紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

厄神さまはキュウリが嫌い(11)

「ワタシに見せたいのって、あのハニーって娘ね?」

こっそり外に出た最凶コンビの片割れが言った。

「ああ、そうなんだけど、ほとんど片がつきそうな気配だったね」

ナズーリンは射命丸文に山の【べとべとさん】はどのくらいいるのかと、確認していた。

それぞれの名前も。

山のことで高位の天狗である文が知らないことはほとんどない。

だが、他人においそれと話して良いことでもない。

しかし、とある事情から射命丸は密偵ネズミに話してしまっていた。

結果、【ハニー】と言う【べとべとさん】はいなかった。

雛とハニー、外見も性質も嗜好も異なるがナズーリンは雛=ハニーと断定した。

おそらくにとりもそう確信したのだろう。

文からの情報、椛に揺さぶられた雛の反応、これらからナズーリンは断定したが、にとりは先ほどのやりとりの中で決定的な何かを感じ取ったのだろう。

では、ハニーの正体は? 同時に別の場所に存在するカラクリは?

ナズーリンは以前てゐから聞いた八意永琳の【道楽】を思い出し、相棒を実地検証に引っ張り出したのだ。

「師匠さまが一時【召使い造り】に凝っていたのは話したよね?」

因幡てゐが語り始める。

鈴仙、今も頼り無いけど、昔はもっとダメっ娘だったのよねー

それでお師匠さまは役に立つ召使いを造ろうとしてたのよね

結構いろんなの造っていたわ

人間を元にしたり、妖怪を元にしたりね

なかなか上手く行かなかったみたいだけど

自分で考えられるようにするのが難しいらしくて、結局よその魂を封入することにしたらしいんだけど、なかなか上手くいかなかったって

ん? あのヒト、面倒ごとに限ってワタシにこっそり相談してくるんだよ?

ふふん、今と変わってないかもね、ナズリン?

イキモノの造っちゃおうってんだから、バチあたりだよねー

ほとんど神様のやることだけど、あのヒトってそこいらの神様よりよっぽど【力】があるからね

しばらくしてスゴいのが完成したみたいなの

ほとんど奇跡だったって言ってた

自分の髪の毛を使って、姫さまの能力も一部だけど移すことが出来たんだって

ほとんど完璧な従者が出来たって喜んでいたんだよ

でもソイツ逃げちゃったんだよね

どこに行ったかは知らないよ

もう一度って意気込んでいたお師匠さまに鈴仙が泣きながら言ったの

『私、頑張りますから、だから召使い造りはヤメてください』って

そんなこと言っちゃったからそれまで以上に扱き使われてるのにさ

それ以来お師匠さまは【道楽】はやっていないみたいだけどね

「それであのハニーは?」

「お師匠様の蔵にあったよ、緑色の髪が目立っていたから覚えている。

意識だけを移せる妖怪型の入れ物、うーん【仮桶】だっけな?

入れる側はスゴい疲れるらしいし、四、五回使うとダメになっちゃうって言ってた」

「それで修理の日数にこだわっていたのか」

いろいろ合点のいったナズーリン。

(八意永琳と鍵山雛の接点がどこにあったのか不明だが、厄神さまはその【仮桶】を譲り受けたのだろう)

興味本位で鍵山雛を診断した八意永琳がお節介をしたくだりをナズーリンは知らない。

「嗜好や感覚は【仮桶】の体に依存するみたいよ」

「ふーん、それが好き嫌いの違いか、性格も【仮桶】に引きずられるのかな?」

「そこまでは分からないわ」

以前、ナズーリンが霧雨魔理沙から聞いた異変解決時の各面ボスとのやりとり。

鍵山雛と対戦した時の印象は、かなりハッキリとモノを言う神さまのようだし、ざっくばらんでお茶目な雰囲気だったと。

ならば山の妖怪相手にはかなり意識してイメージを作っていたのではと推測したナズーリン。

尊崇されている自分の立場を意識し、少々無理をして高貴な振る舞いをしていたのでは。

本当は一途で感情的で取っつきやすい性質なのかもしれない。

優しいにとりと触れ合いたいと強く願い、怪しい医者の申し出に乗ったのだろうか。

あくまで仮の存在だったはずなのに河童童の娘との交流は予想以上に楽しかったのだろう。

しかし、仮の自分が想われてしまうとは予想していなかった、だから慌てたのか。

「そういうことか、うん、大丈夫そうだ」

今回の小騒、放置しても問題なし、むしろ放置すべきと判断したナズーリン。

「んー、ナズリン、最初からきちんと話してくれるんだよね?」

片目をつぶって意地悪そうに問いかけるウサギ妖怪。

「お、その顔、なかなかイケるな、グッときたぞ、可愛いよ、てーゐ」

「ゴマカさないでよ! 変態!」

「まぁ、今宵はちょっと歪んだ優しい恋の物語を聞かせてあげよう」

翌日、ナズーリンは犬走椛に事の顛末を話した。

存在自体がヤバげな八意永琳製の【仮桶】の辺りはボヤかしたが。

「この先二人はどうなるのでしょうか?」

「にとりは雛がハニーと気づいたのだし、そのことを雛も分かっているはずだ。

きっかけがあれば互いが気持ちを打ち明け【福了】、いやこの場合は【福始】になるだろう」

それでも心配そうな椛。

「きっかけはどうするのですか? このままではなんとも不憫です。

離れたまま短い時間の会話だけなんですよ?」

「まずは厄対策からだね。

我らがエンジニアは【超】一流だ、きっと奇跡を起こすさ」

一日おいて河童のエンジニアの工房を訪れたナズーリン。

落ち込んでいたら喝を入れてやろうかと思ったが、スッキリした表情のにとりを見て安心した。

たわいない話が一区切りしたところで純情河童が穏やかに告げた。

「あのねダンナ、ワタシ厄神さまが、雛が、本気で好きになっちゃったみたい。

神さまなのに好きになっちゃったよー。

まいったなー、ホントまいっちゃったよ」

顔をでれんでれんにして体をぐねぐねと動かす。

少し気持ち悪いが、かなり高めの本気度だ。

「もっとお話ししたいし、手だってつなぎたいし、仲良くなりたいの」

なにやら吹っ切れて楽しそうだ。

「しかし、今のままではそばにも寄れないんだろ?」

「厄対策を考えたんだよー、あれなんだけどね」

にとりが指さしたのは作業机の上にある大きな腕輪。

魔理沙の腕輪を作ったときに【星成分】を調べたの

それがヒントだったんだ

特定の成分を集めることが出来たんだから厄も集められるかなって

厄の正体は未だに分からないけど川に流すくらいだから水に馴染むと思ったの

あの腕輪の中、水がぐるぐる回っているんだよ

ワタシ、実は水を操れるんだよね

川を逆流させたりとかは無理だけど

このくらいの量ならなんとでもできる

雛は黙っていても厄が集まっちゃうみたい

その厄を一時的に腕輪の中の水に取り込ませて保定させるの

そんなに多くの厄は溜められないけどそれでも二三刻はいけそうだよ

あと少しなんだ

必ず完成させてみせるよ

「ダンナ、ワタシ、ぶきっちょなんだ、いろいろと。

モノを造ったり、バラしたり、それしか能がない。

その他は、からっきしダメなんだよ。

だから、造るモノで想いを伝えようと思うの。

やってみるよ」

にっこり。

【超】一流の製作者の決意、その姿は間違いなく美しかった。

「初めまして、かな?」

「そうね、これが本当の初めまして、ね」

「雛、って呼んでいいのかな?」

「もちろん。 私もにとりって呼んでいいでしょ?」

「じゃあ、雛、ワタシ、雛に話したいことがいっぱいあるんだよ」

「それはとっても楽しみだわ、聞かせて。

でも、にとり、私の話も聞いてね?」

「うん、もちろん」

そう言いながらも河童のエンジニアと流し雛は手を取り合って黙って互いを見つめているだけ。

ようやくスタートラインについた二人はそれだけで幸せだった。

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