紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! バカップルNo.1!(6)

数日後、来館したはたてを迎える。

お茶をしながら他愛のないおしゃべり。

女性がつける香料の話になった時、意を決して、匂いの話題を振ってみた。

『私にはどんな香料が合うかしら?』

『パチュリー館長は香料をつける必要はないと思いますよ?

独特で不思議な匂いですから』

がっ……が、が、がちょーーーーん!!

『そ、それって、く、臭いってこと?』

泣きそうになった。

『いえいえ、ちょっとお待ちください。

匂いを言葉にするのは難しいですよねー』

表現力には定評のある新聞記者が少し考え込む。

『んー、最初に飛び込んでくるのは書物の匂いです。

様々なインクと糊の匂い、それから少しホコリの匂い。

そして、その奥にあるパチュリー館長ご自身のなんだか気になる匂いは……』

(や、やっぱり臭いんだ……)

もう泣くしかない。

この数十年、泣いたことはなかったが、今なら泣ける、間違いなく。

『パチュリー館長の匂いは私の嗅覚を持ってしてもホンのわずかにしか感じ取れません。

表面の匂いに隠されていますが、もともととても繊細で微かなんですよね。

ですが、清涼で優しくて心が落ち着く香りです。

んー、例えるなら……

この図書館くらい広い空間、他に何も無い中、隅にあるテーブルの上にほんの少しの薄荷と砂糖菓子が小皿に乗っている。

香るのはそれだけ。

そんな微細な感じです。

でも、飽きが来なくてつまでも嗅いでいたいような香りです』

(香水の類は何も付けていないんだけど、わ、私自身の匂いってことなのよね?)

すん、と鼻を動かしたはたてにたまらなく恥ずかしくなったパチュリー。

『あ、申し訳ありません、大変不躾でした。

どうも獣上がりの妖怪は匂いに敏感なんですよねー。

失礼いたしました、お許しください』

暴れ出したいほど恥ずかしいが、全力で平静を装う。

『べ、別にかまわないけど』

『そうですか? ではお言葉に甘えてもう少しいいですか?』

『ど、どうぞ』

首筋のあたりに顔を近づけ、すん、すん、すん。

ドキドキドキドキドッキドキィィィ!

(ち! 近いわ! ぬおおーーー!! 爆発しちゃいそうよーー!!)

『えへへへ、パチュリー館長の匂い、完全に覚えちゃいました。

もう、一生忘れません!』

恥ずかしそうに肩をすくめて微笑む元引きこもりの鴉天狗。

(え、じゃあ、これで、どこに逃げてもはたてが追ってきてくれるのかな……

『危険だから来てはいけない』と言っても、私の匂いを頼りに地の果てまでも探してくれるのかな……

はたてに捕まって、抱きしめられて『この匂い、忘れたことはありません、もう逃がしませんよ』って言われちゃうのかな……)

パチュリーの妄想劇場はナズーリンのそれよりも直接表現においては淡くソフトだが、跳躍距離(ぶっ飛び具合)と絶対糖度(デロ甘具合)は遙かに勝っていた。

(私、ちょっとおかしくなっているかも)←はい、かなり

そして今、縁日当日。

パチュリーの表情がぱぁっと輝いた。

気に聡い美鈴がその視線の先に姫海棠はたてを見つける。

あちらはまだこちらには気づいていないようだ。

室内魔女はとても嬉しそう。

実際には口角と瞼が2mm上がっただけなのだが、これが彼女の超嬉しそうな顔なのだ。

素人には違いが分からないだろう。

だが、すぐにいつもの無表情に戻り、正面を向いてしまった。

居るのが分かれば安心なのか、

はたてが自分を見つけてくれるのを待つのか、

自分から声をかけるのが恥ずかしいのか、

むずむず、ぐるぐる、じれったくて甘酸っぱい。

美鈴には恋愛初心者の心の内が手に取るようにわかる。

冷徹で他者への関心が薄い学者魔女が面白いほど動揺している。

なんだか可愛い。

応援してあげよう。

門さんは、はたてに軽く【気】を放ってやる。

振り返る鴉天狗。

相好をくずしながら走り寄ってくる。

「パチュリー館長ー! みなさーん! こんばんわー」

手を振りながら近付いてくるはたて。

紅魔館の面々が順番に挨拶する。

そして真打ち、七曜の魔女(Love overflows Ver.)。

「あら、アナタも来ていたの?」

「私も行くって言ったじゃないですかー」

「そうだったかしら?」

「そーですよ」

不器用魔女のバレバレなオトボケ、見ていてちょっと小痛い。

がんばってパチュリーさん。

「それにしても大変な賑わいね。

こういったことには慣れていないから勝手が分からないわ」

今宵の目的のための第一歩、まずは二人きりになること。

早速釣り竿を振ってみた。

「館の皆さんについていけば大丈夫ですよ」

とりあえず第一投は空振りだった。

(……っかしいわね?

なんで『私がご案内しますよ』と返ってこないのかしら?

釣り餌が悪かったのかな?)

脳内パチュリー(以下【脳パチ】)は腕組みをして首をひねる。

だが、

「そ、そうね。そうよ、ねへぇ……」

実際のパチュリーの口から出たのはなんとも歯切れの悪いセリフ。

(ううーん、このままでは挨拶だけでお別れになっちゃうわ、えと、えと、えと次は……)

のっけからけっつまづいた【脳パチ】はオロオロし始める。

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