紅川寅丸とTeam東方不敗の作品やご案内

ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(7)

翌日、少し早めに命蓮寺に来た妖夢。

「こおんにちっ、うわーー!」

「こんにちわー」

幽谷響子に声をかけ、厨房に向かう。

「お、早いね」

「はい、こんにちは」

ナズーリンと寅丸がお昼の支度をしていた。

「お手伝いさせていただきます!」

よしゃー! 間に合った!

お手伝いモード全開の魂魄妖夢さん。

「では、そこにあるゴボウを笹掻きにしてください」

今日の昼餉は親子丼だそうだ。

ゴボウ? 何故?

「ウチでは親子丼にゴボウを入れるんだよ。

鶏肉と相性が良いからね」

ナズーリンが先回りして答えてくれた。

ふーん、そーなんだ、と感心しながらもシャカシャカとゴボウを削る。

(んーっと、次は水に晒してアク抜きだよね。

あーっと、あんまり晒すと美味しくなくなっちゃうから、ざっとね)

タライとザルを使い、ちゃっちゃとゴボウの下拵えをする。

「最初の片付けの時にも思ったけど、妖夢どのはとても手際がよいね」

「そうですか?」

命蓮寺の食事当番トップペアのナズ星に遅れることなくついてくる。

「先々を見越して無駄なく動ける、これはとても立派なことだ。

常に自分のお役を意識し、長年真摯に務めてこられたからだろう」

「い、いえ、そんな」

こんなことで持ち上げられると恥ずかしい。

主人に呆れられてしまった力足らずの従者なのだから。

ゴボウと長ネギ、鶏モモ肉の【命蓮寺ふわとろ親子丼】はとても美味しかった。

「貴方の剣は軽いんです」

今日も昨日と同じく妖夢の先攻だったが、何手目かの攻撃を躱した寅丸が告げた。

「仏の道に生きる私が言うことではないと思いますが、一撃必殺の重みがありません。

太刀筋はとても良いのですけど、【怖さ】がないんです。

貴方に剣を教えてくれた方は剣撃について何と言っていましたか?

教えを思い出してください」

剣を教えてくれたのは祖父、魂魄妖忌。

妖夢は祖父の教えを思い出す。

『一の太刀を疑うな! 鉄をも斬れ、岩をも砕け!』

とにかく力一杯素振りをすることに終始させられた。

勢い余って自分のつま先を切りそうになったこともあった。

そんな時でも『それで良し!』と満足そうに見ていた祖父に納得がいかなかったことを思い出した。

大柄だった祖父の剣は力任せに相手をねじ伏せる剛剣に見えた。

非力で小柄な自分には合っていないと判じた。

祖父が白玉楼を出て行ってからはそんな素振りはしていない。

今回寅丸星に挑むにあたっても、ここだけは教えをなぞらなかった。

基本の型が崩れないよう、丁寧に振ることだけを心がけ、それ以外は素早い動きと連続した技に注力してきた。

「素振りがまったく足りていません。

強く、速く、重たい、必殺の一招を身につけてください。

すべてはそこからです」

普段の寅丸とは別人のように厳しい言葉。

「そして、斬りつけた瞬間、相手の人生を終わらせてしまうという事実を受け止めてください。

凶器を携え、それを振るう者としての責任と覚悟をしっかりと持ってください」

「……え? は、はいっ!」

衝撃を受けた。

そんなこと考えたことなどなかった。

深く考えもせず、辻斬りまがいのことをしていた自分がとても恥ずかしくなった。

「よろしいですか?

我々武人は争いを避けるためにあえて力を誇示する時もあります。

それでも挑まれれば力を放ちます。

相手の力が自分よりよほど弱ければ加減もできるでしょう。

しかし、力が近いとなれば全力です。

どちらかが死ぬ、殺し合いになります」

「は はいっ」

噛んで含めるような丁寧な言い方が却って怖く感じる。

「その相手に対し、少しでも情けがあるうちは戦ってはいけません。

迷いを纏ったままの戦いは遅れにつながりますし、万一討ち漏らせば遺恨を残しますから。

それでも、どうしても戦わなければならない状況になったら覚悟してください。

その相手に決して情けをかけてはいけません。

必殺の念を込めて戦いなさい。

『必ず殺す』のですよ」

「は、あ、あ……」

剣を振るうということはここまで覚悟を持たなければいけないのか。

妖夢は手にしている楼観剣がズシリと重さを増したように感じた。

(妖夢どの、ついて行けているかな?

【真剣勝負の心構え】についてのとても重要なエッセンスなんだが、まだ早いような気もする。

でも、こんなにカッコイイご主人は久しぶりだ……星、ステキ)

ナズーリンは武術に関してだけは凛々しい主人を誇らしげに見やっていた。

「今日は素振りをやってください。

型は気にせずとも結構です、とにかく力一杯、振ってみてください」

「服脱ぐの、手伝おうか?」

「けっ、結構です!」

そうは言った妖夢だが指がこわばって思うように動かない。

『まずは百回、全力で、渾身の力を持って剣を振り下ろしてください』

寅丸の指導はシンプルだったがキツかった。

五十回あたりで腕の筋がきしみ始め、最後の百回目で楼観剣がすっぽ抜けて飛んで行ってしまった。

今、早めに風呂支度をしてくれたネズミの従者に付き添われ脱衣所にいる。

「無理をしなくて良いのに」

「大丈夫です! 自分でできます!」

これ以上世話をかけるわけにいかない。

そして、これ以上身体を許すわけにはいかない。

純情乙女の最終防衛ラインは、もはや一歩も退けない状況だ。

ボタンを一つ外すのにもエラく時間がかかる。

情けない、たかが全力素振り百回で体中が悲鳴を上げるとは。

「マッサージ……ですか?」

「そうだよ、今日のキミの腕は薬湯だけでは足りないはずだからね。

私が念入りに施してあげよう」

昨日と同じように妖夢は風呂上がりにナズーリンの自室にいた。

「さ、腕を出して」

「え、でも、あ、はい」

一瞬、躊躇したが手を差し出す妖夢。

手首を掴まれ、手のひらの、親指の付け根をキュッと摘まれた。

「うぎぎぎぃいー!!」

超、超痛い。

手首を固定されたまま、腕の裏側をギュッギュッギュと押さえられた。

そして肘に向かって容赦なく上がってくる。

「あががが! がははぁうおーーん!!」

乙女の悲鳴としては落第点だが、気が飛んでしまうほど痛いのだから仕方ない。

「むう、思ったより凝り固まっているな、時間はかかるが少しずつほぐしていくか」

悲鳴を上げるほど痛かったのは最初の一撃だけだった。

ぐいぐい揉みこむわけではなく、撫でるように腕に触れる。

時にじっと押さえたりもする。

ネズミの従者の手はとても暖かい、熱いほどだ。

緩やかな暖気がじわー、じわーっとしみてくる。

(こ、これは何かの術なのかな? とっても気持ちいい……)

「キミの利き腕は右だね? ならば剣を支える要は左手の小指のはずだ。

なのに肝心のところがあまり鍛えられていないな」

左腕外側を軽く掴まれる。

筋がごりごりにこわばっている。

「だから全力で振るう剣に制動がかけられず、振り回されるんだ。

結果、全身に要らぬ力が入って、あっさりくたびれてしまうわけだ」

ぴしゃりと言い放たれた。

至極もっともな話だが、妖夢は別の疑問が浮かんだ。

「あの、ナズーリンさんも武術をやっているのですか?」

この従者、色々と詳しすぎる。

「いーや、私自身はからきしさ。

だが、類希な武術の俊才と千年以上一緒にいるからね。

イヤでも色々見えてしまうんだよ。

【門前の小僧、習わぬ何とやら】って程度だがね、んふふん」

わざとらしい作り笑顔。

本当にそうなのだろうか。

この小柄な従者の歩き方や目線の配り方、無駄のない身の熟し。

妖夢も武術家の端くれだから気にはなっていたのだが。

「まぁ、その【小僧】からエラそうに言わせてもらおうかな。

妖夢どの、キミは際だった才能を持っている。

それは間違いない。

異変解決の実績もあるのだし【戦闘センス】も十分だろう。

だが、武人としての心構え、日々の稽古の心構え、総じて【心】の鍛錬が不足している」

(やっぱりそうなのかな、でも、でも……)

「キミの祖父君は長くご不在と聞いている。

修行の途中で師匠がいなくなったら迷いもするさ」

不安をずばりと言い当てられた。

肉親の失踪、寂しさは当然だが武術家として目覚めたばかりの身にとって指針を失ったことは困苦そのものだった。

(え、と、ナズーリンさん、なんでそんなことまで分かるんですか……)

「だが、人生(?)必要なときに必要な師に出会うと言う。

今がそのときなのだと思うよ。

まぁ、妖夢どのが真面目にやってきたからだろうね」

ネズミの従者はマッサージの箇所を肩に移しながら穏やかに話す。

(必要な師……寅丸さんとの出会い……)

あと一息で色々と納得がいきそうな気がする。

「今日の素振り、二十回から四十回目にかけては良かった。

なかなかの迫力だったよ。

基本は体が覚えているようだから細かい指導は不要だろう。

……さ、うつ伏せになりたまえ」

突然の命令が理解できない。

「え? 腕のマッサージじゃないんですか?」

「あのね、マッサージは疲弊した場所だけをほぐせば済む訳じゃない。

気と血液は全身を巡っているのだから。

これは妖怪でも人間体を維持しているモノなら倣う傾向が強い。

特にキミのように半分人間であれば全体の気脈を整えることが回復の早道だ」

(そ……そんなモンなのかな? いや、きっとそうなんだ)

半信半疑だが、細々と自分の世話を焼いてくれるこの賢将は肝心なことは偽らないような気がする……と思いたいようなそうでもないような。

「わ、わかりました!」

意を決して用意されていた敷き布団に伏す。

ネズミの按摩さんは肩胛骨の下から肋骨の裏側、そして背骨をゆっくりと擦る。

(ふあうーん、気持ちい〜、血が勢いよく流れている気がするー)

「足にも余分な力がかかっていたようだね」

魔法のようなウオームハンドは背中から足の裏へ飛んだ。

足の裏を強めに押され、足指を一本ずつクリックリッと摘ままれる。

(はうはうはうー、そこ、いいですう……)

引き続いて、くるぶしからアキレス腱、そしてふくらはぎを撫でられる。

(んん〜、ううっ! ちょっと痛いけどイイ感じですねー。

あー内側は少し優しくしてくださーい)

リラックスしすぎて、お調子に乗ってきた。

ひかがみ(膝の裏)をさすっていた手が上がってきた。

そして腿の裏側を揉み始める。

「んー、さすがに邪魔だな」

マッサージ師はそう言って妖夢の浴衣を盛大に捲りあげた。

「うひゃう!」

下半身が全開、ノーガード状態。

これまでも撫で回されていたのだが、薄布一枚を最終防衛線として精神の均衡を保っていたのだ。

だがこれで守るモノは股上も深くお腹もがっちりガードのいわゆる【大型ショーツ】のみ。

「あ、あの、あの!」

内股に直接指が食い込んでくる。

「へぶっ!!」

「なんだね? 足先から腰へ流れをつながなければ効果はないんだ。

大人しくしていたまえ」

足の付け根の微妙なところがグイグイと侵攻され始めた。

最終防衛ラインはいともあっさり越えられてしまった。

思わず力が入る、尻に、内股に。

「こら、そんなに力を入れていては凝りがほぐれないじゃないか」

「でも、そ、そこは!」

「なーにを緊張しているんだ?

ふん、案ずるな、私は未成熟な肉体には興味がないんだよ。

……それともなにかい?

キミは私を欲情させるほどの自信があるのかね?」

からかい半分で言われたが、瞬間湯沸器のように全身に火がついた。

スゴく、スゴく恥ずかしい。

それなりに大事にしてきた【身体】だが自意識過剰とばっさり斬り捨てられた。

「キチンと流れをつなげてやるから。

そしたら、うんと楽になるからね。

だから、ほら、力を抜きたまえ」

そう言って、ぺちゃんと尻を叩かれた。

「はむす!」

「焦って慌てる必要はないよ。

妖夢どのは成長途中だ。

数年後には幻想郷屈指の美姫になるだろう。

その時あらためて私を誘惑しておくれ、 ね?」

(うううううーーー)

言っている内容は優しいが、まったくもって子供扱い。

恥ずかしさにターボがかかってしまう。

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