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ナズーリン! 幻想郷名物、ハリセンチョップ!(10)

「まったく」

軽いため息をついてから早苗に向き直った歴史学者。

「早苗、中に入ろう、あー、私はハリセンを持っていないので安心なさい」

身構えていた山の巫女は少しだけ体の力を抜いた。

(よかった、このヒトはまともみたい)

だが、この安心も授業が始まるまでだった。

上白沢慧音はまともだった、大変力強くまともで真っ直ぐだった。

妖に関する基本体系をみっちり講義された。

早苗は元の世界では優等生だった。成績も良かった。

授業中、教師の話をそこそこきちんと聞いて帰宅後まとめ直しておけば、困ることなどなかった。

だが、慧音の講義はとてもスリリング。

一方的な講義ではなく、所々で復習をかねた問題が出される。

うっかり聞き流してしまったことに限って出題され、『分かりません』『聞き逃しました、すいません』と答えるより他になく、早苗は序盤で受講姿勢を改めることになった。

内容は難しいし一瞬たりとも気が抜けない、だが、とても面白い。

新しい知識、それも自分に関係することばかり、頭も体も熱くなっていく。

そしてこの教師は質問を受け付けるタイミングが絶妙だった。

内容に疑問がわき、それが【とりあえず置いておく】ことができないほど気になった瞬間、『質問はあるかな?』とたずねてくる。

質疑に応答するときの慧音は、話し方のトーンが変わる。

少しゆっくりになり、例え話を交えたり、早苗の経験を聞いたりしながら、分かりやすく徹底的に答えてくれる。

早苗は質問することも楽しくなった、そして出される問題に正答すると柔らかく微笑んでくれる教師の顔を見たさに一層集中して講義を聴いた。

「本日の講義はここまでにしよう。早苗、お疲れ様」

「えっ!? もう終わりですか?」

「初日から詰め込みすぎるとよくないからね。一刻(二時間)はぶっ通しだったのだから少し休まないといけない」

「一刻も……全然分からなかった」

充実した時間は早く過ぎていく。

すすめられたお茶を啜るとようやく気分が落ち着いてきた。

それに合わせて頭の芯が少しだけジンジンしているのに気づく、結構頭を使ったのだろう。

「ナズーリンどのはまだのようだ。後半に備えてゆっくり休むといい。 さ、これを召し上がれ」

慧音が出してくれたのは表面に虎縞模様の焼き目が付いたどら焼きだった。

礼を言って、ぱくっと一口、もぐもぐ。

「お、おいっしー! 慧音センセー! これっ! すごくおいしいです!」

「それは良かった、まだいくつかあるから好きなだけ食べなさい」

「これ! ど、どこで売っているんですか!?」

「まぁ落ち着きなさい、これは残念ながら非売品だ。命蓮寺で行事があるときなどに配られるオマケなんだよ」

「命蓮寺って、あの妖怪寺ですか? じゃあ、作っているのは……」

「妖怪ということになるね。実際に作っているのは寅丸星さんだ」

「寅丸星さん、ですか。あ、そのヒトって、ネズじゃなくてナズーリン……先生の?」

「そう、ナズーリンどののご主人様だ。強く優しく気高く上品で大変美しい方だ」

ちょっと不満そうな早苗、この短時間で慧音にかなり懐いたようで、すでに気持ちを取り繕うのを止めつつある。

「慧音先生には言いますけど、私、妖怪の美しさって信用していないんです。

なんだかウソっぽいっていうか、作り物っぽいっていうか、とにかく信用できません」

「良いところに気づいたね。確かに妖怪・幽霊・魔物、人間を誑かすために外見を良く見せるものは多いな」

「ですよね?」

「では早苗はその外見だけの美しさと、本当の美しさをどうやって見極めるつもりかな?」

「そ、それはやっぱり、上っ面だけのキレイさとか底の浅いキレイさとは違って、なにかこう、内面から滲み出るような美しさには深みがあるっていうか、その、うーん、すいません、よく分かりません」

穏やかに笑む講師。

「そう、難しい問題だ。でも、早苗の言いたいこと、考えていることはイイ線いっているよ。

私も内面から滲み出る美しさには賛成だ」

「ですよね!?」

「だからこそ私は寅丸さんを大変美しい方だと思うんだ」

「そうですか。慧音先生がそこまでおっしゃるならきっとそうなんですよね」

「待ちたまえ、私が言ったからといって早苗が鵜呑みにする必要はない。

自分の目と心で確かめられることは手間を惜しんではいけないよ」

「は、はい! 自分で見極めてみます!」

「うん、そうしなさい。ところで【とらまる焼き】はもういいのかい? 妖怪風情の作ったお菓子は?」

ちょっとだけ口の端をあげて慧音が問いかけた。

「え、あの、もう一ついただきます。……もう! 慧音先生ったらイジワルです!」

口を尖らせる早苗を見て破顔する学者先生。

数刻前の早苗だったら妖怪の作った食べ物を素直に口にしたかどうか。

自分のやったことは少しは意味があったのだろうと納得できた慧音だった。

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