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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(5)

ぼんやりしている妖夢。

昨晩は泣き疲れてそのまま眠ってしまった。

これからどうしよう?

このままでは主人を迎えに行けない。

あんな無様な姿を晒してしまったのだ。

「妖夢」

背後からのかけ声、振り返ると八雲紫が腕組みして立っていた。

「……紫さま? い、いらっしゃいませ」

妖夢は主人の旧友である境界の大妖にはそれなりの敬意を払っている。

「幽々子からアナタの様子を見てきてと頼まれたの」

「ゆ、幽々子さまはどうされたのですか!?」

「私の家でのんびりしているわよ。

心配しなくても大丈夫」

言葉通りのことだとは思うが、真意を掴ませない怪しい雰囲気。

「こちらへのお戻りはいつ頃でしょうか?」

「さて、いつのことやら。

幽々子の気まぐれは今に始まったことではないでしょう?」

「でも……」

「妖夢、従者の分際でアレコレ詮索するのはいかがなものかしら?

それよりアナタには、やるべき事があるのでは?」

「……は、はい、失礼いたしました!」

冷えた口調で言われると半人半霊の庭師は縮こまってしまった。

(やるべきこと……)

八雲紫がスキマに消えた後、改めて考え込む妖夢。

(やはり寅丸さんから一本取るしかない)

主人が今ここにいないのは不甲斐ない従者に呆れてしまったからだと思い込んでいる。

紫が言うように気まぐれかも知れないが、基本思考が狭域深堀【オモイコンダラ】型の魂魄妖夢は解決策を一つに固定してしまっていた。

二振りの愛刀を見る。

楼観剣は一振りで幽霊十匹分の殺傷力を持ち、切れないものはあんまり無い。

白楼剣は斬られた者の迷いを断つ。

だが、名刀、妖刀と呼ばれる剣も当たらなければ何の意味もない。

(どうやったらあのヒトに勝てるのだろう?)

実力の差は明らかだった。

仮に素振りの数を倍にしても何かが変わるとは思えない。

自分一人だけの修練ではすでに手詰まりだ。

協力を求める? 誰に?

武術を教えてもらう? 誰に?

狭い交友関係の中で自分の頼みを聞いてくれそうな人物を思い浮かべてみる。

頭から煙が出るほど考えてみた。

ようやく結論が出た。

(やっぱりあのヒトだ、あのヒトしかいない)

「私を鍛えてください! 勝ちたいんです! お願いします!」

翌日、再度命蓮寺を訪れた魂魄妖夢。

眼前の人物に深々と頭を下げ熱意を込めて告げた。

「えーと、勝ちたい相手というのはもしかして……」

「そうです! 貴方です! 寅丸星さんです!」

少し離れたところで聞いていた村紗水蜜と雲居一輪はポカンとしていた。

「ねえ、イチ、寅丸に勝ちたいから『鍛えてください』ってのは分かるけど、それを本人に頼むの?」

「たまーにある話だね。

【自分を倒すモノを自分が育てる】

このパターンは終盤がとても熱く、切なくなるのよね」

ムラサの小声の問いかけに一輪がもっともらしく答える。

「ふーん、そうなんだ。

でもさ、寅丸はそれを受けるのかな?

なんだかとっても困っているみたいだよ」

「まー、いつものようにネズミに助けを求めるんじゃないの?」

寅丸星は困っていた、かなり困っていた。

小柄な剣士はとても真剣な顔、冗談ではなさそうだ。

努力家で真面目な毘沙門天の代理は、問題が発生した場合、まずは自分で何とかしようと奮闘する。

それでもどうにもならない時、この世で最も頼りになる連れ合いに縋るのだった。

だが、今回は最初から手に負えなさそうだ。

寅丸星は顔だけナズーリンに向け、無言で助けを求めた。

(ナズ、どう答えたらいいんでしょう?)

一輪の予想通りの展開になった。

ナズーリンは呆れを通り越して感心していた。

(ふーむ、そう来たか、ユニークな思考だね。

だが、目標達成のための最短距離を捉えているとも言える。

この娘、面白い、うん、かなり面白い)

生来の世話焼き癖とイタズラ癖が同時にムクムクと膨らんでくる。

「妖夢どの、この件は寅丸星様の従者である私が窓口になろう」

「え? あ、そうなんですか?」

今の今までその存在を忘れていたネズミの小妖から告げられ困惑気味の庭師。

「ご主人様のスケジュール管理は私がやっているのだからね。

まぁ、マネージャーのようなものだ」

「まねーじゃー? ですか?」

「左様だ。

スケジュール管理の他、心身を健全に保つためのケア、これは主に寝所の伽だがね」

「とぎ? ですか?」

「寝物語を聞かせたり、場合によってはご主人様の滾る劣情を慰めるために体の全てを捧げたりするのさ」

「か、か、からだ!?」

「そう、従者たるモノ、主人のどんな要求にも応えなければならないからね」

「よ、ようきゅうって!?」

「私のご主人様の要求は大変激しい。

底無しの体力と無限の性欲を誇る寅丸星様は【黄金の淫獣】の異名を持っておられる。

私はいつも死線を彷徨うほど責め抜かれている」

「な! ナズーーーリーーン!!」

それまで黙っていた毘沙門天の代理が顔を真っ赤にして怒鳴った。

半人庭師も真っ赤になって口をパクパクさせている。

「そんな訳だから稽古のスケジュールを打ち合わせようか、妖夢どの」

掴みかからんばかりの寅丸を片手で制してさらりと告げたネズミの賢将。

「へ? あの、それじゃ、よろしいんですか?」

「もちろんだ、ご主人様は慈悲の権化であらせられる。

苦悩するモノには大いなる慈愛を惜しみなく注いでくださる」

「は……あ、ありがとうございますーー!!」

言うがいなや、ぺちゃりと土下座する半人半霊の剣士。

「寅丸さん! 何とぞよろしくお願い申し上げます!」

悪ノリしているナズーリンを折檻しようとしていた【黄金の淫獣】は気勢を削がれてしまった。

「あ、はい、こちらこそ……」

「私、あのコ、結構好きかも」

「ええー? そうなの?」

キャプテン・ムラサのつぶやきに眉をひそめる入道使い。

「真面目で、一途で、それにとっても綺麗。

ちょい勘違い系、世間知らずなところも可愛いじゃない。

何だか放っておけないよ」

「……ねえ、ムラサ、ここだけの話にしておきなよ。

ウチのイタズラ娘の耳に入ったら、とっても面倒なことになるからさ」

「イタズラ娘って、ぬえのこと? なんで?」

目を丸くして本気でハテナマークを噴出している天然ジゴロな船長。

「はああーーー。

アンタは他人の色恋には結構食いつくクセにね。

自分のこととなると何と言うか……」

「なによー、ちゃんと教えてよ」

「言っても分からないと思うけどねー。

んー、まーいいか。

あのね、いい? ぬえはアンタのことが好きなのよ」

「私もぬえが好きだよ?」

「ハイッ! ダメェーー!」

親指を思いっ切り下に向けた入道使いの姉さん。

「ちょっとぉ!? なんでさー!」

「今の場面、最低でも『え?……そんな……私、そんなつもりじゃ……』よ。

それを間髪入れずに『私も好きだよ〜ん』て。

はあーーあ、鈍感沈没アンカーにこれ以上話すことは無いね」

「イチ! 『私も好き』じゃイケないの?

好き同士でウキウキハッピーでしょ!」

「好きの温度差があまりにもねえ……

天ぷらがカラッと揚がる油温と、のんびり入るのに丁度良いお風呂の温度くらい差があるね。

また今度じっくり説明してあげるよ……

さあさあ仕事、仕事!

……でも、ぬえにはくれぐれも内緒にしておきなよ、いいね?」

そう言ってムラサのお尻をぺしっと叩いた。

納得のいっていない素敵な船長さん、ブツブツ言いながらも寺に向かった。

今日は縁の下に潜んでいる物の怪を掻き出す仕事だ。

仕事の途中だった寅丸が場を離れると、ネズミと半人半霊の従者同士が残された。

「妖夢どの、ここへ来ること、キミのご主人様は許してくれたのかい?」

もっともな問いかけに視線を落としながら答える妖夢。

「幽々子さまは昨日から八雲紫さまのところへお出かけです」

「八雲……ふーむ、不在なのか。

では、ここへは無断で来たことになるのだね?」

「はい、私の一存です、でも書き置きをしてきました」

ナズーリンは西行寺幽々子の不在に興味を持ったが、今はここまで。

「それではしばらく寺に住み込むかい? 部屋はあるよ」

「いえ、ありがたいお申し出ですが、幽々子さまがいつお戻りか分かりません。

庭の手入れもございますから出来ましたら通いでお願いします」

「それもそうだね、では毎日昼前に来たまえ。

ご主人様の予定は日によって違うが、午後は比較的時間が取れる。

日によって稽古の開始時間は変動するが、昼飯時には大体確定するはずだから」

「ありがとうございます!

では、寅丸さんのお時間をいただく代わりに空いている時間は私のできること、なんでもお手伝いいたします!」

「なかなか殊勝な心がけだね。

よし、そのセンでいくとしようか。

予め言っておくが、お客様扱いはできないよ? 覚悟はよろしいかな?」

「はい! 望むところです!」

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