紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

厄神さまはキュウリが嫌い(6)

今日も雛とトランシーバー。

「昨日の夜、変なコがやってきてさー」

ハニーのことを話す。

彼女は自分を【べとべとさん】だと言っていた。

べとべとさんは【ついてくる】妖怪。

夜道や山道で後ろから『べとべと』『ぺたぺた』『ぺとぺと』と足音が聞こえる。

振り返って見ても誰もいない。

ほとんど害のない妖怪。

にとり自身も『そんな妖怪いたんだー』くらいの認識だった。

妖怪は実に多種多様、知らない妖怪はいくらでもいる。

山の妖怪を全て把握しているのは位の高い天狗や各種族の長老たちくらいだろう。

「ところでさー、キュウリ、食べてみてよ、どーぞ!  ”ガッ”」

にとりがトランシーバーと一緒に置いていったキュウリに戸惑っている雛。

「私、普段はほとんどモノを食べないのよ、どーぞ ”ガッ”」

「ふーん、じゃあ、キュウリの美味しさも知らないんだね? 試してみてよ、きっと気に入るよ、どーぞ!  ”ガッ”」

ぼりっと齧ってみた。

一口で分かった、これはダメだ。

あまり飲食をしない厄神の口は濃厚な青臭さに耐性がない。

でも、にとりがせっかく自分のために持ってきたくれたのだ。

「と、とても新鮮で美味しいキュウリね、うぷ、 どーぞ ”ガッ”」

「ひーなー、無理しなくていいのに……美味しくないんだろ? どーぞ ”ガッ”」

(え!? なんで分かるの?)

河原に座っているにとりが双眼鏡でこちらを見ている。

表情を見られてしまったようだ。

「ごめんなさい、ダメみたい……どうぞ ”ガッ”」

「雛が謝ることないじゃないよ、ワタシが勝手にススメただけだもの。

こちらこそゴメンね、どーぞ ”ガッ”」

「でも、にとりが私のために持ってきてくれたのだからいただきます! どーぞ!  ”ガッ”」

そう言ってぼりぼりぼりと一本食べきった。

自分の食べかけ、厄付きキュウリなんて残したら迷惑なだけだし。

「ああー! もう! 無理しなくて良いって言ったのに。雛は優しすぎだよー!」

この厄神さま、困っちゃうほど優しくて気ぃ遣いだ。

「こんばんは」

その夜、再びハニーがにとりの工房を訪れた。

「うん? ああ、アンタかい」

「河城さん、今日もアナタのお仕事、見ていて良い?」

「かまわないけど、河城さんはやめておくれよ。

ワタシはにとり、せっかくなんだから名前で呼んでもらいたいね」

「にとりさん?」

「にとり、にとりでいいよ」

「にとり?」

「おっけー、それでいいよ。

あ、ハニー、キュウリ食べる?」

「今頃キュウリ?」

「旬じゃないけど、ちょっとツテがあってねー、とてもウマいんだよ」

少しでも親しくなったらキュウリをすすめる、これは河童の挨拶のようなものだ。

ためらいも無く、ぼりっぼりっと噛り付くハニー。

「あ、おいしー! 味が濃いよね!」

「へっへー、分かる? ブランドものだからねー【命蓮寺のおいしい野菜】なんだよ」

自分のことのように自慢するにとり。

しばらくはエンジニアの仕事振りを見ていた【べとべとさん】だが、やがて辺りを少しずつ片付け始めた。

「にとりは散らかしすぎだよ、ちょっとずつ片づければ手間はないのに!」

「あ、ハニー! それはゴミじゃないよ! 型を作るための粘土なんだから捨てちゃダメなんだよ、もーひどいじゃんか!」

「あ、ごめんねー、だって気になるんだもん。少し掃除してあげるからにとりは仕事していて」

「うー、それは助かるけど、捨てる前にワタシに聞いておくれよ?」

「おっけー、おっけー」

そう言ってニッコリ笑った。

ごそごそ、ぱたぱたと掃除を始めてしまったハニーを、やれやれと眺めるにとり。

この娘、勝手をしているはずなのに、一緒にいるとなんだか和む。

翌日も雛とお話。

(雛ともっと近くでたくさん話したいな)

(私もそうしたいです、こんな気持ち初めて)

(夜はダメなの?)

(夜……ですか……夜は【お役目】に備えて、休まないといけないんです、ごめんなさい)

(あ、いいんだよ、ワタシのわがままだし)

(ごめんなさい)

(ねぇ、今日は元気がないよ、もしかして昨日、無理してキュウリを食べたから?)

(い、いえ! そんなことありません! 絶対そんなことありません!)

(うー、それならいいんだけど……)

今夜もハニーがやってきた。

にとりの仕事を見ていたかと思えば、いつの間にか掃除をしている。

その間、にとりの邪魔にならない程度にぽつりぽつりと話しかけてくる。

出会って三日しか経っていないのに、ハニーがいるゆったりとした空間が心地よくなってきている河童娘。

戸が叩かれた。

「にとりー、誰か来たみたいだよ」

「んー? ハニー、ちょっと待っててね」

「アタシのことは気にしないで、 どうぞ」

立ち上がりかけたにとりが一瞬止まる。

『どうぞ』?

何かが引っかかったが、とりあえず応対が優先だ。

「にとりー、私だ、椛だよ」

来訪者は古い友人だった。

「椛? どうしたの?」

「夜回りの当番なの、明かりのついている家の様子をうかがうだけなんだけどね」

「それはご苦労さん」

「仕事だからね、それで『何か変わったことはありませんか?』って聞くのも決まりごとなんだよね」

そこまで言って、気に聡い哨戒天狗は室内の気配に気付いたようだ。

「お客さん?」

「あ、うん、知り合いの娘が遊びに来ているんだよ」

「危険はないんだね?」

「ないない、全然ないよ」

両手をぷるぷると振るエンジニア。

「それなら私はこれで失礼するよ」

「あ、椛、待って」

後ろ手で戸を閉めたにとりは椛の肩を押しながら少し歩く。

「どうしたの?」

少し強引な誘導に不審気な白狼。

「ねえ、【千里眼】で見て欲しいものがあるんだけど」

小声で話す河童娘。

「にとり、知っての通り、私の能力は【覗き】には使わないよ?」

一応、釘を刺す。

「知ってる、でも、今回だけ頼むよ」

自分の能力と任務を理解してくれている古い友人がわざわざ頼むのだから、退っ引きならない理由なのだろう。

「今回だけだよ?」

「助かるよー、椛ってばステキー」

「お世辞はいらないよ、それで、何を見ればいいの?」

山の中腹を指差した河童の娘。

「あの辺りに小さなお堂があるんだよ。

厄神さまのお住まいなんだ。

今、居るかどうか、何をしているか、それを見て欲しいの」

もちろん厄神さまのことは椛も知っている。

だが、どこに住んでいるかなんて気にしたことはなかった。

そもそも何故にとりが知っているのか? 何故気にするのか?

聞きたいことはいくつもあったが、とりあえず意識を集中する。

「あー、あんなところにお堂があったんだ。

うん、厄神さまは、お休みのようだね、横になっている」

「ホント?」

「ああ、間違いない」

「そ、そうなんだ……」

「どうしたの?」

「ゴメン、今度ちゃんと話すよ」

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