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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(9)

千年以上も昔の話。

代理としてふさわしいか否か。

使者のナズーリンを通じて寅丸星を召し出した毘沙門天。

彼女の天賦の武才をいたく気に入り自ら槍術の基本を指導した。

驚くほどの短期間で教えを完璧に我がモノとした寅丸。

毘沙門天は宣った『これ以上、教えられることはない』と。

しばらくして聖白蓮をはじめ、主だった同僚は封印されてしまった。

主従二人だけになって数週間後、僧服の小柄な男が訪ねてきた。

旅の行者だと名乗ったが、明らかに人間ではなかった。

用向きは、毘沙門天から頼まれ寅丸星の稽古相手をしにきたのだと。

女性の主従二人は半信半疑だったが、行者がネズミの従者に向かって何か呟くと彼女は直ちに承知した。

聖達がいなくなり鬱屈していた寅丸には良い気晴らしになるか、程度で受け入れてみた。

が、この人外の行者は途轍もなく強かった。

この時点で武芸者としてかなりの域に達していたはずの寅丸星が完全に子供扱いだった。

星の生活は一変した。

日のあるうちは行者と稽古、日が落ちてからはナズーリンと経典をひもとく。

空いた時間は掃除、洗濯、炊事と忙しく動き回る。

異形の行者の指南は常に実戦的だった。

一対一、一対多、多対一の戦い方、誰かを守る戦い方、とどめの刺し方、不利な状況のしのぎ方、手加減の仕方、逃げの打ち方、それらの心得を分かりやすく説き、具体的なコツをたくさん教えてくれた。

並の武人では理解できないような高度な教えも寅丸星は乾いた砂地に水をかけるように余すことなく吸収した。

普段の生活ではポワポワ穏やかなのに、武術に関しては研澄にして苛烈。

教えがいのある弟子を気に入った猿面の行者は次々と武術の神髄を伝授した。

その全てを間違うことなく受け取る寅丸星の武芸の格は尋常ではない勢いで向上していった。

半年ほど経った頃、稽古の終了を告げられた。

去り際、半泣きの寅丸星に猿面の行者が穏やかに語った。

『所詮は傷つけ殺す技能だが、いつの日かその力が役に立つだろう。

オマエはその力の使い方をワシのように誤ることはあるまい。

いつも自分の力を厭い、迷っていたからな。

オマエは心底、諍いや戦いが嫌いなのだろう。

それでもこれほどまでの強さを身につけた。

自らの武に酔うことがなく、他者を思いやれる。

とても希有な武人だ。

いや、うむ、武人として括っては何かもったいない。

ただ強いだけの実在とは違ったもっと別の在り方だな。

……うまく言えんがな。

だが、これだけは言える。

オマエが先に生まれていたなら、ワシは弟子入りしていただろう、ハハハ!

ワシは石猿ゆえか、生まれてこの方、女色にも男色にも興味はないがオマエは側に置いておきたいな。

おっとと、あの従者がものスゴい顔で睨んでおるな。

諦めるといたそうか、ハハハ!

オマエは誠に筋が良い、知りうる限りの誰よりも、このワシよりもだ。

あと千年ほど、たゆまず鍛錬すれば免許皆伝をくれてやろう。

……と言ってもワシ、流派何ぞ開いてなかったがな、ハハハ!

まあ、その時は互角の勝負ができるかも知れんぞ?』

後半は茶目っ気たっぷり。

だが最後には真面目に、力強く告げる。

『寅丸星、いつか、オマエの【力】が及ばない時が来たとしよう。

その時、さらなる【力】を欲するならば、ワシを呼べ。

天に向かってワシを呼べ!

必ずや駆けつけて助勢してやろうぞ!』

そう言って去っていった。

とてもイカした登場と退場だったのだが、今にして思えばちょっとだけ【すっぽ抜け】感があった。

あの師匠、最後まで名乗らなかったのだ。

そして、この弟子は最後まで名を訊かなかったのだ。

細事にこだわらない斉天大聖様らしいし、特盛り鷹揚な寅丸星らしいのだが。

ある意味で相性抜群の師弟だったのかも。

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