紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(6)

翌日、朝のうちに庭の手入れを終えた妖夢は約束通り昼前に命蓮寺にやって来た。

「ようこそいらっしゃいませ」

出迎えてくれたのは住職、聖白蓮だった。

「ナズーリンから話は聞いております。

しばらくの間、よろしくお願いしますね。

もうすぐ昼餉ですから妖夢さんもどうぞ」

「え? いえ、私はそんなつもりでは……」

「そうおっしゃらずに、食事は大勢の方が楽しく、美味しいですから」

さあさあと、妖夢の手を取って奥へと引っ張っていく。

柔らかい雰囲気だが有無を言わせぬ迫力に完全に飲み込まれてしまう。

まるで幽々子のような強引さ。

広間には大勢の妖怪たちがいた。

配膳するモノ、座ってしゃべっているモノ、二十体以上はいようか。

この二日間でなんとなく顔を覚えたモノ達にぎこちなく挨拶する。

「あ! 妖夢さーん! こっちおいでよー!」

一際強い妖力を放つセーラー服の女性が盛んに手招きしている。

(あれは一昨日何度か私を受け止めてくれたヒト?)

「ここ座りなよ! 一緒にご飯食べようよー!」

「あら、ムラサと仲が良いの? それなら彼女の隣に座りなさいな」

聖に誘導されたらもう後はない。

妖夢はムラサの隣に座らされた。

「私、村紗水蜜! ムラサって呼んでね」

「あ、魂魄妖夢です、よろしくお願いします」

「アナタは幽霊……んー、半分? 半霊だね? 私も元は船幽霊なんだ。

よっしゃ、幽霊同士、よろしくねー」

屈託のない明るい笑顔を向けられ緊張を解きかけたが、ムラサの隣に正体不明の黒い靄を見つけてしまった。

グログロ ゲリョゲリョ ゴボッゴボン

なんだかモノスゴい敵意を感じる。

一体なんなのだろう。

「こりゃ、ぬえ、落ち着かんか」

その靄をパシッと叩いたのは眼鏡をかけた長身の女性だった。

(あ、このヒトも私を受け止めてくれたヒトだ。

あの尻尾……タヌキなのかな?)

黒い靄はシュルシュルと収束し、やがて膨れっ面の少女になった。

この少女も一昨日見かけたが、なぜ不機嫌なのか分からない。

皆が揃って食事の挨拶。

寅丸星が席に着いたのは最後だった。

ずっと厨房にいたのだろう。

それを見た妖夢は明日からはもう少し早く来て、支度の手伝いをしようと心に決めた。

食休みを取った後、裏庭で向き合う二人。

稽古用の槍を構えた寅丸が妖夢に言う。

「私は攻撃をしません。

妖夢さん、好きなように攻めてきてください」

「はい!」

妖夢は大きく切り込み、切り返す。

防御に気を配らなくて済む分、フェイントを交えながら遠慮なくビュンビュンと大刀と小刀を振り回す。

だが当たらない。

ほとんどが体捌きだけで躱され、希に捉えられそうな一撃は槍上を滑り、流される。

焦る。

焦りの原因が分かってきた。

この武人はフェイントに全く釣られないのだ。

虚撃は軽くあしらい、実撃には的確に対応してくる。

攻め疲れた妖夢が肩で息をし始めた頃、寅丸が告げた。

「今度は私が攻めます。

妖夢さんは防御だけですよ。

ナズーリン、防具を付けてあげなさい」

「かしこまりました」

ネズミの従者が防具を抱えて近づいてきた。

ようやく一息つける。

妖夢にとってこの休息はありがたかった。

ナズーリンは留め具の具合、装甲面の角度、何度も確認している。

ことさらゆっくりと装着させてくれているように思えた。

まるで妖夢の息が整うのを待つかのように。

今装備されているのは一昨日よりも広範囲を覆う頑丈そうな防具だった。

(これは、容赦ない攻撃が来るってことだよね)

妖夢は改めて気を引き締める。

稽古再開。

ゆったりとした構えの寅丸星。

当たり前だが隙が無い。

高レベルの武人と対した時、最も大切なのは【攻撃ポイントの予測】だ。

あらゆる攻撃に柔軟に対応する、そんなのは彼我の実力に明らかな差があるからできることだ。

スピード・パワーともに段違いである寅丸クラスの武人を相手にするには【当たり】をつけるしかない。

本来であればこの【予測】すら無謀なのだが、今回は攻撃ポイントが分かっている。

(最初は胸を突いてくるはず、その初撃を外さないことには始まらない)

妖夢は槍ではなく寅丸の足を見ていた。

(槍の穂先を見ていたら、きっと間に合わない)

寅丸の左足がすーっと滑り出てきた。

(来…… はうっ!!)

突き転がされていた。

(……初撃は躱せたはずなのに)

胸を狙った突きは確かに楼観剣で弾いたはず。

なのに腹を突かれていた。

(うぐ……次撃はいつ来たの? 全く見えなかった!)

その後も胸を、肩を、腹を、何度も突かれた。

常に最初の一撃は弾いている。

だって、この初撃、間違いなく弩砕必殺の大激衝なのだ。

全力を持って対応しなければ一手目で終わりになってしまう。

しかし、そこまでで精一杯。

次撃に追いつけない。

「何故、貴方の攻撃が届かないのか分かりましたか?

そして何故、私の攻撃が届くのか分かりましたか?」

普段は【温厚】の小籠包とまで言われる寅丸星が殊更冷ややかに問うた。

「そ、それはやはり、膂力、技術、なによりスピードが違うからです」

「……もう少し稽古を続けましょう」

にわか師匠は、にわか門人の答えに不満そうだった。

「お寺にいる間は私がキミの世話をさせていただくよ」

ぜえぜえと喘いでいる妖夢にナズーリンが声をかける。

「お、おそれ、い、いります」

『今日はここまでです』

寅丸が終了を告げた時には立っているのがやっとの状態だった。

「まずは風呂だ、仕度は出来ているからすぐに入りたまえ」

「え? そんな……申し訳ありませんよ」

食事をさせてもらって、稽古もつけてもらって、その上風呂なんて。

「これも稽古のうちなんだよ」

防具を外すのを手伝ってくれているネズミの従者の言葉がよく分からない。

(お風呂に入るのが稽古?)

案内されたのは一人用の小さな浴室。

命蓮寺にはいくつか浴室があるらしいが、ここは最も小さいのだと。

「着替えはこの浴衣を使って」

錨のマークがあしらってあるシンプルな浴衣。

一応、着替え一式は持参してきたが、風呂上がりに浴衣はありがたい。

狭い脱衣場、もそもそと服を脱ぐ。

腕、肩、胸、腹、体の前面がアザだらけだった。

(……こんなに打たれていたんだ)

小さな内風呂の戸を開ける。

(うっ!? 臭い!)

スゴい匂いの正体は浴槽に張られた茶色いお湯だ。

「疲労回復、打ち身に効く特製の薬湯だ!

その体、放っておいたら明日の朝は動けなくなるよ!

だから、少なくとも30分は浸かっていたまえ」

戸越しの声は有無を言わせぬ勢い。

(うえええー!)

思い切り吸い込んだらむせてしまいそうな薬臭さ。

顔をしかめつつ我慢して浸かっていると、やがてジンジンとしみてきた。

なんだかとても効いていそうな感じ。

(ふーーー、ホントにこれで良いのかな?)

今日の稽古は実力の差を改めて見せつけられただけで何も収穫がなかったように思える。

(私、間違っているのかな〜?

ん〜 ……あとでじっくり考えよ〜)

じんわり気持ちよくなってきて、頭の芯まで緩んでしまった妖夢。

相方の半霊を枕に未成熟な肢体を薬湯にたゆたわせた。

風呂上り、ネズミの従者の居室。

「じきに薬石(夕飯)だ。

呼びに来るからここで少し休んでいてね」

「私、お手伝いします!」

今日は何も手伝いをしていないから焦る妖夢。

「いや、今日のところは結構だ。

薬湯の効き目を確認したいから、おとなしく休んでくれ」

そう言われてしまえば反論もできない。

ナズーリンが退出した後も暫くは正座していたが、体が『寝そべりた〜い』と強く訴えている。

敷き布団がある、誘惑の魔床が。

確かにスッゴく、くたびれている。

そして今はお風呂のおかげで、ふわふわふわふわ、とても気持ちが良い。

どうしようか?

『休んで良いって言われたよ?』

『それを言葉通りに受け止めて良いの?』

『だってホント疲れてるんだよー』

『でも出先で寝るなんて、とてもはしたない』

緊急脳内会議は紛糾したが『では5分だけなら良いでしょう』と結論が出た。

(よし! 5分たったらスパッと起きる!)

ころりん、と横になった。

「妖夢どの、よーーむどのー」

ユサユサと揺すられている。

「ん…… あ〜、ああっ!?」

慌てて飛び起き、正座する。

「す、すいません! つ、つい!」

「休んでいてと言ったのはコチラなんだから気にすることはないよ。

それにしても良く眠っていたね」

「あ、あ、あの! 私、どのくらい寝ちゃってたんですか!?」

「ん? 小一時間くらいじゃないかな?」

「そ、そんなに……」

なにが5分だけだ、みっともない。

顔が熱くなる。

「気にすることないって言ったじゃないか。 ……さて」

妖夢の正面に座り直したネズミの従者。

「失礼するよ」

妖夢の浴衣の合わせをガバッと開いた。

浴衣の下には何も身に付けていなかったから発展途上の白い星1.5×2πが全開になる。

「ふえ? あ? あ?」

まだ半分ほど寝ていた頭が完全に覚醒した。

なんだかトンでもないことになっている。

「ふーむ、大体良いようだな。

ここは痛むかね?」

そう言って、右の胸の上の方をちょんちょんと突く。

「あ! あふん! あの、あのん……」

物心ついてからは人前で肌を晒した記憶はない。

ましてや触られるなんて。

しかし、羞恥より驚愕が先行して、何も対応できない。

「大丈夫そうだね。

半人半霊用の配合なんぞ初めてだったが、効果はあったようだ」

満足げに頷きながら浴衣の合せを閉じた。

「よし、食事だ、外で待っているから着替えてね」

さっさと立ち上がって出て行ってしまった。

あまりのことに放心していた妖夢だが何とか再起動する。

のろのろと浴衣を脱いで体の前面を眺めた。

改めて見てみるとアザはほとんど消えている。

この短時間でこの効果、魔法のようだ。

(今のって、薬湯の効果をみるタメなんだよね? そうだよね? ね?)

あまりにも唐突だった【初体験】を【無かったこと】にしようと、脳内補正に必要な理由を必死に探す妖夢だった。

夕餉の席、人数は昼間より少ない。

十人もいない。

また、ムラサに誘われ隣に座った。

「お疲れさん! 大変だったみたいだねー。

おや? この匂いは?」

ヒクヒクと鼻を動かす船長さん。

妖夢の顔は火が付いたように赤くなった。

あのモノスゴい薬湯の匂いは簡単には取れなかった。

妖夢の反対側に座っていた犬耳の少女もクンクンと鼻を鳴らす。

(やっぱり、く、臭いんだ! う〜〜!)

年頃(?)の娘にとって【臭い】と言われることは自刃する理由になりうる。

「ナズーリンの薬湯だね? 私らもたまーに入るんだよ。

妖怪の種類に合わせて配合を変えるらしいんだよねー。

匂いはスゴいけど効果は抜群なんだよ」

(そ、そうなんだ?)

「アイツ、無愛想で、中身は変態だけど、大事な所は押さえているんだよねー。

頼りにしていいと思うよ、かなり変態だけどねー」

そんなに変態なヒトに生乳を触られちゃったんですけど。

でも、あの時はイヤラシさを微塵も感じなかった。

まるでお医者の様な冷静さだった、と、思う、多分。

(いいヒトっぽいけど、よく分からないよ)

魂魄妖夢ちゃん。

クール変態な賢将の全容を理解するにはまだまだ経験値が低い。

食後、若干の疲労を引きずったまま白玉楼へ帰還した妖夢。

主人は帰っていなかった。

[←]  [小説TOP]  [↑]  [→]

PAGETOP
Copyright © 2011 東鼠回顧録 All Rights Reserved.