洗い物が一段落して二人の様子をのぞいてみる。

【ご主人さん】は、くてっとなって従者にしなだれかかっている。

ほとんど眠ってしまっているようだ。

「お勘定を頼む」

涼しげな声、先ほどとは別人のようなネズミの従者。

片手で主人を支えながらもう一方の手で財布を取り出す。

「八目鰻、美味しかったよ、良い串をあててくれたようだね。

おかげで今宵【ご主人様】は大変満足なされた。礼を言う」

淡々と話しながら支払いを済ます。

【お礼】の分だと言って、正規料金の倍近くを置いた。

眠りの淵に落ちていく【ご主人】の【気】が小さくなっていくのにミスティアは気付いた。

そしてそれを補うかのように、守り、包むようにネズミ妖怪の【気】が大きくなっていく。

それまでの優しく暖かい力強さにかわり、うっかり踏み込んだら切り裂かれそうな断固たる硬質の【気】。

言いたいことはミスティアでさえもはっきりと分かる。

『これより何人たりともこのヒトに触れること能わず』

今、この従者の存在感はそれまでの主人のモノに匹敵するほど大きい。

自分と同じくらいちっぽけな小妖に見えたのに。

たまに見かける大物妖怪のソレに近かった。

「女将、名前を聞いてよいかな?」

緊張していたところへ、柔らかく問いかけられ慌てた。

「わ、わたし!? み、みすてぃあ、 ミスティア・ローレライ!」

「ミスティア・ローレライ、可憐な名だ。

また寄らせていただくよ、今夜はありがとう」

落ち着いた声、涼しげな笑顔。

同性の小妖、そんなのたくさん知り合いがいる。

でも、このヒトなんだか素敵、【イイオトコ】って言ったらおかしいはずなのに。

夜雀は少しの間息が止まってしまった。

「あ、ありがとうございます! お、お幸せにー」

「それ、いいね、素敵な言葉だ。 ではまた」

なんとも印象深い二人連れだった。

ナズーリンは、ほとんど意識のない寅丸の体に力場をまとわせ、軽く支えながらふわふわと飛んで行く。

寺の勝手口からこっそりと帰宅。

ネズミ達に念話を試みる。

ムラサとぬえは自室におり、聖と一輪はまだ帰っていないらしい。

少しホッとする。

これほど酔っているところを見つかったらお小言だけでは済まないだろう。

寅丸の私室、グデグデでむにゃむにゃ言っている主人を着替えさせ、布団に寝かせてやる。

ナズーリンはそれ以上なにもしない。

ナズーリンは一線を越えなかった。

星を求め、暴走しそうになったことはこれまでに何度もあったが、いずれの時でも星は正気だった。

今は違う。ほとんど意識がない。

自分と一緒だからこそここまで無防備に酔ったのだ。

【据え膳】とも言える状況だが、ことに及んだ明くる朝、最愛のヒトが後悔したら。

本意でなかったとしたら。

ナズーリンは一線を越えられなかった。

『臆病者! 意気地なし! ヘタレ!』

心の中のナズ星急進派の罵倒を無理矢理押さえつける。

着替えさせたときに素肌からほんのり立ち上った甘酸っぱい汗の匂い。

ナズーリンにとってはどんな香料よりも刺激的だった。

二回だけ大きく吸い込んだ。

くらくらしてきた。

ぐっとこらえて寝かしつけ、団扇で顔に風を送ってやる。

寝苦しいのか、何度も寝返りを打つ。

その度に寝間着がはだけていく。

ほんのり桃色に染まった艶やかな肌は、うっすらと汗をかいてわずかな灯りを映し返している。

ナズーリンの脳内にある絵的エロスに関する膨大なメモリー。

そのベスト3にいきなり飛び込んでくる実力派の映像だった。

(やはり、我慢している自分はバカなのかもしれない……いや、ダメだ。

このヒトとのエロスは分かち合えなければ意味がない、私だけ満足するのはダメだ。

そう、多分、そうなのだ……と思う)

「ナズぅー こっちへ、き、て、 むにゃにゃにゃーん……」

(ええ!? なんだって!? ん? ああ、寝言かぁ)

ダメだ、これ以上ここにいてはダメだ。

恒例である就寝前の接吻などもってのほか。

そんなことをしたら自分を抑えきる自信がない。

思い切り後ろ髪を引かれているが、力づくで引き抜く。

ぶちぶちと嫌な音まで聞こえてきそうな魂の痛みとともに寅丸の居室を後にした。

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