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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(4)

それじゃ始めますかってことで寺の裏庭。

西行寺幽々子をはじめ、命蓮寺の面々は縁側に座って見物。

寅丸は武闘着代わりの作務衣に着替え、木製の槍をひゅっひゅっと振っている。

それを見た妖夢は慌てた。

(しまった! 真剣勝負じゃないんだから代わりの剣を持ってこなきゃだった!)

そうは言っても妖夢は日頃の修練も楼観剣と白楼剣を使っているので、他の剣を振ることはほどんどなかった。

妖夢が慌てている様子を察したナズーリンが星に声をかける。

「ご主人の木剣を貸してあげればいいんじゃない?」

「そうですね、……妖夢さん、これをどうぞ」

寅丸が脇に立てかけてあった木刀を手渡した。

今は木剣より木刀と言う方がポピュラーか。

(え!? うそ!)

手にした幽人の庭師は取り落としそうになる。

材質は白樫のようだが、重い、メチャクチャ重い。

実のところ木刀は見た目よりかなり重い。

自在に振り回すとなると相応の膂力が必要だ。

小柄な妖夢が二本の鋼刀を縦横に振るえるのは妖怪が鍛えた【魂魄家】縁の刀だからに他ならない。

「ちょっと無理そうだね、妖夢どののいつもの剣で良いんじゃないかな?」

ネズミの賢将の提案に妖夢は驚いた。

「で、でも! この楼観剣に切れないモノは、あんまり、殆ど、少ししか無いんですよ!?」

「うーん、その時はその時だね、多分、大丈夫だろう」

ナズーリンは寅丸が妖夢に斬られるとは思っていないようだ。

「そんな……」

「妖夢さん、私、こう見えてとっても頑丈なんです。

大怪我にはならないと思いますから、どうぞそのままで」

寅丸が笑いながら言う。

「でも、でも」

はいそうですかと言える訳もなく戸惑う妖夢。

他人への接し方については経験の少ない箱入り娘。

言葉遣いや対応にいつも迷走しているが、根は気遣いのできる優しい娘なのだ。

「星、こっちを向いて」

妖怪寺の住職が声をかける。

「びびでばびでぶー」

聖白蓮が寅丸に向かってタクトを振った。

それ、初めて見ますけど?

「今、斬られても切れない魔法をかけました。

妖夢さん、これで大丈夫ですから遠慮なくどうぞ」

ニッコリ笑う大魔僧。

ホントですか白蓮さん?

(今のはフリのウソ魔法だな)

実は魔法に造詣の深いナズーリンがいかにも胡散臭いマジック・プロセスに片眉を上げた。

(だが、これで妖夢どのも気兼ねが減るだろうね。

聖もひとかどの武人だから、ご主人が遅れを取るとは思っていないのだろう)

噂の域を出ないが、聖白蓮は封印されていた法界(魔界)で無敵のグラップラーだったらしい。

リングネームは【ミルキー・ロータス】魔界の武術大会において不敗を誇っていたそうな。

その拳は光の奔流を弾き飛ばし、その脚は次元の壁さえも蹴り破ったと。

筋骨隆々の鬼人達に血泡を吹かせ、魔法戦士達の小細工を正面から受け止め、粉砕したと。

腕自慢の戦鬼、妖獣、魔人たちの挑戦を500年もの間、悉く退けた伝説のチャンピオンだったらしい。

どこまでホントの話なのか分からないけど。

「妖夢さんにも魔法をかけましょう。

まはりくまはりたー」

「え? あの?」

淡い光が妖夢を少しの間包み、消えた。

「表面に薄い【壁】を塗りました。

多少の衝撃は吸収するでしょう」

(これは本物の防御魔法だね)

「私も刀が良いかしら?」

寅丸が自分の槍と妖夢が背負う刀とを見比べて言う。

確かに手に持って振り回す武器は長い方が有利だ。

懐に飛び込めば刀が有利とは言うが、実際はそう単純なことではない。

懐に入られないための竿状武器(ポールウエポン)なのだし、ましてや熟練者が相手となれば尚更だ。

「寅丸さんの得意な得物でお願いします、本物の槍を使ってください」

妖夢は不利は百も承知。

妖夢は過日の槍の演武に触発されて本日に至る。

だから槍で仕合ってもらわなければ意味がないと考えている。

「意気込みは分かるよ。

だが、そこは張り合うところではないと思うよ」

寅丸星の槍はただの槍ではない。

毘沙門天から下賜された神槍なのだ。

ヘタをしたら霊体でも木っ端微塵になって無に帰してしまうだろう。

「ですけど……」

ほんの一瞬、幽々子に視線を飛ばした妖夢。

ナズーリンは見逃さなかった。

「幽々子どのが言われるように【稽古】なのだからね」

ナズーリンには妖夢の頑ななこだわりから今回の目的がおぼろげに見えてきた。

「稽古なら、この胸当てを付けてください」

寅丸星が剣士に渡したのは分厚い革製の小さな板をベルトで止める簡易タイプの防具だった。

なんだか合点のいかない妖夢に毘沙門天の代理は続ける。

「ここは私の稽古場でもあります。

ここでの流儀に従ってくださいませんか?」

そう言われてしまえば是非もなし。

「付けるの手伝ってあげるよ」

キャプテン・ムラサが妖夢の背後に回った。

「あ、恐れ入ります」

「これでOKだよ」

礼を言おうと振り向くと、ムラサは手を振りながら後ろ歩きを始めた。

いつの間にかマミゾウとぬえも妖夢の後方、数十歩の辺りに離れて立っている。

ムラサが二体の大妖怪の間くらいで止まった。

「えーと、なんでしょうか?」

訝しむ少女剣士。

「気にしない気にしない!」

ムラサはそう言うが、それなりに力のありそうな妖怪達に背後を取られている状態。

妖夢でなくとも気になるだろう。

向き合ってそれぞれの武器を構える。

妖夢の楼観剣は青眼で静止する。

「はじめ!」

ナズーリンの声から数秒、双方動きなし。

(よし! 先制攻撃!)

踏み込む決意をし、軽く息を吸い込む妖夢。

何が起きたか分からないが飛んでいた。

胸の辺りに強い衝撃を感じたと思ったら後ろ向きに飛んでいた。

後ろから前に景色がとてもゆっくり流れていく。

(あ……体がきかない……このままじゃ受身とれない……)

「ライトー! いったよー」

「オーライ、オーラーイ、  よっと!!」

吹っ飛んできた小柄な庭師を空中でキャッチしたのは大ダヌキだった。

「ナイキャー」

二ツ岩マミゾウに抱かれたままボンヤリしていた妖夢。

少しづつ状況を把握し始める。

(皆、こうなることが分かっていたから後ろにいたのね。

私、道化者みたい)

情けないやら、恥ずかしいやら、頭にくるやら。

平静さを欠きつつある冥界の少女剣士。

「二本目、始めましょうか」

寅丸星の優しい声にさえ悪意を感じてしまう。

何度も胸当てを突かれる。

それも全く同じ場所を。

槍の柄を斬り飛ばすこともかなわない。

刃先をほんの少しずらされ、逆に剣を弾き飛ばされてしまう。

二刀を使ってもダメだった。

「妖夢ー、私は先に帰るわねー」

西行寺幽々子は地面に座り込み呼吸を荒くしている従者に告げた。

はっと、顔を上げる妖夢。

主人の表情は穏やかでいつもと何も変わらぬように見える。

「ゆ、ゆゆこ、さ……ま」

言葉が続かない。

(先にって……そうよ、こ、こんな情けない従者と一緒にいたいはずないもの)

俯くことしかできない。

意気消沈して白玉楼へ戻った魂魄妖夢。

あの後、命蓮寺の皆は色々と気遣ってくれたようだし、声もかけてくれたようだった。

ようだった、と言うのは妖夢にはそれらを見聞きしてもほとんど頭に入って来なかったからだ。

「幽々子さま」

主人が好んでいる居間の前で声をかけてみるが返事はない。

幽々子はいなかった。

卓上には一通の手紙。

『妖夢へ

しばらくの間、紫のところへ行っています

心配無用です

幽々子         』

我慢していた。

今日一日、我慢をしていた。

こんなに我慢をしたのは初めてだった。

でも、もう、無理。

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