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厄神さまはキュウリが嫌い(8)

命蓮寺を訪れた椛。

「こんにちわーー!!!」

濡れた参道を掃除していた犬耳の妖怪が驚くほど大きな声で挨拶してきた。

「こんにちは」

会釈する白狼。

近くまで寄って、小柄な妖怪に改めて話しかける。

「アナタも犬系の妖怪だね?」

「ワタシ、山彦!! アナタも犬の妖怪!?」

「私は白狼天狗、白い狼と書いて白狼だよ」

「白いオオカミ!? うっわー!! カッコイイイーー!! きれーー!!」

「ははは、ありがとうね、私のことは椛(もみじ)と呼んで」

「もみじさん!! ワタシ、響子(きょうこ)! 幽谷響子!!」

「響子さん、可愛いね、ホントに可愛い」

頭をなでてやると、くすぐったそうにしている山彦。

「響子って呼んで!!」

「じゃあ響子、ナズーリンさんを呼んで欲しいの、犬走椛が話をしたいって」

「ナズーリン!!? ナズーリンにご用事なのね!?

お任せくださーーーい!!」

ぱたぱたと駆け出していく。

天涯孤独の椛は、いきなり妹ができたようで嬉しくなった。

ここのところ考え込むことが多く、やや鬱屈していた自分にとって、これはなんとも清々しい出会いだった。

「あ、ナズーリン!! 今、呼びに行くところだったんだよ!!」

本堂に駆け込もうとしていた響子をナズーリンが両手を広げて止めた。

「まぁ、ほとんど聞こえていたからね。

犬走椛どのがお見えなんだね?」

「そう!! もみじさん! スゴいカッコいいんだよーー!!」

いつにも増して興奮している山彦妖怪。

ニッと笑うナズーリン。

「そうだね、なかなかの【色男】だよね」

「おとこじゃないよーー! 女のヒトだよー!?」

「ものの例えさ、分かっているよ」

ナズーリンが響子を伴って歩み寄ってくる。

「やあ、犬走どの」

軽く手を上げたナズーリン、丁寧にお辞儀する椛。

「椛で結構です。

姫海棠はたてさまから貴方さまのことを教えていただきました。

折り入ってご相談があるんですが、よろしいでしょうか?」

「こちらもナズーリンで結構だ、社務所で伺わせていただこうか。

案内しよう」

「友人のことなのです。

ナズーリンさんもご存知の河城にとりのことです。

順を追って話します」

これまで見聞きした事実を感想を交えずに話す。

細大漏らさず正確に。

簡単そうで実は難しい伝達作業だが、椛は得意としている。

そもそもこれができなくては哨戒・報告の任務はこなせない。

「以上が私の見聞きした全てです」

ナズリーンは話の途中から半眼になっていた。

胡散臭い、下らない話と思われてしまったろうか。

無理もないが、このままではいけない。

椛はなんとか話に乗ってもらうべく、フォローを試みる。

「単なる色恋沙汰です、お手を煩わせるようなことではないと重々承知の上ですが、なんとかお力添えを」

切羽詰まった椛の訴えを片手を上げて制した賢将。

「椛どの、随分と堅苦しいなぁ、にとりには私も世話になっている。

なんとかしてやりたい気持ちは一緒だよ?」

そう言って表情を和らげた。

自分の地位を必要以上に意識してしまっている白狼天狗は、明らかな外敵以外にはいつも下手に出てしまう。

これは習性とも言える。

ナズーリンの半眼は真剣に考えている時の癖。

相手によっては不快感を与えてしまうので注意しているのだが、気を抜くとやってしまう。

今のナズーリンはかなり真剣に考えていた。

「椛どの、いくつか確認したい、そしてキミの意見を聞きたい」

ネズミの賢将が聞いてきたのは、ハニーの風体、滞在時間帯、雛の寝方、雛とハニーの話し方や対応、等々。

椛自身はハニーを見たわけではないし、雛とも直接の面識はない。

「にとりが感じた雛=ハニーの仮説についてキミはどう思う?」

「私は二人を別々の場所で感知したのです、だから無いと思います」

「それを伝えたのに、にとりは合点がいっていないようだったんだよね?

何故だろうね?」

「恐らく、同一人物だったら良かったのに、それなら自分はこんなに悩まなくてすむ。

そういった願望があったからだと思います」

事実関係を再確認しながら、椛の感想、考察を巧みに聞き出す。

「ふーむ、興味深いね、キミは目が良いだけではなく、洞察にも秀でている」

「わ、私のことはどうでもいいんです、にとりが心配なんです」

ナズーリンは椛をじっと見つめた。

美少年然とした面。

涼しげな眼差し、うすい唇、肌理の細かい艶やかな頬。

アップに耐えられる造作だ。

(精悍と言って良いほどの面立ちだけど、柔らかさと妖艶さもあるな。

これはかなり女を泣かせるだろうね)

確認、問いかけが続く。

「椛どのがハニーの姿を見ておけば印象も聞けたのだが」

賢将の言葉に眉根を寄せた千里眼使い。

「白状いたします。

実は厄神さまのお住まいを【視た】とき、工房の中も【視た】のです」

犬走椛は能力の使い方に自ら制限を設けおり、そのことを他者にも明確に伝えている。

便利な能力だが、興味本位で際限なく行使すれば【覗き魔】のレッテルが貼られるだろう。

だから椛は能力を行使する際はあえて声高に宣言するし、普段の生活態度も律し、自身の言動が信用されるよう心掛けている。

たとえそのつもりが無くとも、この能力を持っていると言うだけで忌み嫌われる存在となるかもしれないから。

かの地霊殿の主のように。

「それなら話は早い、どんな印象だった?」

「それがはっきり視えなかったのです、ぼんやりとしか。

なにかの呪でしょうが、単なる魔力や妖力とは違うような気がしました。

恐らく距離を置いたら完全に【視界】から消えるような気がします」

「それは重要な情報だ、ふーむ、何かの能力かな?

悪さをするとは思えないが、椛どのが【視られない】時点で何とも怪しいね。

正体を隠す準備をしてきているとしたら尚更怪しい。

どうやらハニー側からの解明は一筋縄ではいかないようだ。

それならばどうするかな?」

ナズーリンは顎に手を当てたまま、椛に問いかけた。

「進展があるという保証はありませんが、今の時点では厄神さまから直に話を聞いてみるしか無いように思います」

厄神さまが何か知っていたとしても、トボケられたらそれっきりだ。

だが、今のところそのくらいしかできることはなさそうだ、普通であれば。

ナズーリンには情報収集の【手段】が別にあったが、椛に言えることではないので黙っていた。

「まぁ、そんなところだね。

しかし、話すにしても厄対策が必要だね、どうする?」

「射命丸さまならどうにかしてくれると思うんです」

(厄くらいならいくつか手はあるけど、椛どのが鴉天狗を頼りたいのならそれも良いだろう。

私も風神の化身と呼ばれる射命丸どのの力を見てみたいしね)

「それでは早速行くとしようか」

二人が立ち上がった時、社務所の扉が開いた。

「ナズーリン……あ、ごめんなさい、お客様でしたのね、失礼いたしました」

お盆を持ったまま軽く頭を下げたのは寅丸星だった。

「構わないよ、ご主人。

話は粗方済んだところさ、これからちょっと出かけてくるよ。

あ、椛どの、私の主人、寅丸星だ。

ご主人、こちらは山の哨戒天狗、犬走椛どの」

「犬走椛さんですね、寅丸星でございます。

お山の皆さんには大変お世話になっております」

毘沙門天の代理が改めて挨拶をする。

椛も返す。

「犬走椛です。

本日は賢将と名高いナズーリンさんのお知恵をお借りしたく伺いました」

「まあまあ、そうですかー、どうぞどうぞどうぞ」

寅丸はナズーリンが褒められると、我が事のように喜ぶ。

「ご主人、ご用はそれかい?」

主の持つお盆に目をやる。

「ぼた餅を作りました。

すぐにお出かけなら包んできますね、オヤツにしてくださいな」

「もみじさーーーん!! また来てくださいねーー!!!

「うん、次は響子に会いに来るね」

「きっとですよーー!!」

二人は山彦に見送られながら命蓮寺を後にした。

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