紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(3)

命蓮寺の厨房。

猫の手も借りたいのは本当。

現にタヌキもネズミも大忙し。

「うおー! あっついのおー!」

居候の二ッ岩マミゾウが大汗をかきながら蕎麦を茹でている。

捻りハチマキ、湯気で曇るメガネを忙しく拭いながら大鍋に踊る蕎麦と格闘している。

ナズーリンは食事のときは客前に出ないように心がけている。

無論、常に清潔にしているが食事時にネズミがうろうろするのは普通の人間にとって気分のいいものではないから。

裏方に徹し、厨房全体のコントロールをしながら手際よく盛り付けを行っていた。

かき揚げ天を揚げまくる寅丸星。

忙しいはずなのに鼻歌交じりで楽しそう。

(このヒト自分のことだと簡単にテンパるくせに、他人のためだと、どんなに大変でも平気なんだよね。

まぁ、そこが良いところなんだけどさ。

うふふ、大好き)

主人であり、恋人でもある毘沙門天の代理を優しく見やる小さな小さな賢将。

(おっと、見とれている暇はないね。

うーん、やっぱり妖夢どのには洗い場に入ってもらうか)

今回のイベントで地味にハードなポイントは洗い場だった。

多くはない食器を都度洗って拭いて次に備えなければならない。

多々良小傘が頑張っているがどうにも頼りない。

現に下げられた食器が早くも溜まり始めている。

聖白蓮は【フロア】(畳敷きの大広間だが)で檀家に小まめに声かけをしている。

単に食事をさせるだけでは意味がない。

食事は住職が至近で話しかけてくれる場を提供するための方便にすぎない。

とは言え、寅丸星が作る料理は寺の名物になっているから、檀家は皆、そちらも期待する。

雲居一輪と村紗水蜜、封獣ぬえが【フロア】の給仕を担当しているが、数十人のお客が入れ代わり立ち代わりする広間が相手では手が足りず、忙しない感じを与えてしまっている。

元気は良いが、そそっかしい幽谷響子は【フロア】に向かないのでお客の誘導とお見送り。

食事の【出し】も【バッシング】(食器下げ)も遅れ気味でお客から若干イライラオーラが出始めている。

本日のバタバタは、見てくれが良く、比較的器用な妖怪達が謹慎中につき不在であることに尽きるが、その詳細は別のお話。

ナズーリンは妖夢に洗い物を頼んだ。

広大な白玉楼の庭を預かる少女庭師は見事な手際だった。

黙々とちゃっちゃっと片付けていくさまは見惚れるほど小気味良かった。

一緒に作業する小傘が足手まといに見えるほどだ。

助っ人の予想以上の実力をみたナズーリンはポジションチェンジを敢行する。

「小傘をそっちへ」

小傘を【フロア】に回す旨、一輪に簡潔に告げる。

入道使いは小さく頷いて了解の意を示した。

ナズーリンと雲居一輪。

お互いそれほど打ち解けあった仲ではないが、お寺の運営に関することでは相手の実務遂行能力の高さを認めあっているので、危急の

時ほど阿吽の呼吸で抜群のコンビネーションを見せる。

愛嬌のある小傘が【フロア】に入ると、他の三人も愛想良く余裕を持って動けるようになった。

そして全体が和やかに落ち着いた雰囲気になる。

【蕎麦処 命蓮庵】はトップギアで快走し始めた。

「失礼」

断ってから客間の戸を開けるナズーリン。

西行寺幽々子は軽く首を傾げて迎え入れる。

その姿を見て一瞬、硬直したナズーリン。

(うん? 今、周囲が霞んで見えたぞ? 幽玄……と言えば良いのだろうか、なのに視線も心も持って行かれそうだ)

改めて対峙した冥界の姫君は亡霊なのに存在感が圧倒的だった。

(このヒト、こんな感じだったかな? いつもとは違う雰囲気なんだが……)

人物評価に自信のあるナズーリンが心の中で首を傾げていると幽々子の嬉しそうな声が聞こえた。

「まあー、美味しそう」

そうだ、妖夢の主人に天ざるを運んできたナズーリンだった。

ざる蕎麦三枚とかき揚げ天三人前。

旺盛な食欲で有名な白玉楼の主、とりあえず三人前持ってきたが、追加も準備している。

「あらー、こんなにたくさん、嬉しいけれど、食べきれるかしらー?」

(ん? これは冗談として受け取るべきなのか? なんだか調子が狂うな)

これまで見てきた西行寺幽々子とズレがある。

一対一だと本来はこんな感じなのだろうか。

「お構いできず申し訳ないが、このような状況なのでご了承頂きたい」

「いーえ、こちらが無理を言ったのだから気になさらないでー」

ふい、っと笑った姫君の顔はナズーリンが知る中でも超特級の品格だった。

「妖夢さん、この度は本当に助かりました、ありがとうございます」

「い、いえ! そんな!」

聖白蓮から丁寧に礼を言われ、恐縮している魂魄妖夢。

昼餉も無事終了し、檀家も帰り、片付けも一段落したところ。

温めのお茶が振舞われ、皆が一息ついている。

「小傘も響子もよく働いてくれたね。

明日は雲山に乗って空散歩に行こうか、お弁当持ちで」

姉御肌の一輪が小妖たちに優しく声をかける。

「うわーーい! やっほぅー!」

飛び上がって喜ぶ忘れ傘と山彦。

ときにふわふわと風に乗り、ときにごうごうと風を切り裂く。

空妖雲山にふんわり埋まりながら自由気ままに空をゆく快い散策。

小傘と響子にとっては最上のご褒美だった。

「ふおー、くたびれたのー」

「このくらい働いても罰は当たらないよ」

大きく伸びをする居候タヌキにキャプテンがチクリと言う。

「まあ、マミゾウにしては頑張ったよねー」

ぬえが微妙なフォローを入れる。

「今回の寄進物に上等な吟醸酒があったから後で部屋に持って行くよ」

「お!? さすがはムラサじゃ! やはり、おぬしは良い娘じゃのー」

「ええー!? ムラサは甘過ぎだよ、頑張ったのはマミ婆だけじゃないのに」

「こら、ぬえ! ババアと呼ぶなと言ったじゃろ!」

「ふん」

ひねくれぬえちゃんは面白くない。

(私だってとっても頑張ったのに、マミゾウばっかり労うなんて! ムラサのバーカ!)

外に行こうと立ち上がりかけたぬえの肩に船幽霊が手を置いた。

そして、耳元でささやく。

(ぬえー、お疲れさん、あーん、して)

元来は用心深い封獣だが、ムラサの言葉は素直に聞いてしまう。

あーんと開いた口に何か放り込まれた。

柔らかくて甘い。

一口大の四角い羊羹、通称【チロリヨウカン】。

色々な味のようかんを可愛い包み紙でくるんだ人里でも人気の駄菓子。

今、ムラサが食べさせてくれたのはぬえが大好きな栗抹茶味。

(一つしかなかったからね、皆には内緒だよ?)

人差し指を口に当て、ニコッとする。

口に入れられたとき、ムラサの人差し指をちょっとだけ舐めてしまった。

いつもより甘く感じるのはそのせいなのか。

(どう? おいしい?)

(……ん……おいひい……)

下を向いたまま、もーぐもーぐとゆっくり噛みしめる。

この甘さが全身に広がっていくのを待つかのように。

今は、ちょっとだけ素直なぬえちゃんだった。

部屋の隅で毘沙門天の代理とその従者が小声で話している。

(ねえナズーリン、私、油臭くありませんか?)

(そりゃ仕方ないよ、あれだけ揚げ物をしていたんだから)

(お風呂入って来た方が良いんでしょうか? 妖夢さんに失礼じゃないですかね?)

(少なくとも私は気にならないよ。働き者のナチュラルな匂いだから好ましいね)

(そうですか?)

(そんなに気になるのなら今夜、私が念入りに洗ってあげるよ)

(いやだ、ナズったらぁ)

キャッキャ、ウフフ

えーと、全部聞こえているんですが。

場内はシラーっとなったが、命蓮寺の面々は毎度お馴染みのことなので誰もツッコまない。

妖夢だけが律儀に顔を赤らめていた。

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