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ナズーリン! 幻想郷名物、ハリセンチョップ!(19)

「早苗さんね? 今日はワタシと一緒よー、よろしくねー」

意外なことだが、因幡てゐはやると決めたら何ごとにも真面目に取り組む。

フレンドリーな教師という役になりきっている

一方、早苗は、ウソつきでいい加減で狡賢いと評判のウサギ妖怪を警戒していた。

先刻、上白沢慧音から講義は明日で終了だと告げられた。

厳格ながらも充実して楽しい座学だったので少し残念だったが、あまり無理もいえない。

反対に実地研修の方は大いに残念だった。

初日はミスティアのもと、予想以上に実りが多かったが、二日目の昨日はハッキリ言って【ハズレ】だった。

そして今日、目の前にいるのは名うての詐欺師。

(大丈夫かしら?)

せっかくの【特別補習講座】、少しの無駄も我慢ができない早苗だった。

「早苗さん、歩きながら話そうよ」

そう言って右手を差し出す。

その意味が分からない早苗。

「手、つないでいこ? いいでしょ?」

右手がさらに近づく。

三日前なら、妖怪と手をつなぐなんて考えられなかった。

少しだけためらったあと、早苗はてゐの手を取った。

手をつないだ人妖は、山とは反対側、竹林の方角へ歩いていった。

ナズーリンと慧音がその後姿を見送る。

(てーゐ、たのむ)

てゐに縋らなければならない己のふがいなさを嘆いても仕方がない。

それより、今は友人を信じるだけ。

【心】の問題であれば、自分より遥かに鋭敏な感覚を持つ相棒を信じるだけ。

その日の夜、ナズーリンとてゐ、毎週恒例の飲み会。

竹林の中、大岩に腰掛け、塩茹でした落花生をつまみながら酒を飲む。

「てーゐ、この落花生、少し硬いよ、もっと茹でた方が良かったんじゃないかい」

「そう? 鼠と兎なんだから多少硬くても平気でしょ? ワタシはこんくいらいが好きなの」

「んー、まぁ、いいけどさ。塩加減は悪くないよ」

ツマミに向くように、塩茹でした上にさらに塩をふってある。

実は隠し味に、ほんの少しだけ砂糖を加えてあるが、ネズミ妖は気づいたかどうか。

ぼりっ、ぼりっ、ぼりっ、ぼりぼり。

しばらくは落花生を噛み砕く音だけだった。

ナズーリンは今日の首尾についてせがまなかった。

やがててゐが夜空を見上げながら話し始めた。

「はじめはとっても緊張しちゃっててさ。

でも、ナズリンの悪口を言ったら食いついてきて、あとは結構スンナリ。

どんな悪口か聞きたい?」

「いや、必要ない、大体分かる、早苗が言いそうなこともキミが言いそうなことも」

「『早苗さん、頑張ってるよね』って言ったら、『私は幻想郷で一番の巫女になるんです! 霊夢さんに勝つんです!』とずいぶん力が入っていてさ」

「その力の入りようは本物だったのかな?」

「ワタシの感想は、ナズリンの予想と同じ。

あの対抗意識は上っ面だね」

「やはりそうか、【類似巫女、二番手巫女】と呼ばれた時、ムキになる態度も様式化された感じだしな」

「引越し先の世界で、同じような立場の人間がいて、それがとてもおっきな存在だとしたら、とりあえず対抗してみることで人目は惹けるもんね」

「てーゐ、相変わらずキミの物言いは【辛い】な」

「なによー? アナタの前だけでしょ? 気に入らないの?」

口を尖らせるウサギ、笑って軽く手を振るネズミ。

「いや、そんなことはないよ、どんどん言ってくれ」

「んじゃ、遠慮なく。

博麗の巫女にこだわっている【フリ】を続けているから、教えてあげたの。

対抗することは無駄だって、ばかばかしいよって」

「どんな言い方で?」

「あれは人間の姿をしているけど、人間ではないって。

幻想郷の【ばらんす】を保つための【しすてむ】だって。

力が弱ったら交換する【かんでんち】みたいなもんだって」

淡々と述べる大年増のウサギ妖怪だが、ネズミの賢将は驚いていた。

「お、おい! さすがに酷すぎないか!?」

「もちろん早苗にはもっと、やわらかーい言い方で話したよ」

「そうじゃなくて、キミは、本当にそんなふうに考えているのか?」

「うん、幻想郷が閉じた時からそう思っていたよ。

そして【でんち】を換える係がスキマの妖怪でしょ? 早苗にはそこまで言わなかったけど」

「キミは怖いな」

「はあー? なに言ってんの? ナズリンだって、だいたいそう思っているんでしょ?

寅丸さんからアナタがちょいちょい神社に参拝に行ってるって聞いた時、わかったもん」

「いや、私は別に……」

「いまさら良いコぶるつもり? 【しすてむ】を利用するのが目的でしょ?」

当初は確かにそのつもりだったが、最近は博麗霊夢という個人に興味がわき、なんだかんだと絡んでいる。

だが、今そんなことを言いはじめたら脱線すること間違いない。

「まぁ、そんなところだね。それで、早苗はどうしたんだ?」

「む、ナズリン、誤魔化したね? いいわ、今回は見逃してあげる。

早苗はびっくりしていたけど、しばらく考えてから聞いてきたの。

『博麗神社の神様ってどなたなんですか?』って」

それまで聞かされた霊夢の【巫女】としての特殊性を考えれば、同じ巫女として帰結する疑問の一つだろう。

「キミはなんと答えた?」

「しらないって言ったわ、ホントにしらないもの。ナズリンはしってるの?」

「私も知らんよ」

もし、昨日、早苗がこの質問をしたら、霊夢はなんと答えたのだろうか。

「ふーん、あたりはつけてるんでしょ? でも、今夜はいいわ。

早苗のこだわりは、これからも残ると思うけど、たいした問題にはならないわね」

「同感だ、こだわりの【ポーズ】がやりやすくなる、その程度だね」

ぼりっ、ぼりっ、ぼりっ、ぼりぼり、ぐびび。

小休止のあと、てゐが本題を切り出した。

「ナズリン、早苗は外の世界で【友だち】がいたみたい」

(やはりそうか、想定の範囲内だね)

「外の世界にいた時のこと、ぽつぽつ話してくれたの」

てゐがナズーリンに向き直る。

「ねぇ、外の世界で忘れ去られたモノが幻想郷に来やすいんだよね?」

「そういうことらしいね。守矢の二柱も人間から忘れられそうになったからこちらに来たようだし」

「それじゃ、早苗は?」

ナズーリンは(なにをいまさら)と思いながらも答える。

「守矢の風祝、巫女なんだから、いわば【付属品】だろう?」

「ナズリン、アナタの方がよっぽど酷いんじゃない?

あの娘は【がっこう】にも通っていたそうだし、友だちもいた。

近所の【しょうてんがい】の人間とのつきあいもあったのよ?

たまたま迷い込んだ外の人間とは違うでしょ?」

「忘れ去られる理由がないと来れなかったはず、と言いたいんだね?」

「神様たちと違って、自然と【縁】が切れたわけじゃないのよ」

「早苗自身は、かなり強引に断ち切ったのか」

その友だちとの【縁】を切らなければならないとしたら、心への負荷は相当なものだ。

例えば転校する、と言えばそれは個人によっては思い出として長く残るだろう、印象深い娘だから。

そしてそれは頸木(くびき)になってしまうはずだ。

てゐが、ナズーリンの思考を読んだかのように先をつなげる。

「関係するモノを全部、消しちゃったのかな? 神様って残酷だもんね、町ごと消すくらいやりそう」

「また、恐ろしいことをサラッと言うなぁ。

私より先に幻想郷入りしたはずだが、当時そんな報道はなかったよ。

さすがに町一つ消すってことはないだろうね」

「それじゃ、どうやったの?」

「記憶をいじったのだと思う。

早苗という存在を記憶から完全に消去するのは難しいし、何かの拍子で思い出す恐れもあるから、置き換えだな。

早苗に相当する存在を用意して上書きしたのかもしれない」

「面倒なんだねー」

「そうやって人々の記憶から東風谷早苗が消えたところでこちらに移ったんじゃないかな」

急造の推論をまくし立てるナズーリンを見つめていたてゐが小さな声で言った。

「その友だちの記憶からも消えてしまったのね」

てゐの言葉の本当の重さに気付くまで少し時間がかかってしまった通称【賢将】だった。

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