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ナズーリン! 魂魄つばめ返し!(10)

「つまり、ご主人様は斉天大聖様の加護も受けているのだよ。

そんな訳で師匠筋はかなり良いと思う」

いやいや、かなりとか言う水準じゃない

そんなトンでもない師匠(武神)達に太鼓判を押されている目の前の武人。

【とても強い】そんな一言で表せるレベルではない。

こんなヒトから一本でもとれるのだろうか?

妖夢は目標のあまりの高さに泣きたくなってきた。

心がひしゃげそうだった。

指導役の寅丸は昔のことを思い出してか、ぷちぷちツブヤきながらポケーっとしている。

代わってネズミの従者が解説する。

「突き技は毎日千回、千年繰り返してきた。

必殺の気を込めて全力で。

事情があって稽古できない日もあったが、少なく見積もっても三億回以上だ」

短い生の人間が到達できる稽古量ではない。

「一般的に武芸の技や型は二千回をもって【鍛】と呼ばれるね。

そして二万回で【錬】となる。

では、三億回なら何というのだろうね?」

そんなこと想像もできない。

【錬】の一万倍以上、それほど研ぎ澄まされた【突き】だったのだ。

それを何度も受けたのだ、いや、受けさせてもらったのか。

「基本を繰り返しながら、あらゆる場面を想定した独自の型、戦術を編み出す工夫をした。

千年の間ずーっとだよ。

私も驚いている。

真面目と言うか、一途と言うか、こんなこと【バカ】でなければできない」

妖夢は気が遠くなりそうだった。

寅丸星が途轍もなく大きく見える。

越えられない大山脈のように。

「強い意志と確かな想いを持って千年間やり続けているんだ。

これこそが正に【バカ】だ。

もちろん良い意味で言っているのだがね。

……ん? ご主人様? 今、なんとおっしゃった?」

それまで宙空をさまよっていた毘沙門天の代理の視線は、従者に向けられていた。

こわばった表情で何か言っている。

「ご主人様、どうなされた?」

「バカって言った」

「は?」

「バカって言ったぁ」

寅丸の口が【への字】になっている。

忙しなく瞬きしている。

「ナズが私のこと……バカって言ったぁ」

声が震えている。

目が潤んできた。

「ちょっと待って! 今言ったように、これは良い意味での表現だよ!?」

「私、ホントに間抜けでトンマでバカだけど……

ナズだけは、この世でナズだけはバカって言わないって信じてた……」

「ち、違うんだよ、ねえ、分かっているんだろ?

一つのことに懸命に取り組む姿勢、そしてそれが実を結んだとき敬意を込めて【バカ】と呼ぶことがあると!」

「私、誰に言われても平気だもの。

だって、ホントにバカだから。

でも、でも、ナズだけは言っちゃダメだもん……やだもん……ひっく」

妖夢にとって偉容を誇っていた山脈が見る見る縮んでいく。

そして、小さな駄々っ娘がムジムジしているだけになった。

「強くなりたいから頑張ったのに……

ナズのために強くなろうと頑張ったのに……

毎日毎日、ナズを想って修行したのに……

どんな時でもどんな相手でも絶対にナズを守れるように強くなろうって修行したのに……

それなのに、うぎゅ……それなのにぃ!

ナズが、ナズが、バカって言ったー!! うぐぐぎぎぎぃ!」

「星! ちょっと落ち着いて!」

「ナズのばかあーー! うわあーーーん!」

爆発した。

千年を経た大武芸者が人目もはばからず、べーべー泣きはじめた。

妖夢はこのギャップに全くついていけない。

行者様=斉天大聖様の事実を知らされ混乱しているところへ最愛、最信の恋人からの【バカ】呼ばわり。

無敵のはずの武人の心はいともあっさり壊れてしまった。

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