紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! バカップルNo.1!(10)

射命丸文は少し焦っていた。

最近、姫海棠はたてに遅れをとっているような気がする。

記事の数とバリエーションは、機動力と経験に勝る自分に分があると思うが【花果子念報】の記事は内容に深みが出てきているように見える。

学術的な裏付けには整合性があり、解説記事はとても分かりやすい。

文ははたてが羨ましい。

植物、自然に関しては風見幽香が、

歴史絡みは上白沢慧音が、

生物、薬学に関することは八意永琳が、

そしてパチュリー・ノーレッジがあらゆる分野のセカンドオピニオンとして助言する。

これだけのネットワークがあれば仕入れた知識をひけらかしたくなるところだが、常に抑え気味の筆致で蘊蓄ものに偏らぬよう、配慮されている。

そのことが逆に奥行きというか、まだ何かありそう感、次回を期待させる雰囲気を演出している場合も多い。

このあたりのバランスはナズーリンデスクが知恵を授けているはずだ。

本人の頑張り、工夫もあるが、望みうる最高級の後ろ盾を擁して面白い新聞を作っている。

今あげた有力者たちは自分を明らかに煙たがっている。

なにかと優遇されている、と感じてしまう。

実のところは、個性の方向が違ってきているだけなのだが、そこに気付く余裕が今の文にはなかった。

上空から縁日の様子を眺め、ネタになりそうなことを探す。

予告記事ははたての独壇場だった。

はたては命蓮寺の広報係と呼ばれるほど馴染んでいる。

だから事前情報は取り放題だった。

せめて当日の様子くらい面白おかしく記事にしなければ話にならない。

さきほど引きこもり魔女と手をつないで歩くはたてを見かけた。

引きこもり同士お似合いかしら? などと意地の悪いことを考えてしまう。

いけない、思考が暗黒池に落ちかかっている。

その焦りを正直に話せるのは犬走椛だけ。

自分のすべてを受け止めてくれる最愛の連れ合い。

椛は『文さまとはたてさま、どちらもとても面白いですよ。面白さの向きが違いますから単純に比べることはできませんね』

そう言ってくれるが、単純な慰めに聞こえてしまう。

あ、椛……

うっかり忘れていた。

『命蓮寺の縁日、一緒に行きませんか?』

しまった、本当に忘れていた。

これほどの人手があると、さすがに椛の気だけを探すことはできない。

あちこち飛び回ってようやく見つけた。

寺の入り口にあるイチョウの木の下にいた。

白い生地の浴衣には薄桃色の花の文様。

すらりとした体躯に似合っていた。

白い短髪には鬼灯を模った髪飾り。

切れ長の目はそのままだが、頬にほんのり紅をさしていた。

(も、もみ、じ? あれって、もみじ、よ、ね? きれい…… )

目の前に射命丸文が降りてきても犬走椛は何も言わなかった。

それが文にとってはとてつもないプレッシャーだった。

(どうしてそんなに悲しそうなの? 寂しそうなの?

怒っているんでしょ?

どうしてなにも言わないの?)

ややあって、椛が口を開く。

「文さまの浴衣もありますよ」

「え……」

「寺の社務所で着替えられます。

船幽霊さんに了承を得てありますから」

「も、椛、怒ってるんでしょ?」

滅多なことでは取り乱さない胆の据わった鴉天狗の腰が引けている。

「文さまは輝ける光です。私はその影でいいのです。

おそばにいられるだけで満足です」

「そんな、そんなのイヤよ! 椛は影なんかじゃないわ!」

「私は文さまのために在りたいと思っています。

ところで、本日の私の装束はいかがですか?」

いきなり振られた話に混乱する幻想郷最速の風神少女。

「は? え? う、うん、とってもキレイよ、ホントスゴいキレイ!」

「ご満足いただけましたか?」

「もちろんよ、大満足よ! 心が満たされるわ」

「それこそが私の望みです、それだけで十分です」

すいっと笑う白狼。

文は慌てる。

「待って! 怒っているんでしょ!? ねぇ、すぐ着替えてくるから!」

「怒っていませんよ?」

「うそ! 怒ってるんでしょ!? 約束すっぽかしちゃったんだから、怒ってるんでしょ!?」

「怒ってるって言ったほうがいいんですか?」

「いっそその方がいいわよ」

「ならば『怒っています』これで良いんですか?」

「う、うん、ごめんねー、もみじー」

やっといつもの【ごめんね椛】展開にこぎつけた、と安心する鴉天狗。

だが、

「許しません」

「へ?」

「謝ってもらっても気が済みません」

「あの?」

「なんせ『怒っています』からね」

にやーっと笑う白狼天狗。

文の中で耳障りな警報が鳴り始める。

「ど、どうすればいいの?」

警戒しつつも、自分からどんどんドツボにはまる問いかけをする文。

椛が相手だといつもこんな感じになってしまう。

聡明で狡猾なはずなのに。

「羽根遊びを希望します。くすぐらせてください」

「はい?」

全身の感覚器官が鋭敏な文は極度のくすぐったがりだった。

椛が気まぐれで行う【くすぐりプレイ】の度にいろいろなものが崩壊してしまっている。

涙や鼻水や涎をまき散らしながら、喉がつぶれるほど絶叫して転げ回ってしまう。

自分が自分でなくなってしまうほど壊れる。

「ね、ねえ、もみじぃ、くすぐりは勘弁してくれない?

くすぐられている時の私って、とても不細工なんだもん、いやだよ」

一度、くすぐりプレイ中の姿を椛に撮られたことがある。

ぐしゃぐしゃになって、だらしなく口をあけた顔は酷いものだった。

「私はすべての飾りがとれた文さまのあの姿が大好きなのですが」

「でも、でも、スゴいぶすだもん、見てほしくないよ」

「声も嗄れ、疲れはて、いろいろな液体でくずくずになった文さまの顔を舐め回しているときが至福なんですが」

「も、もみじ、アナタ、ちょっと変よ!」

「変? 上等ですね、今夜は縛りますから逃げられませんよ」

やだ、椛ってば本気だ。

「もみじ、アナタ、やっぱり本気で怒っているんじゃない!」

「ええ『怒っています』よ、でも三刻(6時間)で勘弁してあげます」

「さ、三刻!? 私、壊れちゃうわよ!」

「大丈夫、休み休みさせていただきます、壊れる直前で休ませてあげます。

それを何十回か続けるだけですよ」

「も、もみじぃーーー!」

薄い黄色の浴衣に身を包んだ清楚な鴉天狗が縁日の参道をゆっくりと歩く。

いつもと違ってしっとり落ち着いた雰囲気。

顔見知りが声をかけても柔らかく微笑むだけ。

今はプライベートタイム。

記者としての営業用の顔でも、山の天狗としての威圧的な顔でもない。

見た目通りの麗しい少女が好きなヒトと祭りを楽しんでいた。

それはそれは楽しそうに。

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