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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(2)

犬耳の少女が竹箒で掃除をしていた。

目が合った。

まずは彼女に呼びかけよう。

妖夢は、すうーっと息を吸い込む。

(さあ、いくわよ!)

「こぉーん、にちー、ぅわーーー!!」

ものスゴい号声に機先を制された。

妖夢は溜めていた息をぷはっと吐き出す。

「え、あ、その、」

「こんにちわーー!!」

「あ、はい、こんにちわ」

くりくりした邪気のない瞳が真っ直ぐにこちらを見つめる。

「よーこそ命蓮寺へ! どーんなご用でしょうかー!?」

「え、えーっと、魂魄妖夢と申します。

寅丸星さんにお話っていうか、用事があるんですけど……」

「寅丸さんにご用事!? それならまずはナズーリンですね!」

小走りで寺に向かいながら、口に手を当ててトンでもない音量で怒鳴る。

「ナズーリン!! おーーい! ナズーリーン!!!

ナッ! ズウーーーリイーーーン!!!」

やがてネズミ耳の小柄な女が、つんのめるほどの前傾姿勢で勢いよく近づいて来た。

「まったく喧しいな!

響子! 今日は忙しいって言ったろ?

やたらに呼びつけるなって言っておいたろ?」

「だあってー! 寅丸さんにお客さんの時は、先ずは自分(ナズーリン)を呼べって言ってるじゃんか!」

顔をしかめていたナズーリンだが、来客に気付き態度を改める。

「魂魄妖夢どのだね? それに西行寺のお姫様。

私は寅丸星の従者、ナズーリンだ。

以後、お見知り置きを願いたい」

会釈するネズミ妖怪につられてお辞儀する妖夢。

後ろで幽々子が優雅に腰を折る。

「あ、よろしく、こちらは西行寺幽々子さまです。

私は魂魄妖夢です、本日おうかがいしたのは……」

「ナズーリン! Compaq王蟲さんは寅丸さんにご用事なんだよー!」

「一体どんなPCブランドの腐海の主だよ!?

響子、キミは声がデカいせいか知らんが、ヒトの話をちゃんと聞かない傾向があるな。

【こんぱくようむ】どのだ、ヒトの名を間違えるのは大変失礼なことだよ」

山彦に教育的ツッコミを入れてから半人半霊庭師に向き直る。

「妖夢どの、本日は檀家を大勢招いて昼餉を振舞うことになっていてね。

【ご主人様】寅丸星は、現在てんやわんやなんだ。

ご用事ならその後にしてもらえると助かるんだけどね」

「そうなんですか、そういうことでしたら……」

確かにノーアポの訪問だったから文句の言える筋合いではない。

「よーーむさん! 寅丸さんは、お昼ご飯の支度をしてるの!

天ぷら揚げてるの! たくさん、たくさん!

川エビと野菜のかき揚げ天ぷら! 美味しいんだよー!!

それとお寺で作ったお蕎麦! 【天ざる】なんだよー!」

「まあー、それは美味しそう」

冥界の食いしんぼ姫が顔を輝かせる。

「幽々子さま! 本日の用向きは違いますよ!」

【advanced幽々子さま】も食欲は旺盛なのだ、だが、ここからが少し違う。

「そうでしたね。それではご挨拶も難しそうねー。

では、寅丸さんによろしく言っておいてくださいね」

そう言って西行寺の当主が山彦に優しく微笑んだ。

「りょーかーい!

寅丸さーーん!! とらっ! まるっ!! さーーーん!!!!」

「こらー! 響子ー! 話を聞いていなかったのか!?

ご主人は今、多忙だって言ったばかりじゃないか!」

「だって、寅丸さんに言っておいてって、言われたもん!」

「後でいいんだよ! キミは脊椎反射だけで生きているのか!?」

やがてパタパタと足音を鳴らして大柄な女がやってきた。

割烹着に手拭いを姉さん被りにした寅丸星。

「はいはい、何でしょう?」

「寅丸さん! お客さまだよー!」

「まったくもう。

ご主人、わざわざすまないね、白玉楼からお客様なんだ」

忙中ながらもニコニコしている寅丸星に冥界からの客人を紹介するナズーリン。

「あらあらまあまあ、ようこそお出でくださいました、命蓮寺の寅丸星でございます」

深々と腰を折る毘沙門天の代理。

それなりの威厳を保たなければならない立場のはずだが、今の見てくれは愛想の良いお三どんだ。

妖夢は挨拶を返しながらも、目の前の女性の柔和な雰囲気が、過日の凄まじい演武と重ならず、その落差に戸惑っている。

「して、妖夢どの、ご用の向きは?」

ナズーリンが問いかける。

寅丸本人が来てしまったからには聞かざるを得ない。

「いえ、お忙しそうなので日を改めてお訪ねいたします」

比較的空気の読める苦労人の庭師は遠慮勝ちに告げる。

「妖夢ー、それでいいの?」

こちらは空気を読めない、いや端から読むつもりがない白玉楼の主人。

さっきは挨拶だけで帰ろうとしていたはずなのに。

相変わらず言動の真意が読みづらい冥界の姫君。

「でも幽々子さま、この状況で無理を申し上げるのも……」

自分がその立場であれば『後にしてください!』とキツイ口調で言ってしまうかもしれない。

「寅丸さん、ウチの妖夢に稽古をつけて欲しいの」

空気ってなーに? お腹にたまらないし、美味しくないじゃないの。

マイペース重戦車【西行寺@UUK02式】にはブレーキが装備されていない。

(稽古? 手合わせではなくて?)

妖夢は引っかかった。

幽々子が言い間違えたのか、それとも何か意図があるのか。

本日は【advanced幽々子さま】だから単なる間違えとは思いにくい。

(何か意味があるのかしら? でも、全然分からないな……)

「はいはい、ようございますよ」

「ねえ、ご主人! 安請け合いをしたらダメだよ。

今日はとても忙しいんだよ?」

「ですから昼餉が終わるまでお持ちいただきたいのです。

せっかく遠くからお越しいただいたのですからね」

そう言ってニッコリ笑う。

「まったく……。

妖夢どの、いかがか? お待ちいただけるかな?」

苦労の多い従者が、これまた苦労の多い従者に問いかける。

「待ちまーす、天ざるをいただきながら待ってまーす」

あっけらかんと答えたのは冥界の管理者。

馳走になることは決定事項のようだ。

「ゆ、幽々子さま!」

慌てる妖夢だが、こうなっては覆すことは不可能。

この主は【天ざる】を堪能するまではテコでも動かないだろう。

小さくため息をつく生真面目な従者をもう一人の従者が同情の目で見ていた。

「それでは西行寺様は客間でお待ちいただけるかな?

案内しよう。

妖夢どのもご一緒にどうぞ」

「そんな! 私は結構です!」

さすがに気が引ける。

「それなら 妖夢、お手伝いしてくれば?

みなさんお忙しそうだから。

私は天ざるをいただくわー」

冥界の姫君に躊躇いは無い、ついでに遠慮も無い。

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