紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

厄神さまはキュウリが嫌い(3)

そして現在の関係に至る。

「親方、昨日は終日留守だったね」

「あ、ごめんね、うん、ちょっとね……」

「少し顔色が優れないようだが、妖怪と言えど体は大切にしないといけない。

これを食べて元気を出しておくれ」

持参の風呂敷包みから出てきたのはキュウリが十数本。

青々としいて表面の祖毛は触ったら痛そうなほど刺々しかった。

「おおっ! これは美味しそう!」

「ウチの入道使い、雲居一輪は【緑の親指】を持っているようでね。

魔力も妖力も使わずに活きの良い野菜を作れるんだ。

時期はずれだが、味は保証するよ」

命蓮寺の裏庭は、まるで魔法の菜園だった。

雲居一輪、この実直な娘には野菜作りの才があった。

彼女の手が加わると、作物たちは競うように育ち、その実を捧げた。

京人参は因幡てゐが絶賛するほどの出来だし、紫蘇、茗荷、葱、生姜等の香菜は寅丸星の料理を一段引き上げている。

「あと、コイツもお土産だよ」

ナズーリンが別の包みから取り出したのはオモチャのトランシーバーが一組。

本格的な仕様の通信機器とは異なり、現界ではオモチャのレベルのトランシーバーは随分と廃れていた。

それに代わる通信手段が子供でも手に入るようになったので、幻想郷入りしたのかも知れない。

幻想郷の通信手段は、無線、有線が一部で使われているだけで、個人が自由に使える端末機器はもう少し先になりそうだ。

壊れているようだと前置きしながら、使い方を簡単に説明するナズーリン。

「へー! ふーん! 面白そうー!」

探し物を求めて幻想郷を飛び回っているネズミのダウザーは、ついでに見つけた品物(ほとんどはガラクタだが)をにとりに渡すことが多い。

にとりはそれをとても楽しみにしていた。

(ナズーリンのダンナにはいっつもビックリドキドキさせられちゃうな。

頭が良いのは間違いないし、物識りだし、話は面白いし、なんだか頼りになるんだよねー。

うん、そう、【賢者さま】って感じ、それも取っつき易い【長屋の賢者さま】って感じかな)

聞いた話では、鴉天狗の姫海棠はたてが師匠と仰いでいて、山の神さまたちや竹林のお医者とも対等に話ができると。

人里でも人気があるようで、何と言っても、あの霊夢や魔理沙が一目置いているらしい。

トランシーバーいじりながら、改めて小さな賢将を見る。

(こんなスゴいヒトでも誰かを好きになったりするのかなぁ)

にとりは想像してみる。

誰かの言動に一喜一憂するナズーリン。

誰かに懸命に愛の言葉を告げるナズーリン。

誰かに抱きつき甘えまくるナズーリン。

(うーん、なんかピンとこないなぁ、ダンナはそんな事やらなさそうだし)

実は結構リアルにやっているのだが。

(でも、ダンナに認められるヒト、好かれるヒト、愛されるヒトってどんなヒトなんだろう?

ダンナはどんなヒトを好きになるのかな?

ダンナにも夢中になるほど好きなヒトっているのかな?)

現在、【好きなヒト】の件で自分の感情に整理がついていない河童娘は頭の中がグルグルしている。

「ダンナは好きなヒトいるの?」

「なんだい、藪から棒に」

思っていたことが口に出てしまっていた。

「あ! う、うん、そうだね、ワタシなに言ってんだろ?」

にとりの様子を伺うナズーリン。

訳ありと察する。

「うむ、私と親方の仲だ、聞かれたからには答えよう。

好きなヒト、いるよ」

「そ、そうなんだ」

それっきり黙り込む河童娘。

「……誰、とは聞かないのかい?」

「え?」

びっくりしているにとり。

ナズーリンはこの時点でにとりがなにを話したいのかを理解した。

興味半分の恋バナを振ったのではない。

自分のことであっぷあっぷなのだろうと察する。

ここは自分がリードしてみるか、とナズーリン。

「私の好きなヒト、恋人は寅丸星だよ」

いきなりの宣告に理解が追いつかないにとり。

「へ!? そうなの? こ、恋人? でも、だって、ダンナのご主人さんなんでしょ!?」

にとりの指摘に表情を和らげる【長屋の賢者さま】。

「いかにも寅丸星は私の【ご主人様】だ。

私は千年以上前からあの方の全てを慕っていたんだよ。

誰より好きだった、何とも代えがたかった、恋しくて愛しくて、何があっても守りたかった。

だから持てる力の限りを尽くし、できることは何でもやった。

しんどい時もあったが、苦にはならなかったよ。

【ご主人様】いや、【寅丸星】のためなら、私は何でも出来たんだ。

私のほとんど全ての存在だったから」

(せ、千年以上も!? そんなに長い間、一人のヒトを想い続けられるの? 尽くせるの?)

そこまでの捨身の献愛が現実に在り得るのか。

尋常ではない精心を何とか理解すべく想像力を全開にしようと試みるにとり。

「従者という対場であったし、それ以外にも、まぁ、ちょっと複雑な立場でもあったから、告白なんかできなかったんだけどね」

「じゃあ、じゃあどうやって恋人に?」

反射的に聞いてしまった。

「【ご主人様】が私への気持ちを告げてくださったんだ」

少し俯くナズーリン。

「【ご主人様】は、ずっーと昔から私だけを想っていたんだとさ。

私と引き換えなら全てを捨てても良いんだとさ、……笑っちゃうだろ?

毘沙門天の代理にまでなって、あと少しで神格を得られそうなのに、こんな私の方が大事なんだって。

こんな私が欲しいんだって……おかしいよね?」

賢将の恥ずかしそうな顔を初めて見た。

(ダンナ、ワタシ、絶対笑わないよ! 何もおかしくなんかないよ!

ワタシ、寅丸さんの気持ち、全部じゃないけど、なんだか分かるもの。

だって、ナズーリンのダンナ、アンタ、スゴイいいヒトだもん!

寅丸さん、このダンナと千年の間ずーっと一緒だったんでしょ?

寅丸さん、このダンナから千年の間ずーっと大事にされ続けてたんでしょ?

好きになって当たり前だよー!)

にとりは他人事なのに胸が熱くなっていた。

「私の愚かな思い込みと【ご主人様】の遠慮で千年以上も無駄にしてしまったことになるんだが、今はかなり幸せなので良しとしている」

ふぃっと笑ったナズーリン。

(あー、ダンナ、今、とっても幸せなんだね、良かったじゃん!)

「これからも【ご主人様】の憂いは私が全て取り除く。

【ご主人様】を害するモノがあれば私が叩きのめす。

【ご主人様】が喜ぶなら私はなんでもする。

【ご主人様】の喜びは、即ち私の喜びなのだ」

堂々と言い放った。

あまりに濃厚で熱暑なセリフに河童娘はとまどってしまう。

「ねえ、ダンナ、自分で言ってて恥ずかしくない?」

「全然」

今度は照れることも恥ずかしがることも無く、自信に満ち、揺るぎの無い返事だった。

「寅丸さんのお話、とても素敵だったけど、最後の方、聞いてる方が恥ずかしくなっちゃったよ」

「親方が何故恥ずかしがるのか分からんね。

私は恥ずかしいことなど何もないよ。

【ご主人様】が望むなら、私はどんなにタクティクスでプログレッシブな羞恥プレイ、隷属プレイでも受け入れる」

「……ダンナぁ」

(うーん、途中まではかなりカッコ良かったのになぁ。

たまーに挟んでくるロクでもない下ネタが無ければもっと【賢者】っぽいのに、なんだかもったいないよ)

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