紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! バカップルNo.1!(8)

さっさと移動してしまった紅魔館一行を見送る恋人未未未未満の二人。

【脳パチユウギ】はブルっと武者震い。

(さあて、ついに来たわね! ここからは、ずぅーーーっと私のターンよ!)

室内魔女はこの日のために練習した勇気の出る呪文を心の中で唱え始める。

アノクタラサンミャクサンボダイ

アノクタラサンミャクサンボダイ

アノクタラサンミャクサンボダァーーイ!

【脳パチヤマトタケシ】は呪文を唱えながら、広げた両手をゆっくりと頭上へ上げ、人差し指を残してがっしりと組む。

レインボオオオーーーダアァッシュッ、セブーーーン!!

トオオォォーーー!!

【七曜】の魔女、ゆえに会得できた変身、いや化身の呪文。

今のパチュリーは【愛の戦士 虹○】だった。

外見は何も変わったようには見えないが、違うのである。

どろーんとした目で、ぼやーんとしているいつものパチュリーに見えるが、中身が違った。

違っているはず、違っていなきゃ困る。

「ふう、勝手な連中ね。

仕方ないわ、せっかくだし、はたて、私と一緒に回らない?」

ほれ見ろ、違うでしょ? 勇気にあふれた【愛の戦士】だ。

普段のパチュリーはこんなこと言えないんだから。

「いいですねー、私もパチュリー館長と縁日を楽しみたかったんです! 一緒に参りましょう!」

にっこり笑うはたて。

期待以上の返しに、一瞬だけ【ぽあっ】となったパチュリーだが、気を抜いている場合ではないのだ。

構想二ヶ月、練りに練った大計画を発動させるのは今なのだ。

(素直じゃないワタシ、今日でサヨナラよ。

行くのよ七曜の魔法使い!

アナタの輝ける伝説はここから始まるのよ!

この戦いに勝利して!!

はたて! アナタにパチュリーファイトを申し込むわ!!

ガンパチェファイトォ! レディーーーゴオォーー!!)

【脳パチドモン】はビシッとはたてを指さし叫ぶ。

だが、あくまで見た目は、いつものように気だるげな日陰の少女。

「こういう人混みの中では、はぐれないための予防措置が必要だと思うの」

「そうですね」

「魔法を使っても良いのだけど、もっと低コストで確度の高い方法があるわ」

「それは?」

「……手」

「て?」

「手をつなぐの……」

「なるほど、そうですね!」

ぽんっと手を打つはたて。

抱きしめられたことも、抱きついたこともあるが、これまで手をつないだことはなかった。

図書館内ではもちろん、外出先でもそのシチュエーションがなかった。

手は脊椎動物の前肢末端部にある器官。

主に人間の腕の末端にある器官を指し、生物的には前足にあたる。

掴み、握るという特殊な作業が可能な発達したその部分を他の個体のそれとつなぎあわせる。

たったそれだけのこと、難しいことでも特別なことでもない。

知識としては理解しているし、その光景は目にする機会も多い。

他の個体と直に接触するとは言っても、なにも交尾をするわけではない。

皮膚表面が触れ合うだけ。

ホントなんでもないことだ。

だが、【はたてと手をつなぐ、姫海棠はたてと手をつなぎたい】、ただそれだけを望んだ。

この二ヶ月、この目的を達成するために数々のしちゅえーしょんをしみゅれーとした。

いかに自然に実行するか、そのための策を多数携えて臨んだのが今回の縁日だった。

なのに一発目であっさり色良い返事がもらえちゃった。

あんなに悩んだのに。

(は、はたて、ア、アナタ、今、『そうですね』と言ったわね!?

それは【肯定】ととらえるわよ?

アナタもワタシと手をつなぐことに吝かではない、と言うことね!?

そう解釈するわよ!?

言質をとったわよ!?

もう後戻りできないのよ!? いえ、させないわよ! オラァ!!)

【脳パチ】がパチュリー脳内在住のはたてをグイグイ絞めあげる。

状況は整った。

あとはこの右手を差し出すタイミングだけ。

(さあ、勇気をだしてワタシ!

あと一息で勝利をこの手にできるのよ!

この右手を! さあ! 今こそ! さあ!!)

よっ、はっ、ほっ、

【脳パチ】は盛んに右手を上げ下げしているが、肝心の本体はほんのすこーし上げたっきり動かない。

(ワタシ! どーしたの!? 動きなさい!

うごけったら、うごけー!! 今動かなくちゃダメなのよーー!!)

【脳パチシンジ】が泣きながら操縦桿をがちゃがちゃと動かす。

本体がようやくピクっと反応した。

(よ、よおーっし! このままいくわよぉー!)

なんだか右手が熱くなってきた。

【脳パチドモン】の右手が【ボッ!】とフレイムオン。

(手、手がっ! 手が熱いわ!!

うおおおお、ワタシの右手が真っ赤に燃えるぅ! 勝利をつかめととどろき叫ぶぅー!!

はああああああああああーーー!

ぶあくねっつぅ! ぐおぉぉっど! ふぃん)

きゅっ

へ?

パチュリーの手を取ったはたて。

にっこり笑っている。

(え? あ? ああ!? なに!? あああああー!!!

……勝ったの!? 勝ったのね!!

あああ、今、ワタシはこの世の全てに勝ったのね!!

堂々の優勝だわ!! アイムウイナーよ!

チェストオーー! どっすこおおーい!!)

薩摩示現流の打ち込みを決め、豪快な四股を踏む【脳パチ双葉山】。

「さぁ参りましょう、全部のお店を回りましょう、盆踊りもやっちゃいましょう!

私がいろいろ教えてさしあげますよ、こんな機会滅多にありませんし。

大丈夫、今夜は私がずっとおそばにいますからね」

ふわっと微笑むパチュリーさんの宝物(所有格で言うにはちと早すぎるが)。

『ずっとおそばにいますから』

『ずっとおそばにいますから』

『ずっとおそばにいますから』

『ずっとおそばにいますから』

【脳パチ】はボロボロと涙を流す。

(シアワセがやってきたのね……はたて、はたて、はたてぇ……ふぇぇん、私、アナタが……)

手を優しく引かれる。

くらくらふわふわ、膝に力が入らない。

少し顔を赤らめている姫海棠はたて。

「あの、館長と手をつなぐのって初めてですよね?」

「そうだったかしら?」

まだ素直になりきれない本体は全力でオトボケ。

「そうです、初めてです、間違いありません。

あ、あの、パチュリー館長、私、心臓が少しドキドキしています」

恥ずかしそうに告げるツインテ天狗。

(か、かわいいいいいーー、あの、あの、ワタシもスゴいドキドキしてるのよ!)

だが、本体はなぜか、

「ふふふ、嬉しいことだわ、私もよ」

強がり選手権があったら優勝だ。

「あー、やっぱり、パチュリー館長は余裕なんですね、私ばっかり緊張してちょっと悔しいですよー」

口を尖らせ、握っている手に少し力が加わる。

【ドスッ ドスッ ドスッ ドオン ドオン ドオオオン!!】

パチュリーの鼓動。

メッチャクチャ緊張して心臓が太鼓祭り。

【ドガドガドゴドゴ ゴギギギギギィィ】

なんだかマズい音になってきた。

(い、いけない、このままではマジで死に至るわ!)

パ式健康呼吸法だ。

3秒吸って、5秒止めて、10秒吐き出す。

4回目で多少ましになってきた。

(おっしゃ、落ち着いたわ)

はたてが心配そうにのぞき込んでいる。

(し、しっかりしなくちゃ!

さ、さあ歩くわよ、難しいことでもなんでもないわ。

まずは右足を前に、次は右足を出して、そして右足、さらに残った右足を前に。

あら? バ、バランスが! た、倒れるー!)

「パチュリー館長!? どうなさったんですか?」

はたてに抱き止められていた。

状況をようやく理解する。

大股を開いてひっくり返りかけていた。

(顔、近いわ! ねぇ、息がかかってる! はたての目ってキレイ、あ、睫、長いんだ、眉毛の形、しゅっとしててかっこいい……

おっとと、まてまて、今はそれどころではないのよ)

「踊りと聞いて、先日読んだ暗黒舞踏の解説書にあったステップを思い出してしまったの。

気にしないで」

「はあ、でも、突然だとビックリしちゃいますよ、お股がはずれちゃいますよ?」

「大丈夫よ、旅は股ずれ世は情け、というくらいだから。

さぁ、行きましょうか(私たちの輝ける未来へ!)」

「あ、あのー、ホントに大丈夫ですか? いろいろと」

表向きは相変わらずぼんやり室内魔女だが、【脳パチ】は流れる涙を拭おうともしないウイニングラン。

完全なる勝利に酔いしれていた。

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