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厄神さまはキュウリが嫌い(10)

ナズーリンは社務所で白狼天狗の報告を聞いていた。

椛はまず【べとべとさん】のハニーに心当たりはないかと雛に聞いた。

剛速球をド真ん中、彼女らしいと言えばらしい。

『知りません』との回答。そりゃそうだ。

厄神さまの答えは予想の範囲。

続く二球目。

『河城にとりはその妖怪に心を乱されています』

剛速球投手犬走椛の二球目はアウトローぎりぎりのストライク。

「そのときの厄神さまの反応は?」

「驚いておいでのようでしたが、言葉は何もありませんでした」

そしてトドメの三球目。

『河城は貴方さまに恋しています。

なのに毎夜通いの妖怪にも心を奪われそうな自分が許せずに苦しんでおります』

対角のインハイへ本日最速の速球が唸りをあげて決まった。

(椛どの、スゴいな。厄神さまはあまりの球速と厳しいコースに思わず仰け反っただろう。

にとりの恋心は内緒、とは言われていないようだが、それでもこんなにストレートに伝えてしまうとは)

「椛どの、厄神さまは何と?」

「大変動揺されていましたが、はっきりとしたことは何も」

「それでも何かあったろう?」

「はい、声には出ていませんでしたが、口の動きは『そんな、そんなつもりじゃ』と。

その後はずっと俯いておられ、話を続けることが適わず辞去してまいりました」

哨戒天狗は眉間に皺を寄せ、頭を下げた。

「ナズーリンさん、申し訳ございません。

勇んで出かけたのに、全く情報を取れませんでした」

「そんなことはないよ、とても有益な情報があったよ。

椛どの、お疲れさま」

小さな賢将は白狼天狗を労う。

(この揺さぶりで鍵山雛とハニーに関係があることは確定だね。

しかしまぁ、犬走椛どの、真っ直ぐ過ぎるほどの感性と友を思いやる心根、そして抜群のエロスのセンス。

この娘と知り合いになれたことは大きな収穫だ、うん)

「さて、次は私の番だね。

ハニーのこと、些か心当たりがある、今夜中に調べておくよ」

「ナズーリンさん! 何か分かったんですか!?」

「道は見えてきそうだ、確認せねばならないことがあるがね。

まぁ、白狼天狗きっての俊英、犬走椛どのがわざわざ頼ってきてくれたのだ。

力になれねば女が廃るってものさ」

そう言って不敵に笑った。

「よろしくお願いいたします!!」

椛は深々と腰を折った。

ナズーリンは椛を見送ると迷いの竹林に向かった。

今宵は週に一度の小宴、因幡てゐとの飲み会だった。

生来の性格と複雑な立場上、これまで友人のいなかった小妖同士が生まれて初めて友誼を結んだ相手。

憎まれ口を叩き合いながらスリリングな会話を楽しむひととき。

二人にとって大事な時間だった。

「ナズリン、今日は随分と早いじゃない?」

日が暮れて間もない頃、詐欺ウサギ(現在休業中)が屁理屈相談ネズミ(絶賛営業中)を迎える。

「てーゐ、今夜は妖怪の山で飲まないか?」

ナズリン、てーゐ、互いに呼びやすいように呼んでいる。

「ん? なんかあるの? ワタシに見せたいもの? それとも見て欲しいもの?」

察しの良さを隠そうともしない。

「まだ何とも言えないね、以前キミが話した【お師匠様】の道楽に絡むかもしれないから念のためってところだ」

「夜、山の中でふらふらしていたら天狗にしょっぴかれちゃうよ?」

「そのあたりは大丈夫だ、話は付けてある」

「準備万端なのね、また何か面倒ごと?」

「それほどでもないんだがね」

「ふーん、まあいいよ、後でじっくり聞かせてもらうから」

ナズーリンは寅丸から小宴用の酒肴とは別にぼた餅を包んでもらっていた。

「酒のツマミにぼた餅はないでしょ?」

「これは知り合いへの差し入れだよ」

にとりの工房に到着する。

「てーゐ、ちょっと隠れていてくれ、キミはいかにも怪しいから」

「アナタに言われちゃうわけ?」

「いちいち突っかかるなよ」

「ナズリンが余計なこと言うからでしょ?」

文句を言いながらも姿を消すウサギの長老。

工房の戸を叩くネズミのダウザー。

「あれ? ダンナ、どうしたの?」

「親方、こんばんは。

ご主人様がぼた餅を作ったんだ、食べておくれよ、おいしいから」

元気のない河童娘と工房内の様子を瞬時に確認する。

「あの、あ、ありがとう、え……と」

「用事はこれだけだよ、では失礼する」

にとりは何か話したそうだったが、切り捨てるように辞した。

工房の裏口の鍵がかかっていなかったことを確認したナズーリンは、帰ったと見せかけ、てゐを伴い、裏へ回り込み、室内に忍び込んでいた。

工房内の物陰に隠れ、息を殺している。

引っ張り回されている相方のウサギ妖はため息を一つついただけで黙っていた。

相棒のネズミ妖の無茶に慣れてきている自分へのため息だった。

にとりはもちろん侵入者に気づいていない。

いつもの溌剌とした動きではないが、それでも作業をこなしている。

差し入れのぼた餅をつまんだ。

「あ、ホントおいしいや、親方、いつもありがとう」

誰も見ていないはずなのにわざわざ口に出し、お辞儀をする。

こんなところに誠実さが表れる。

しばらくして戸が叩かれた。

「ハニーかい?」

「うん」

にとりは客を迎え入れる。

「約束通り、今日、渡すからね」

約束の五日目、思い悩みながらも手を動かし、仕事をこなしていたエンジニア。

「そ、そう」

【べとべとさん】は何か言いたそうに見える。

「あと少しで調整が終わるから待ってて。

あ、ぼた餅食べてよ、とても美味しいから」

すすめられたぼた餅を口に含んだハニー。

「う、うん、うぷ、お、おいしいねー」

「ハニー、無理するなよ、甘いのダメなんじゃないの?」

「でも、せっかくにとりが……いただきます!」

もしゃもしゃもしゃ。

「無理しなくていいのに……ハニーやっぱりアンタ……」

苦笑しているにとり、でもその顔は泣きそうだった。

そうこうしているうちにオルゴールの調整が終わった。

「これで大丈夫なはずだよ」

クランクを回しゼンマイを巻くにとり。

流れてきたのは楽しげながら少しうら悲しい旋律【うれしいひなまつり】だった。

にとりとハニー、しばしの間、聞き入っていた。

「灯りをつけましょボンボリに、か、良い曲だね。

ハニー、修理完了だよ」

手渡された小さなオルゴールをじっと見つめているハニー。

「にとり、ありがとう、これはアタシの思い出の品。

アタシと一緒に流されたアタシの分身」

にとりに顔を向ける。

「ねえ、にとり、これを受け取って」

オルゴールを差し出す。

「? それはハニーの大事なモノなんだろ?」

「だからアナタにあげるの、いえ、河城にとりに持っていて欲しいの」

にとりは返されたオルゴールを受け取る。

「アタシ、今夜でお別れするわ。……アナタに言わなくちゃいけないことが」

「いい! いいんだ!! 何も言わなく良いよ!」

ハニーの話を遮り、抱きついたにとり。

「に、にとり!?」

「いいんだ、いいんだよ、ありがとう、ハニー」

どれほどの間抱きあっていただろう。

二人とも涙を流していた。

『ごめんなさい』『ありがとう』

お互いに何度も繰り返しつぶやいていた。

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